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十三話 山賊の砦

SMOにログインした俺とノーラは先日と同じく冒険者ギルドで電子遊戯同好会の皆と合流した。

俺たちが旅の買い出しに行っている間に、リーゼが冒険者ギルドで都市間を往復する駅馬車を一台、御者NPC付きで借り上げた。

今はその駅馬車に乗って鉱山都市目指し、のどかな平原を通る街道を進んでいる。街道は敷石で綺麗に舗装されており、馬車に組み込まれた衝撃を緩和するスプリングも合わさって旅は非常に快適だ。

その馬車の中で俺たちは、この世界のトランプという札でゲームに興じていた。

今やっているのは七並べという数の順番にカードを並べるゲームだ。


「我はこれで上がりだ」


最初にリーゼが上がる。


「上がりです」


次にリリウム。


「これで上がりっ!」


ルッカ。


「…終わった」


サクヤ。


「俺もこれでアガリだ」


そして俺。


「あーまた負けたー!」

「ノーラってリアルでもトランプ弱いよねー」

「ぐぬぬ…」


この世界の札遊びに慣れていない俺にすら勝てないノーラのカード運は壊滅的だ。


「運が絡むゲームでノーラが勝ったの見たことないです」

「交易都市にはカジノがあるらしいが、出納係としてはカジノに行くならノーラは留守番にするしかあるまい」

「それはないよリーゼ!」

「それならポーカー、ブラックジャック、七並べでそれぞれ十連敗したのはどういう事か我に説明したまえ」

「うっ」

「ノーラは賭け止めた方がいいな。金を掛けたら丸裸にされそうだ」

「もうカイルまでー!」

「それにしても、歩いて次の目的地まで行くと思っていたんだが、こんな快適な馬車が使えるんだな」


車内に据え付けられたソファーに背中を預ける。最高の居心地とまでは行かないが、たまに下から突き上げが来る馬車で、板張りの座席に座るのと比べれば天国と地獄だ。


「冒険者は割安で駅馬車を利用できるの。なんたって乗客が護衛要らずだからね」


ノーラが駅馬車の料金システムについて説明する。

駅馬車は本来ならば別に護衛を雇う必要があるため割高だが、冒険者が借りれば護衛代が浮く。そのため俺たちがログアウトしている間セーフゾーンで待機する御者の食費を考慮しても、一般人が駅馬車を借りるより安くなる計算だ。

冒険者向けの馬車の中には簡素ではあるがソファーとテーブルが置かれ、くつろげるスペースが用意されていた。

本来積まれているべき野営の道具や食糧や水は全て各自のインベントリに突っ込んである。

だからこそのこの快適な空間だ。


「ベータだとこういうプレイヤー向けの交通システムが用意されてなくて、すごい苦情が来たから製品版でこういうのが追加されたそうよ」

「ここからセーフポイントまでが100キロ、徒歩で歩けば一日半は潰れるからな」


隣に座るノーラが駅馬車が存在する経緯について説明してくれた。

街道沿いは良い景色だが半日も歩けば飽きが来るに違いない。

ゲームとしてなら、こういう交通手段も必要か。


「それがこの快速馬車だとセーフポイントまで七時間。利用しない手はないよねー」


ルッカがソファーの上で上下に跳ねている。身に付けている装備は新調され、茶色い革鎧から、要所が鋼板で強化された艶消しの革鎧になっている。腰の二振りの短剣も新品の物に替わっていた。


