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十八話 野営地の戦い

ミスリルパーティーの上級呪文を皮切りに、オークの野営地への奇襲が開始された。

頭を潰されたオーク達は冒険者の奇襲に全く対応できずにいる。


班に配属されているギルドの武装職員の指示通り、俺とノーラとサクヤは三人一組で他の前線を担当する冒険者たちと共に、奴らを東へと潰走させるための前線を形成して確実にオーク達を野営地から東へと追いやりつつあった。


「グオオオオ!」

「フン!」

「ゴバッ…」


天幕から焼け出され、半分火に包まれながらこっちに突っ込んできたオークを盾で殴りつけ、剣で叩き斬る。


「フハハハハ!逃げろ!怯えろ!<炎の矢(フレイム・アロー)>!」

「アタシの矢からは逃れられないよー!」

「大丈夫ですか?治療します<軽傷治療(キュア・ウーンズ)>」


リーゼとリリウムとルッカはその後ろで他の魔法系クラスやサポート系クラスの冒険者たちと後衛を担当し、前線の奥へと攻撃呪文や矢を放って混乱を拡大させたり、疲弊したり負傷して下がってきた前線要員を回復している。


「ヒィー!」


野営地を右往左往しながらこちらにやって来て、俺を見た途端逃げ出そうとしたオークの足を払って倒す。


「プギィイイイイイ!ー…プギャ!」


それでも這って逃げようとするオークを背中から踏みつけ、心臓に剣を突きたてた。

逃げる敵は余計な手間がかからず処理が楽でいい。いつだってこう楽が出来ればいいのだが。

オークは蛮勇を持ち合せているが、勇敢ではない。頭を潰され、混乱した今の状況では碌に抵抗も出来ないだろう。


「えい!」

「…<旋風突き>」

「グオッ!」


右を見ればノーラとサクヤも順調にオークを倒している。

ついた返り血が彼女達に艶めかしい雰囲気を付加していた。


「スイッチ!」

「おう、任せろ!」


左を見れば相乗りしていた四人組の冒険者がオークを倒している。

彼らは盾役と槍持ちが二人ずついて、盾役と槍役が上手く連携を取りながら戦っていた。

危なそうなら手伝ってやろうと思っていたが、余計なお世話だったようだな。


オークたちの混乱は収まらず、『黄昏の詩』の誘導が無くともこのままオークは潰走するかに思われた。

が、そう上手くはいかないのが戦場の常だ。


「武器ヲ持テ間抜ケドモ!」

「隊列ヲ組メ!逃ゲタラ殺ス!」


野営地の奥で、巨大な猪に乗ったオーク達が混乱を収めつつあった。

最初の攻撃でオーク指揮系統の上位を潰したが、やはり指揮系統の全てを潰せたわけではなかったようだ。

ギルド職員の判断を待つまでもない。今すぐ、ここで、あれは粉砕しなければならない。

事前に武装職員へ確認したが、この作戦はギルドが提案する作戦に冒険者が協力している形を取っている為、厳密な指揮系統は存在しない。

ならば、今ここで俺が周囲に指示を出しても問題はないはず。


「後衛ー!こちらに注目せよ!!」


急いで前線から下がって振り返り、剣を掲げ、出せる限りの声で周辺の後衛の注意を引く。

十分に後衛がこちらの目をむいた所で、剣でオークの騎兵集団を指し示す。


「後衛各員、全力であの騎兵集団を攻撃しろ!」

「何の権限があって指示を出している?」


後衛の中からローブを来た男が出てきた。


「必要だから指示を出している」

「だから何の権限…」

「いいか、あそこを見ろ。あれを放置すれば、あと数分もしないうちに態勢を整えたオークと猪騎兵がこっちに突っ込んでくるぞ!今は奇襲で優位に見えるが、数は未だ向こうが上だ。突撃を防ぎきる厚みがこちらにはない。それともお前、俺達を突破して来たあいつらと正面切って戦いたいのか?」

