表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/46

十一話 ゴブリン狩りの報酬

巣の掃討を終えた俺たちはゴブリンの死体をカードで解体しながら戦利品を探していた。

俺とノーラとリリウムは広場を、リーゼとルッカとサクヤは分かれ道の先を調べに行った。


「この広場には大したものは無さそうだな」

「まあ分かれ道の先が本命でしょ」


俺は手近の心臓を槍で貫かれているゴブリンにカードを死体にかざし、解体を実行した。

ゴブリンの死体が消え、カードに皮と耳と睾丸が収納された旨の文が表示される。

広場は血や内臓がまき散らされ結構な惨状だが、二人も同じように死体を解体をしている。

死体に触れないとはいえ、戦いもしたことない女性にはきつくないのだろうか?


「ノーラ、リリウム、きついならゴブリンの始末は俺がやろうか?」

「グロ設定は切ってるから大丈夫よ」

「私も切ってますので気を使わなくてもいいですよ」


そうか、これはゲームだったな。現実にいる感覚に陥りそうになるが、ここは仮想世界だ。

そういえば自分もゴブリンの血と内臓まみれになっているはずだが、気が付いたら剣と盾や、服や防具も綺麗になっていた。

思い返せばこの仮想世界はとことん現実的に見えて、不快な部分や不便な部分はきっちりと除去されていたな。

空腹は感じるし、食事を取れば満腹感は感じるが、排泄行為という生理欲求は起こらない。

戦闘行為で蓄積した疲労もログアウトして一定時間経てば消える。

小銭は自動で両替されるし、死体をいちいちナイフで解体しなくてもカードをかざせば一瞬で終わる。


「そうか。いらん心配だったな」


この調子だと隠れているゴブリンの子供を殺すような事はしなくてもよさそうだ。

どうせゴブリンもプレイヤーが見ていない時に大人がポンポンと増えているんだろう。


「カイルは、ゴア設定切っていないんですか?