「馬がこの速度で走れば途中で馬を変える必要がありますけど、あの鳥ならその必要はないらしいですね」


リリウムはそう言いながら新しく買った、淵を金属で強化されている魔導書『大地の秘儀』を開く。

魔導書には呪文をストックする機能以外に、このゲームのフレーバーテキストが記載されている。

彼女は馬車に乗りこんでからしきりに魔導書を読み返していた。


「あのへんてこな動物か」

「カイルの元…じゃない、前やってたゲームにはいなかったの?」

「記憶の限りじゃ見た事はないな」


この馬車は冒険者が依頼でテイムしギルドに納品したモンスターが引いている。

高地の平原に出現する二足歩行の鳥型モンスターで、名前はプラトーバード。

普通の馬と比べ速度とスタミナがに長けるがエサを馬鹿食いする。

なので商人や軍隊は力があって比較的エサが少なく済む通常の馬に、速達便や駅馬車はプラトーバードに馬車を引かせている。


ロントを出発し、農村を越え、関所も何の問題もなく通過した。

だが、セーフポイントまであと二時間といったところでトラブルが起きた。

突然、馬車のスピードが落ち始める。

しかもなにやら人がいい争う声とこちらに近づいて来る馬の足音も聞こえてきた。


「何かあったのかな」

「一応、戦闘準備だ」


ノーラが外をのぞき込み、リーゼがトランプをテーブルに置いて杖と魔導書を取りだす。

俺もインベントリからしまっておいた剣を取り出しベルトに固定する。

そうこうしているうちに馬車が停まり、御者NPCの女がドアを開けた。


「冒険者様、騎士団の方々が皆様に会いたいと言っております」




          ※




「私は冒険者の諸君に、砦を占拠した山賊討伐の助力を要請する。もちろん礼金は出す」


俺たちにアルバンという名のガリス王国騎士はそう告げた。

王国が街道の治安維持をする巡回騎士の為に建てた砦に立て篭もる、山賊の討伐をに協力して欲しいとの事だ。

そもそもなぜガリス王国の砦を山賊が占拠しているのか?彼はこう説明してくれた。


「我々が留守の間砦を預かる者が賊と内通していたのだ」


アルバンから砦の留守を預かっていたその部下は金遣いが荒く、余暇の間はずっと酒と色街や賭けに熱中していたせいで、かなりの借金があったそうだ。

そこを悪党どもに目を付けられ、アルバンが隊を率いて砦に据え付けるカタパルトを受領するためにロントに出向いた所で、賊を引き込むように唆されたらしい。

その男の計算外だったのは、カタパルトの制作を引き受けた業者が気を利かしてロントからこちらへカタパルトを輸送しており、アルバンが帰ってくるのが予想よりずっと早かったという事だ。

そして現在、その間抜けな男と山賊は帰って来たアルバンとその部下の騎士たちから逃れるために砦の中に立てこもっている。


砦は比較的小規模な物で、街道に隣接した小高い丘の上に8メートルほどの四角の城壁と監視塔が付いただけの物だ。その城壁の上では小汚いならずどもが何人か、こちらを伺っている。

砦の周囲は隠れる場所のない平原で、砦の周辺には逃げようとして騎士に後ろから槍で突かれたり、剣で切り裂かれたと思われる山賊の死体が点在していた。



挿絵(By みてみん)



「外に出ようとした山賊を何人か殺したが、山賊とあの忌々しい裏切り者はまだあの丘の砦にいる。今部下に森の木から破城鎚を作らせている所だ。それで門を破ったら我々と一緒に砦に突入して欲しい」

