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十四話 山賊の砦その二

カタパルトで射出された俺は砦の中庭に突入することに成功した。

周囲にいる山賊たちに告げる。


「周囲は騎士隊と俺の仲間がが包囲している。今降伏すれば、命だけは助かるかもしれんぞ」

「う、うるせえ!」


城壁の上から山賊が矢を射かけてきた。防ぐために盾を持ちあげるが、矢は盾に触れる直前、何かに阻まれるように弾かれた。

矢避けの防護プロテクション・フロム・アローズ>の効果だろう。

周囲の山賊がそれを見て狼狽する。


「ま、魔法だ!」


山賊たちに魔法に対する備えはないようだな。山賊の装備は汚い服に革鎧を纏い、砦から持ちだした武器を持っている。武器だけはマシに見えるが、砦にあるはずの騎士の鎧は付けていない。鎧を着こなすだけのの筋力がないのだろう。

傭兵崩れや脱走兵の盗賊団ではなく、村や街の食い詰め物が賊になった集団だな。

山賊が大した強さではないというアルバンの見立ては正しかった訳だ。


「うろたえるな!あれは剣には効果がねえはずだ!」

「お、おらっ!」


中庭にいた一人の山賊が切りかかってくる。随分腰の入っていない攻撃だ。


「ふん!」

「あっ…」


山賊が振り下ろす剣を俺が盾で弾くと、剣はすっぽ抜けてあさっての方向に飛んで行った。


「た、助け…」

「言うのが少し、遅かったなッ」


命乞いをしながら後ずさる山賊の頭に剣を振り下ろす。

剣は骨も革鎧もバターのように切り裂いた。


「ガッ…」


山賊は頭から股間までを綺麗に裂かれ、真っ二つになった。

うん、良い切れ味だ。

人間は意外と硬いから、なまくらでこれをやると下顎の歯で刃が止まったりするんだよな。


「うわっ!」


真っ二つになった山賊をを見て、俺を取り囲もうと動いていた山賊が一斉に後ずさった。

今のを見て、少しはこちらの話を聞く気になっただろうか。


「お前らには今、三つの選択肢が残っている。聞きたいか?」

「い、言ってみろ」

「一つ、俺から逃げ出して外にいる騎士や俺の仲間に殺される。二つ、俺と戦ってコイツのようになる。三つ、武器を捨てて降伏する。この三つだ」


山賊たちに選択肢を提示し、彼らをぐるりを見回して反応を見る。

彼らは互いの顔を不安そうに見合わせながら話し合っている。


「おい、どうするよ…」

「こいつの言う通り、降伏したほうがいいんじゃねぇか…」

「いや、武器を捨てて門を開けたら外の奴らに皆殺しにされるかも」

「じゃあこいつと戦って勝てるのか?お前行けよ」

「馬鹿言うな。リバスの二の舞にはなりたくねえよ」


もう一押しといったところか。


「あと十秒待ってやる。数え終わるまでに決めないと殺す。一、二、三、四…」

「分かった!武器を捨てる!だから…」

「その男に耳を貸すな!」


砦の監視塔から一人の男が中庭に出てきて叫んだ。

その男はアルバンの装備の質を一段階落としたような鎧を着ている。

こいつが例の裏切り者か。


「今は抜け出せないかもしれない、だが夜陰に乗じれば…」


裏切り者は山賊を説得しようとしているようだ。


「残念ながら、それは無理だな。今、外で破城鎚を作っている所だ。もう少しすれば門が割れてお前らは終わりだ」

「う、うるさい!出まかせに決まっている!」


男は口から泡を飛ばしながらわめきき散らす。

血走った目から察するに、冷静な判断が出来る状況ではなさそうだな。

面倒だな、斬るか。

俺がその男に向かって進むと、山賊たちが割れるように進行方向から飛びのいた。


「な、何だ」

「お前がいると交渉が面倒だ」


個人的にも丁度この男に殺意が湧いていた所だ。

元いた世界の対魔王連合軍にもこの手の輩は一定数いて、摘発され次第木に吊るされていた。

軍の物資と財産を横流しにするどころか、護るべき拠点を明け渡すとは兵の風上にもおけん奴め。

まったく、ゲームの世界でもこの手のクズの処理をする破目になるとはな。


「き、騎士とや、やろうってのが冒険者風情が」

「元騎士だろ。元、が抜けてるぞ」

「野郎!」


男が剣を抜き斬りかかって来た。男が繰り出す剣を盾で受ける。

流石に、素人崩れの山賊とは剣のキレが違うな。

だが十数合斬り合う内に底が見えて来た。

金に目がくらんで裏切る男の剣など、所詮はこの程度だ。