「ああ」


そう言う設定はステータスカードから弄れるらしいが、チュートリアルから一切触っていない。


「血とかそういうの平気なんです?」


リリウムがおずおずと聞いてくる。


「まあ前やっていたゲームは、その、なんだ…血とか出るのが普通だったから、もう慣れたな」


これ位の事ならとっくの昔に慣れた。

戦乱で賊に荒らされた村を通った事がある。

血で河や海が真っ赤に染まったのも見た。

戦争で人や魔族や魔物の死体で平原が埋まっている事もあった。

死体が多いといちいち埋葬はしないが、アンデッド化を防ぐために死体を山と積み上げて焼くのだが、あの匂いは最悪だ。

初めて嗅いだ時はしばらく肉を食えなかったな。


そんな事を思い出しながら解体していたら、最後の死体を解体し終えた。

血やゴブリンの臓物も解体と一緒に消えたようだ。

今広場にあるのは散乱した酒樽や杯、ゴブリン達の粗末な武器だけだ。


「何かあるかもしれないしここも一応探してみない?」


ノーラの提案で広場の壁や地面を三人で調べる。

この広場はかなり硬い岩で構成されていた。試しにゴブリンが持っていた剣で岩を掘ってみる。

剣はガリガリと音を立てただけで、岩に僅かな引っ掻き傷を作っただけだった。

ゴブリンの粗末な道具や武器ではこれを掘り進んで何かを隠すことはできそうにない。


「ゴブリンの隠し宝とかあった?」

「この岩をゴブリンが削れるとは思えないな」

「うーん、やっぱり?」

「私の方も何もないです」

「ここを調べるより反対側を調べている三人に合流したほうがいいな」

「そうね。きっと向こうでお宝をみつけているに違いないわ!」


俺たちはゴブリンの武器から一応買い取り対象になる金属製の武器だけを回収してリーゼ達に合流する事にした。




         ※




「ゴブリンの倉庫にしては悪くは無いな」


分かれ道の先で合流すると、そこは幅と奥行きが10メートル高さが2メートル程のスペースがあった。

そこに酒や干し肉が詰まった樽と小麦が入った袋やこまごまとした雑貨が詰まれている。


「ゴブリンどもが酒盛りをしていたのも、武器に金属製の剣や槍があったのも、行商人と護衛から奪っていたからか」

「ご明察。これを見つけたよー」


ルッカが一枚の金属板を投げてきた。

受け取った手の平に収まるサイズの金属板には、複数の線が掘られている。


「ガリス王国の商人NPCが持っている商業資格を表わす割符だ。ここに乱雑に詰まれていた荷物の中からルッカが見つけ出した。

我々が来る前に行商人を襲っていたようだが、我々がゴブリンを倒した事でこれ以上被害が広がる事もないだろう」


これが何なのかリーゼが説明してくれた。身分証明の割符か。


「これは見つけたら何処かに提出する義務があるんじゃないか?」

「ああ。冒険者ギルドに出せば礼金が出るだろう。換金アイテムだな」

「ねえ、お宝は?」


ノーラがこちらを調べていた三人に尋ねる。


「アタシがスキルも使って調べたけど、無かったよ」

「ここにある物だけだ。まあインベントリに詰め込んでギルドで売ればそれなりの金になるさ」

「…無い」


サクヤも首を横に振っている。


「ええー、こういうイベントってお宝が出てくるもんでしょ?」

「ノーラ、ゴブリンは知能が低いから価値のある物は無いのが普通だ」

「むむむ…SMOの自動生成アルゴリズムめ…」


ノーラが肩を落とした。

ゴブリンの倉庫を探しても、腐りかけのパンや動物の死骸だけしかない時もあるのだから今回はマシといえる。

組織化したホブの集団でもない、最近活発になリ始めたゴブリンの巣と考えればむしろ大収穫だ。


「気を取り直せノーラ。各自詰めれるだけこの積み荷を積んだら帰るぞ。そして打ち上げだ!」


リーゼが拳を突き上げる。それに合わせて皆も拳を突き上げた。


「「「おー!」」」




          ※




冒険者ギルド二階の食堂でゴブリン討伐成功の打ち上げが始まる。


「ゴブリンの討伐成功と、全員のランク昇格を祝って、我らの栄光と勝利に乾杯!」

「「「我らの栄光と勝利に!」」」

「「「乾杯!」」」


ノーラが前回のログイン時に俺が言った音頭をリーゼに教えたら妙に気にいってしまい、このパーティの打ち上げで毎回使う事になってしまった。

今回の依頼達成によって俺以外の全員はスチールからシルバーに昇格、俺はカッパーからスチールに昇格した。

確認したら依頼を通してレベルがまた1上がっていた。いつも通りステータス上昇系スキルに振る。



取得済みスキル

STR上昇Ⅱ

AGI上昇Ⅱ

VIT上昇Ⅰ

鎧の修練Ⅰ



「お宝…」

「ノーラ、財宝は無かったけど積荷を売ったら結構な額になったじゃないか」

「そうねリーゼ。カイルは最速での昇格おめでとう」

「どうも」

「ノーラの彼氏は優秀だねー」

「だーかーらー、彼氏じゃないって言ってるでしょ!」


