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十六話 偵察

次の日。

俺は早朝に剣の鍛錬と神社の清掃を済ませると、時折時子の家事の手伝いをこなしながら、時子に貸してもらった機械で調べ物をしていた。

この板状の機械は優れ物で、俺の質問に対する答えを機械に内蔵された記憶もしくは「通信」という技術で別の所から探してきてくれる。

俺がこの機械に質問しているのは、この世界の伝承、伝説、神話についてだ。


「人狼、狼人間、ウェアウルフについて説明しろ」

「了解しました。…データベースから抽出完了。表示します・・・・・」


俺は機械に表示されていく内容に真剣に目を通す。なぜこのような事をしているのか?

理由は、俺がSMOに出てくるモンスターに大した違和感を覚えなかったからだ。

元いた世界のゴブリンやオークとは細かい容姿に違いがあり違和感はあったが、全く別の種族とは思わなかった。亜種だろうか?程度の違いにしか感じなかった。

SMOの世界は、この世界に存在する伝説と神話と創作をごちゃまぜにして構成されている。

本来、そんな世界に存在するモンスターを見て、俺が違和感を覚えないのはおかしいのだ。


この機械で半日調べてみたが、結局の所どうなっているかは分からなかった。

伝承や伝説や神話に出てくる逸話、モンスター、神格について俺のいた世界のものと共通しそうな部分もあれば、全く違う部分もあり、人の想像が偶然に一致したのか、俺の世界との関わりを示すものなのか、歴史学者でも神学者でもない俺には見分けがつかない。

俺の仲間で、本の虫で教養があった聖騎士のファブリスや、聖女のマリエルなら喜々としてこういった文献から何かを見つけ出すだろうが。

俺からすれば色の付いていないパズルピースを組み合わせろと言われているようなものだ。


ついでに魔王が俺を飛ばす前に、自分の配下を日本に送り込んでいる可能性も考えたが、この機械からはその可能性を示唆する様なニュースや情報は見つけ出せなかった。

大本の魔王は潰したのだから、仮にいたとしてもそいつらが指示なしに大した事を出来るとは思えない。

まあ万が一、そいつらが大きな事を起こしても、俺が完全装備で始末しに行けばいいだけの事だ。

特に大きな事が起こるまでは、元いた世界から迎えが来るまで時子の家でのんびりと過ごせばいい。俺はそう結論付けた。




         ※




夜に再びログインした俺とノーラと電子遊戯同好会の面々は、鉱山都市シエフィルトの冒険者ギルドで掲示板から依頼を探していた。


「ねえカイル、張られてるのがなんかオーク関連の依頼ばっかりじゃない?」

「そうだな。オークに関わる依頼が多い」


俺はノーラの意見を肯定する。都市や村の間を行き来する馬車の護衛依頼に、村の近くに出没したオークの討伐依頼、平原に野営するオークの撃退依頼。掲示板にはそのような依頼が大量に張られていた。

実際、俺たちもここに向かう途中でもオークの一隊に襲撃された。


「この地域でオークの集団が発生しているのかもしれないな」

「あの、この依頼を受ければその仮定が本当かわかるんじゃないでしょうか」


リリウムが一枚の依頼を指し示す。


臨時依頼 依頼内容 偵察

推奨ランク シルバー(要偵察クラスの冒険者)

鉱山都市東方の森林調査

報酬 金貨十枚

期限 八日間


「他の依頼見る限り、この森がオークの発生源っぽいね。アタシが偵察感知のスキル持ちだからこの依頼受けれるよ」


ルッカの言う通り、オーク関連の依頼を纏めると、鉱山都市から東にある森に接している街道と村から出されている場合がほとんどだ。


「しかし、討伐依頼や護衛依頼の方が相場がいいぞ。資金に余裕がないのだからわざわざそちらを選ぶ必要はないんじゃないか?」

「…農村に出たオークの討伐依頼の方が報酬がいい」


リーゼの指摘通り、サクヤが指し示した依頼は偵察依頼より報酬が高い。

昨日仕留めたオークの素材はゴブリンの素材よりも高く売れたが、次のランクを目標に全員の装備の更新を考えれば金はいくらあっても足りない。


「ノーラ、偵察任務は他のパーティーに任せて我らは割の良い依頼を受けないか?」

「私はそうは思わないわリーゼ。なんていうのかしら、今この状況が一種の「流れ」になってると思うの」

「流れ?」

「SMOは運営の多くを自動生成アルゴリズムに頼ってるけど、複数の監視AIやGMである各地の冒険者ギルドのギルドマスターが手動で管理している部分もあるのよ。それを前提にしてここを見て」


ノーラが依頼票に書かれた偵察依頼の依頼主を指さす。そこには冒険者ギルドが依頼主と書かれていた。


「この周辺でオークが大量に目撃されてて、その状況でギルドから出される怪しい場所の依頼。気にならなない?」


ノーラが言いたい事が分かってきた。


「ノーラはここを偵察したら確実に何かがあると思っているのか」

「そういう事」


昨日取り逃したオークの指揮官が消えて行ったのも東の森だ。

個人的な経験則からいうと、おそらくノーラの予想は正しい。


「俺もノーラの意見に賛成だ。あの森を調べておきたい」

「じゃあこの依頼を受けましょう。皆もそれでいいよね?」


ノーラの問いに俺を含め皆が頭を縦に振る。

鉱山都市で始めて受ける依頼が決定した。




          ※




俺たちはフィールドに点在するセーフポイントの内森に最も近い地点へ、冒険者ギルドでプラトーバードを六匹借り、それに騎乗して向かった。


挿絵(By みてみん)