さらに十数合斬りあう内に男の顔から余裕が消え、額に汗が噴き出してきた。

息が上がって来た男を挑発する。


「余裕がないようだが、大丈夫か?」

「だ、ま、れええええ!」


激昂した相手が振りおろす剣に合わせて剣を斬り上げ、篭手ごと剣を持つ右腕を斬り飛ばす。

そしてそのまま返す刀で両膝を切り落とした。


「ぎゃあああああああ!!」

「そこで転がっていろ」

「う、うでとあし、あしが」


男は必死に止血しようと地面をもがいている。じきに失血死するだろう。

死ぬまでの間、せいぜい自分の行いを反省するといい。

これで障害は排除した。剣を一番手近にいる山賊に向ける。


「おい、そこのお前」

「ヒィッ!」

「門を開けに行け」

「ヘイっ!」


指示した山賊は全速力で門に向かった。


「他の奴は武器を捨てて中庭に集まって来い。両手を壁に当てて大人しくしていろ」




          ※




俺は砦の中に来た仲間達と合流した。

中庭では突入してきた騎士と兵士たちが山賊を縛り上げている。


「カイル大丈夫?ダメージはない?」

「本当に大丈夫ですか?」

「心配しなくても、怪我ひとつしてないさ」


ノーラとリリウムが俺に怪我がないか確認してくる。


「いやー、凄かったねえ。カイルがカタパルトからビョーンって飛んで行ったの」

「結構楽しいぞ。ルッカもやるか?」


落下の衝撃は問題なかったのだから投射角度を斜め45度じゃなくて、山なりにすれば割と楽しめると思う。


「い、いやあ、よしとくよ。あはは…」

「…私やってみたいかも」

「サクヤ!?」

「意外だな。サクヤはこういうの興味がないと思っていたぞ」

「…興味がないなんて言った事ない」

「カイル殿ー!」


山賊を拘束し終えたアルバンがこちらにやって来た。


「カイル殿のおかげで死者も砦の被害もなく砦を取り返せた。本当に感謝の言葉もない…!」


俺はアルバンが差しだす手を握り返しながら、言葉を返す。


「俺の無茶な提案に乗った隊長殿の判断と、仲間達の呪文のおかげですよ」

「謙遜なされるな。しかし、あいつは生きた形でロントに連行し軍法の裁きを受けさせたかった」


アルバンが庭の隅に掛けられた布を見ながら言った。

あの下には裏切り者の死体がある。


「ガリス王国の軍法では物資の横流しと反逆罪はどうなっているので?」

「当然縛り首だ」

「それならば、手間が省けたと思えばよろしいのでは?隊長殿」

「同感だが今は一応平時なのでな。そういう訳にもいかんのだよ。それにしても賊の制圧の仕方といい、死体の斬り跡といい、カイル殿は人相手に戦の経験が?」

「まあ、そんなところです。ちょっとした隊も率いた経験があります」

「どうりで。手慣れているのだな。今回は本当に世話になった」

「我々はあなた方が治安を維持する道を利用している。お互い様ですよ」

「そう言ってもらえれば有難い。おっと、急ぎの旅の途中だと忘れるところだった」


アルバンが俺に懐から取り出した革袋を差しだした。


「それでは、約束通り礼金を。銀貨で申し訳ないが五十枚を受け取って欲しい」

「リーゼ受け取れ」

「えっ?」


出納係のリーゼにアルバンから受け取った銀貨の入った袋を投げる。


「今回は殆どカイルの手柄なんだけど、パーティーの利益として計算していいの?」


ノーラが聞いてくる。


「三人の呪文が無ければ成功しなかったんだ。これはパーティーの利益だろ」

「カイルがそう言うのなら貰っとくわ」

「ノーラが貰うと決めたのなら、我からは言う事はない」


リーゼが袋をインベントリにしまった。


「臨時クエストも終わったし、皆馬車に戻ろう」


砦を出て丘を下り街道の馬車に戻るノーラに俺たちも付いて行く。

丘を下っていると、後ろからアルバンの声が聞こえてきた。


「各員、冒険者に敬礼!」


振りかえると城壁の上に騎士と兵士がずらりと並び、右拳を胸に当てている。

あれがガリス王国の敬礼方法なのだろう。

俺は右拳を胸に当てて敬礼を返してから、馬車へと向かった。


その後は特にトラブルもなく、セーフポイントへと到達した。

セーフポイントは四方を石柱で囲まれた広場で、俺たちの他にも野営する駅馬車が幾つかある。

俺たちは再びログインするまで御者NPCが過ごせるように、野営の準備を整えてからログアウトした。

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