二回の任務達成で昇格は普通ありえないが、カードから読み取れる戦闘ログを勘案した結果らしい。

今回のゴブリン討伐の儲けは以下の通り。


ゴブリンの巣掃討の討伐依頼の達成報酬が金貨五枚。

倉庫にあった積荷が全部で金貨二枚。

ゴブリンの部位を売り払った報酬が全部で金貨一枚。

襲われた商人の割符が銀貨五枚。

往復する道中に出会ったモンスターの部位が纏めて銀貨二枚。

かき集めたゴブリンの武器が全部合わせて銀貨一枚。


合計で金貨八枚と銀貨八枚。一人当たり金貨一枚銀貨一枚の稼ぎだ。

金は出納係のリーゼが預かっている。


「リーゼちゃん今日は奮発して銀貨一枚セットにしちゃったね」

「当然だリリウム。金の使い時を見極めるのが参謀であり出納係というものだからな」

「そんなこと言って。デザートも欲しかったんでしょ?リーゼちゃんいっつもメニュー頼む時欲しそうな目でデザートのページみてるし」

「う、ばれてたのか…」


今日皆で頼んだのは銀貨一枚セットだ。

セット内容はダイアーウルフのステーキとバジリスクのから揚げ、コンソメスープとコーンポタージュ、白米と白パンからそれぞれ好きなのを選ぶ。

それに加えて主菜の付け合わせ、副菜のサラダ、好きなドリンクが一つ付く。食後のデザートにアイスクリームも出される。

銀貨一枚セットの上には金貨一枚セット、白金貨一枚セットも存在する。ランクが上がって報酬が増えればぜひとも注文してみたい。

俺が選んだのはダイアーウルフのステーキ、コンソメスープ、白米だ。ドリンクはウーロン茶を頼んだ。

ステーキを切り分け、口に運ぶ。

牛のステーキに比べて若干硬いが、そのぶんうま味と噛み応えがある。

付け合わせのサラダも新鮮でシャキッとしている。


「このステーキ、この前カイルが倒した奴じゃない?」

「ノーラ、ここは冒険者が持ち込んだ肉を出しているのか?」

「そうだよー。この前、北の島から来た船がクラーケン持ちこんだ時なんか三日くらいイカ料理しか出なかったよね」

「イカ料理は好きですが、毎回食べることになると飽きちゃいますね」

「…私は毎日イカでも構わない…」


大物をギルドに持ちこんだらその味も楽しめる事もあるのか。

それがゲテモノでなければ。


それから皆でしばらく歓談し、食事を楽しんだ。デザートのアイスクリームは甘く非常に美味だった。

元いた世界でも似たような甘味はあったが、旅の途中や戦地で温度管理が必要だったり、日持ちがしない甘味を食うのは王侯貴族や金持ちぐらいだ。

俺は旅と冒険と戦争続きで久しく口にしていなかった味を楽しんだ。


「さて、明日からの予定を話し合おうか諸君」


全員が食事を終えた所でリーゼが切り出した。


「まず装備更新について。希望者はいるか?数日前に新調したノーラと我、サクヤ以外で」

「俺はもう剣と盾は店でこしらえた物を持っているから必要ないぞ」

「妙に質がいいと思っていたが、どこで手に入れたんだ?」

「例の喧嘩の相手から受け取った賭け金を使って田中武具店で買った」

「あそこか。あそこの商品なら大丈夫だな」


剣と楯はタナカの店で金貨100枚で用立てた物だ。これさえあればしばらくは防具が貧弱でもどうにかなるだろう。


「ルッカとリリウムは?」

「はいはーい!」


ルッカがビシリと手を上げた。


「ルッカ」

「いい加減レンジャーの初期装備から替えたいなー」

「分かった。装備更新は火力担当から優先していたからな」


リーゼがインベントリから金貨を二十五枚出してルッカに渡す。


「太っ腹―。返してって言っても返さないぞっ」

「無駄遣いはするなよ」

「分かってるって。カイルの弓はどこで買ったの?」

「田中武具店だ。金貨二十枚だったぞ」

「高いなー、グレード落としたのにしよ…」

「わ、私も買いたい者があるんです…」


リリウムがそっと手を上げた。


「何を買いたいんだリリウム?」

「一人でインしてた時に魔道書店でいい魔導書を見つけて…あれならもっといい補助魔法が使えそうなの」

「幾らだ?」

「き、金貨二十枚です」

「今の財布事情で一つのアイテムに金貨二十枚か…」

「やっぱり止めたほうがいい?」

「いや、買おう。今後の予定を考えたら必要だからな」


リーゼは金貨をリリウムに渡す。


「いよっ、太っ腹―」

「ありがとう、ともちゃん」

「礼には及ばんからリリウムまでそのあだ名で呼ぶな!」


こういう金のやり取りって中々楽しいものなんだな。

俺は装備にしても必要な物は連合軍や教会から予算の中で許せる限りで、最高の物を用意して貰っていたから新鮮だ。


「さて明日からの予定を説明する。この地図を見てほしい」


リーゼがインベントリから白黒の地図を一枚取り出す。


挿絵(By みてみん)


「これがこの周辺の地図だ。我々はここ、鉱山都市を目指す」

「ノーラ、鉱山都市に向かう理由を教えてくれ」


別にこの街を拠点にしてもいいのでは?