全員に騎乗の覚えがあるのは意外だったが、俺がSMOに参加する以前に皆でロントの冒険者ギルドで騎乗講習を受けたからだった。

ルッカを先頭に警戒しつつ、鬱蒼とした森を進み始めてもう一時間が経過している。

既に数体のオークと遭遇しており、上手くやり過ごせる場合はやり過ごし、発見されそうな場合は俺とルッカの弓でオークを始末した。

この森の先に何かがあるのは確実なようだ。


「地図だともうすぐ森を抜けるわ」


後衛のノーラが地図を開きながら前衛のルッカと俺とサクヤに伝えてくる。

前方の森が明るい。あの先は森の外だろう。


「俺とルッカで森の先を見てくる。サクヤと皆はここで待機してくれ」

「…分かった」


サクヤは重装寄りの中装備だ。何かあった時に軽装寄りの中装備の俺と、軽装備のルッカについてこれない可能性がある。


「ルッカ、引き続き先導を頼む」

「おまかせ―」


二人で身をかがめ、慎重に森の淵へと進んでいく。一足先に森の外を見たルッカの耳がピンと立った。

ルッカが興奮した動作で後ろの俺を手招きする。俺も茂みから森の外を覗く。


「これは大当たりだな」


そこは森に囲まれた小さな平原で、平原には大規模なオークの野営地が出来つつあった。

平原には複数の天幕が張られ、そこに周辺地域から略奪したと思われる戦利品が集積されている。

野営地では集団で戦闘訓練を行う集団や、武器を製造している集団も見えた。

巨大な猪に乗ったオークが複数いて、オーク達が作業や訓練をサボらないように監視している。

監視するオーク達の腰には角笛があった。

鉱山都市周辺のオーク被害はここが原因とみて良いだろう。


「これ、アタシ達の手に負えなくない?」


ルッカが耳をピクピクさせながら小声で聞いて来る。


「おそらく、ここにオークの上位種がいてこの集団を統率している。勝つにはこちらにもっと人数が必要だ。ここは撤退しよう」


俺とルッカはオーク達に気付かれないよう慎重に森の淵から離れ、皆と合流した。


「ねえ、二人とも森の先には何があったの?」


皆と合流するとノーラが何を見たか聞いて来た。


「平原の端から端までオーク、オーク、オークの山だったよ」

「結構規模の大きい野営地があった。あのまま一月も放置すれば、オークの軍隊が周辺を荒らし始めるだろうな」

「我らは偵察任務は十分こなしたと思う。ノーラ、途中で始末したオークの斥候が帰還しない事を、野営地のオークに気付かれる前に森を出たほうがいいぞ」

「そうねリーゼ。今すぐ撤退しましょ」


俺たちはセーフポイントへ向けて撤退を始めた。


「ノーラ、カイル、これってこの後どうなるんですか」


一人要領を得ていないリリウムが俺とノーラ尋ねてくる。


「国軍が投入されるか、冒険者が投入されるかは知らんが、ここでひと戦始まるんじゃないか?」

「誰かが依頼か偶然でここのオークを発見するのは、運営は想定済みでしょうね。多分、私たちが帰って報告したら、現実時間で明日の夜に、複数のパーティーによる討伐イベントが開催されると思うわ」

「それって、私たちも参加するんですか」

「当然に決まってるでしょ」

「ええ~」


俺たちはその後セーフポイントまで無事に撤退し、プラトーバードで鉱山都市の冒険者ギルドに駆け戻った。

ギルドのNPC職員は俺たちの報告を重要な物として受け取り、オークの野営地襲撃を明日の現実時間午後六時から開始するという告知を張り出した。

襲撃参加資格はスチールランク以上、報酬は一人当たり金貨十枚に加えて戦果に応じた報奨金が出るようだ。


俺たちは明日の野営地襲撃の参加手続きを済ませてからログアウトした。

明日は大きな戦闘になるだろう。

リリウムとルッカの現在のステータスです

読まなくても問題はありません


リリウム ドルイドLV10 ハイ・ドルイドLV2

種族 ハーフエルフ


習得済みスキル

回避モーション補正Ⅱ SP回復増加Ⅲ

呪文ストック消費SP軽減Ⅱ 魔法範囲増加Ⅲ

魔法威力上昇Ⅱ


装備品

武器

ウッドスタッフ(木製)

魔導書 『大地の秘儀』


装備品

衣服 無し

頭 エルフの花冠(木製)

胴 ドルイドのローブ(布製)

腰 ドルイドのスカート(布製)

腕 ホワイトグローブ(布製)

足 ドルイドのロングブーツ(布製)

装飾品

エルフの外套




ルッカ ローグLV10 レンジャーLV2

種族 獣人(猫)


習得済みスキル

回避モーション補正Ⅰ

攻撃モーション補正Ⅱ

追跡Ⅱ 鍵開けⅡ

探知Ⅱ トラップ解除Ⅱ

隠密Ⅰ


装備品

武器

盗賊の短剣×2(鋼鉄製)

ショートコンポジットボウ(木+モンスター部位製)

スチールアロー×25


防具

服 盗賊装束

頭 無し

胴 ブラックレザーアーマー(革、鋼鉄製)

腰 盗賊のショートパンツ(革、鋼鉄製)

腕 ブラックレザーグローブ(革製)

足 無し(獣人の脚)

装飾品 

盗賊のスカーフ(布製)


盗賊装束、盗賊のショートパンツ 盗賊のスカーフ 盗賊の短剣

それぞれPERとAGIに若干の補正

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