「その様なまどろっこしい事をしなくても、我の火球で門を焼き払ってやるぞ?」

「いや、それはよして戴きたいリーゼ殿!あの門も陛下から我らに下賜された大事な王国の財産の一部。なるべく修理が効く形で砦を取り戻したいのだ」

「その破城鎚はどれくらいで出来るんだ?」


俺はアルバンに尋ねる。後ろでは兵士と騎士の従者たちが切った木から破城鎚を作りあげている。


「後一時間半で出来るはずだ」


一時間半、結構長いな。まだ二時間ほど旅程が残っている。

ロントを早朝に出て関所で休憩と昼食を取り今は昼の二時だ。

日が落ちるまでにはモンスターが侵入できないセーフポイントに到着しておきたい。


「一時間も待つのー?そんなのセーフポイントに着くころには日が暮れちゃうよ」

「でも、この人たちに協力せずに先に行くのも気が引けない?」

「…私はどっちでもいい…」

「困りましたね」


どうするべきか皆が話し合っている。何か状況を打開する物はないか。周辺を見回す。

すると、アルバンがロントから持ってきたカタパルトがあった。

俺はそこに向かい、カタパルトの隣にいる兵に話しかける。


「これがロントで作ったカタパルトか」

「ああ。小型だが150キロまでの物を飛ばせるぞ。しかもこれは新型で距離と角度の調整がすぐに出来る!といっても、据え付ける砦を攻撃するわけにもいかんがな!」


兵士はそう言って笑った。

カタパルトか…そうだな、試してみる価値はあるかもしれない。


「なあ、これ人は飛ばせるか?」

「はあ?」




          ※




「ねえカイル、本当にやるつもり?」

「ああ」

「我も有効だと思うが…それはかなり頭が悪い方法だと思うぞ」

「カイル、危ないですよ。止めた方がいいです」

「カイルって、意外と大胆だったんだねー」

「…」


俺が皆に提案した作戦はこうだ。

ノーラとリーゼが呪文で俺の肉体を強化する。次にリリウムが落下の衝撃を和らげる<羽の着地(フェザーフォール)>を俺にかける。

そして俺をカタパルトで射出し、突入した俺が砦を制圧するか、扉のかんぬきを外して皆を砦に呼び込む。

アルバンにステータスカードを見せて確認したが、中にいる盗賊は弱いので俺一人でも制圧できると太鼓判を押された。

裏切った騎士も、最近は鍛錬も怠っており大した腕ではないと言っていた。

彼に作戦を説明したら呆れられたが、協力はしてくれるようだ。


自分ながらアホらしいと思うし、ぶっつけ本番でやる作戦ではないと思う。だが不可能ではないし、有効だ。

ただ、誰もやらないくらいに馬鹿らしいだけだ。

それに、これはゲームだ。俺たちは『冒険者』と名乗っているのだから、冒険してみてもいいじゃないか。


「カタパルトの準備、できたぜ」


兵士が俺に告げる。

こちらをニヤニヤしながら見ているが、もし調整を間違っていたら後で一発殴ってやろう。


「よし。俺に呪文を掛けてくれ」

「知らないわよ。<筋力強化(ストレングス)>、<耐久力強化(エンデュランス)>、<敏捷性強化(アジリティ)>」

「幸運を祈っているぞ<魔法の武器(マジック・ウェポン)>、<抵抗力上昇(レジスタンス)>、<矢避けの防護プロテクション・フロム・アローズ>」

「<羽の着地(フェザーフォール)>。無事に帰ってきてくださいね」


呪文がかかったのを確認し、カタパルトの石が置かれる部分に腰掛ける。

山賊から見えない所で体重と同じ重量の石を使って確認したとはいえ、本番でどうなるかは分からない。

リーゼの計算だと仮に失敗しても、死なない程度のダメージで済むらしいが。


「兵士の待機が完了した。…本当にやるのか?」


アルバンが確認してくる。


「男に二言はないですよ隊長殿」

「分かった。…発射!」


アルバンの合図でカタパルトが起動した。予想通り首に強烈な力がかかってくるのを全力で耐える。

加速の力から解放されると、そこは空中だった。

奇妙な浮遊感の中、下を向くと地面の皆と目が合う。全員呆れたような顔でこちらを見ていた。

砦の方を見れば、城壁にいる山賊がポカンと口を開けてこちらを見上げている。

空中での浮遊感は一瞬で終わり、体が砦の中庭へ落下し始めた。


「うおおおおおおお!」


地面が急速に迫る中、俺はどうにか着地姿勢を整える。

そして中庭の地面に、つま先、脛、太もも、背中、肩の順に着地し衝撃を分散させた。

そのまま射出の勢いをゴロゴロと転がって殺し、停止する。

着地は大成功だ。

起き上り剣を抜いた俺を、周囲の山賊たちは信じられないといった感じで見ている。


「さて、降伏の用意は出来ているか?」


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