「ああ、カイルは今日始めたから知らないだろうけど、シルバーランクはこの王都にいても余り旨みが無いのよ」

「旨み?」

「ロント周辺、島と繋がるこの半島には弱いモンスターしかいないの。だからロントにはスチールランクまでの依頼と、各地で塩漬けになって送られて来たミスリル以上向けの高ランク依頼しか無いの」

「それで、拠点を鉱山都市に移すと」


リーゼが頷く。


「そういう事だ。それに一度鉱山都市まで行けば一度行った拠点までは転移装置で帰ってこられる。ロントにだって何時でも帰ってこられるからな」

「転移装置?」


ノーラに質問の目線を送る。


「一定規模の街には転移装置があって、プレイヤー限定だけど一度行った所の転移装置と一瞬で行き来出来るのよ」

「なん…だと…」


ノーラの言葉の意味を理解するのに一瞬時間が掛ってしまった。

なんて便利な装置なんだ。ゲームとはいえ何ともうらやましい。

俺の世界にそれがあればどれだけ楽が出来ただろう…


「ワープ機能って今のワールドマップがあるゲームなら標準実装されてるよー。何処でもワープ出来る奴も多いね。海外では随分硬派なゲームが流行ってるんだー」

「あ、ああ…」

「話を進めるぞ。鉱山都市までは旅程を二回に分ける。一日目はロントを出発して西に街道を進み農村を目指す。

農村からはそのまま街道沿いに進み、そのまま半島と島の間にある関所まで進む。関所とその先の騎士団駐屯地の間にあるセーフポイントで進めば一日目は終了だ。

二日目はセーフポイントから駐屯地に進み、そこから南の街道を通って農村を通ってその先の鉱山都市に入る。何か質問は?」


「ない」

「ないわ」

「ないです」

「ないよー」

「…」

「よろしい。次の集合時間は現実時間の夜七時だ。それまでに各自装備の購入、スキルセット等は終えておくように。私からは以上だ」

「それじゃあみんなお疲れ様。また明日ね」

「お疲れー」「お疲れさまでした―」「…またね」「さらばだ」


皆がそれぞれあいさつを終えるとログアウトし、その場から消えた。

俺とノーラがその場に残された。


「私たちもログアウトしましょう」

「そうだな」


ステータスカードを出し、ログアウトボタンを押す。

視界が光に包まれ、意識が現実世界へと戻っていく。

こうして俺の電子遊戯同好会との顔合わせになった依頼は終了した。

十一話時点での主人公のステータスとか

読まなくても問題ありません


レベル ファイターLV7

称号 格上殺し

条件 レベル差が15以上の敵を撃破する

冒険者ランク スチール


取得済みスキル

STR上昇Ⅱ  AGI上昇Ⅱ

VIT上昇Ⅰ  鎧の修練Ⅰ


装備品 (数字は端数切り捨て重量)

武器

ロングソード(合金製) 2.5

ダガ―(鋼鉄製) 0.5

ラージカイトシールド(合金製) 3

ロングボウ(白鉄鋼製) 2

ノーマルアロー×20 1


防具

衣服 冒険者の服(布、革製) 1

頭 無し 0

胴 ブレストプレート(鋼鉄製) 8

腰 無し 0

腕 ライトガントレット(鋼鉄製) 2

脚 冒険者のブーツ(革、鋼鉄製) 1.5

アクセサリ 冒険者の外套(革製) 0.5


合計重量 22-2(鎧の修練Ⅰ)=20


一次ステータス

STR 23+4(STR上昇Ⅱ)=27

VIT 21+2(VIT上昇Ⅰ)=23

AGI 21+4(AGI上昇Ⅱ)=25

INT 8

PER 12

LUK 5


二次ステータス

HP 100

SP  75

ATK 190

EATK 0

DEF 210

EDEF 160

装備重量 20/28


装備品解説


ロングソード ATK170 エンチャント 硬化(ハードニング) 推奨ステータスSTR18 AGI16 重量2

材質 合金(白鉄鋼95%、アダマンタイト5%) 


ラージカイトシールド DEF160 EDEF 160 エンチャント 硬化(ハードニング) 推奨ステータスSTR21 AGI15 重量2.5

材質 合金(黒鉄鋼90%、ミスリル10%)


ロングボウ ATK120+20(ノーマルアロー) エンチャント 貫通(ぺネトレート) 推奨ステータスSTR17 AGI19 重量2

材質 白鉄鋼

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