「いや、それは…」

「分かったらさっさと呪文の準備をしろ!」


男は渋々といった体で隊列に戻って行った。少々きつく言ってしまったが今は寸暇が惜しい。

男を追い出してから後衛を見ると、もう少し時間がかかると思っていたが、弓系クラスと魔法クラスの冒険者たちの準備が既に整っていた。


「我とルッカで皆に指示を回した」

「後はカイルの号令だけだよー」


後衛にいたリーゼとルッカが周囲の冒険者を説得して回ってくれていたようだ。

有難い。あとは指示を出すだけだ。


「目標、野営地後方の騎兵集団!弓兵、構え!」


俺は剣を掲げ、冒険者たちの弓がに引き絞られる。


「放て!」


騎兵集団に向かって振り下ろした剣を合図に、一斉に放たれた矢が態勢を整えつつあったオーク達に降り注ぐ。


「ギャー!」「プギィー!」

「隊列ヲ崩スナ!」


再び混乱し始めたオーク達を騎兵が鎮めようとしている。まだだ。もう一撃だ。


「呪文、用意!」


魔法系クラスの冒険者たちに向かって剣を掲げると、彼らが魔導書と杖を構えた。


「放て!」


再び振り下ろされた剣を合図に、放たれた各属性の魔法がオークの集団に降り注ぐ。


「プギィイイイイ!!」

「逃ゲルナ、戦エ!逃ゲルナ!」


騎兵の元に集まりつつあったオーク達が逃げ出し始めた。

よし、矢と魔法の一斉射でオーク達の統制を破壊する事に成功した。

騎兵たちも騎乗している猪が魔法と矢で興奮して散り散りになりつつある。

これであの騎兵たちがこの戦の間に、部隊の統制を取り戻す事はないだろう。


「協力に感謝する。持ち場に戻ってくれ」


俺は軽い礼を後衛にしてから、前衛に戻った。



それから前衛でノーラとサクヤと共に戦い、周辺のオークを全員始末したタイミングで、こちらへオークの猪騎兵が三騎突っ込んで来た。こちらが疲弊した隙を突破して森へと脱出するのが狙いだろう。


「ノーラ、騎兵を止めるぞ!」

「分かった」


ノーラが魔導書を用意する間に剣を納め、その辺りに落ちていた槍を拾い投擲姿勢を整える。


「<聖なる槍(ホーリー・スピア)>!」


ノーラが魔導書から放った四本の光の槍が騎兵に向かって飛翔する。


「グギャ!」「グアッ!」


光の槍は猪ごと二騎のオークを貫くが、まだ一騎がこちらに突撃してくる。


「後は任せろ。少し離れていろ」

「分かったわ」

「…分かった」


ノーラとサクヤを騎兵の進行方向から離してから槍を構え、猪に狙いを付けた。

騎兵に槍を避けられないようにギリギリの距離までこちらに引きつける。

俺と騎兵の距離が十メートルを切ったその瞬間、全力で騎兵に槍を投げつけた。


「お…らあっ!」


投げた槍は狙い通りに猪の眉間へと突き刺さった。

だが猪に乗っていたオークは猪が崩れ落ちる直前に跳躍すると、上手く地面に着地し勢いをそのままこちらに突っ込んできた。


「オオオオオ!」


オークが叩きつける勢いが乗った鉄斧を盾で受ける。そのままオークはスピードが乗った体も盾にぶちかます。


「ぐっ!」


勢いとオークの巨体との質量差か、その衝撃で俺の体が吹き飛び、剣と楯を手放しながら俺は後ろに倒れこんだ。


「カイル!」


オークに引き倒された俺を見たノーラの悲鳴が聞こえる。倒れ込んだ俺の上に馬乗りになって鉄斧を振り上げたオークは、勝ち誇った笑みを浮かべている。


「俺ノ勝チダ!」

「それはどうかな?」

「死ネ!」


オークが鉄斧を俺の頭めがけて振り下ろした。俺はそれを上半身を左に捻ってかわす。

そして、右腰のベルトからかわしながら引き抜いた短剣で、オークの喉を下から突きあげた。


「ゴボッ!」

「勝鬨は敵を殺してからするんだな」


短剣を捻る。俺の顔面にオークの血が振りかかる。


「ゴボボボ…」


喉を引き裂かれて、俺の上半身に盛大に血をまき散らしながらオークは死んだ。

倒れこんでくるオークを脇にどかしながら立ち上がる俺にノーラとサクヤが駆け寄ってくる。


「大丈夫カイル?」

「ああ大丈夫だ」


呪文で水を出してくれないか、ノーラにそう言おうとしたその時、戦場に音楽が響き始めた。

その音楽を聞いているとステータスが上昇したような感覚がしてくる。

一方のオーク達は、音楽が不快なのか耳をふさいでいた。

これがバードのスキルか。


「『黄昏の詩』だ!」


近くの冒険者が森を指差しながら叫んだ。

野営地周辺の森から、笛を吹く吟遊詩人と巨大な盾と斧を構える完全武装の重戦士の二人組が複数現れ、野営地へと行進を始めていた。


「「俺たちは勝利を運んできた!戦士たちよ今一度力を奮い起せ!」」


重戦士たちが武器を盾に打ちつけながらそう叫ぶと、バードのスキルが発動した時と同じようにステータスが上昇した感覚がした。

オーク達は完全に重戦士達を見て震えあがっている。これもウォーロードのスキルだろう。


「「突撃ぃー!」」


重戦士達の合図で奇襲部隊の冒険者たち全員がオーク達を今までの倍以上の勢いで追い立て始める。

ここにオーク達の士気は完全に破壊され、雪崩を打つように東へと潰走を始めた。


「作戦は成功だな」

「…皆を追わないの?」

「大勢は決まった。その前にこの血を洗うくらいはいいだろ?」


ノーラが呪文で生成してもらった水で、盛大に浴びた血を洗い流しながら俺はサクヤに言葉を返す。

放置すれば勝手に綺麗になるとはいえ、オークの血はそのままにしておくには気持ち悪すぎた。

リーゼ、リリウム、ルッカは追撃部隊に参加したためここにはいない。


「次はこのままオークの後ろから追い立てて、伏兵と挟み撃ちにするんでしょ?」

「そうだ。そしてオークを囲んで一匹残らず倒す。中盤が終わったって所だな」


オークの組織的な抵抗はもう殆ど無いだろうが、まだ戦が終わったわけではない。

オークの血を綺麗に洗い流した俺は、他の冒険者たちと合流しオークを東へと追い立てて行った。

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