2.逃げられる
先輩目線です。
やっぱり今日も逃げられちゃったか、そう呟いて自分の教室へと戻る。
彼女____葉ちゃんのお弁当は葉ちゃんが作っているらしい。
美味しそうだったから、聞いてみたら少し考えたような間の後「はい」と答えてくれた。
その後、まさか僕の事を聞かれて お弁当作りましょうか? と聞かれた事は予想外だったけど。
いいの? と聞くと顔を少し赤くしてわたわたする姿は、とても、と言うか最高に可愛かった。
教室に戻ると友人と呼ぶのは少し腹立たしいが、世間一般的には友人と言われる立場にある晃平という男がこちらに向かってきた。
「また、お前の愛し彼女のところに行ってきたのか?」
晃平が近づいて来るとクラスの女の子がきゃあきゃあ言ってうるさいのでやめてほしい。
____晃平はまあ、顔の整っているイケメンだ。僕もイケメンらしいけど、葉ちゃんにかっこいいって言われなきゃ意味がない。
「まあね。」
晃平は面倒だ。暑苦しくてかなわない。
「それで、どうだったんだ?」
「別に晃平に関係ない」
「……また断られたのか!」
そう言うと晃平は口を大きく開けて笑い出した。ウザいんだけど。
「お前がそこまで夢中になるような子だとは思えないのだがな……。」
「は?」
軽蔑を込めた目で睨んだ。
「いや、どんな女の子にも興味……いや関心、いないものとして接してきたお前が執着するのが信じられなくてな。彼女のどこがお前は好きなんだ?」
笑いを込めて聞いてくるのが心底ウザったい。
まあ、葉ちゃんの好きなところならいくらでもあげられる。
でも
「お前には教えてあげない」
晃平は一瞬きょとんとした顔をした後腹を抱えて笑い出した。
全部好きだ。
お弁当を食べている時の幸せそうな顔も、僕に好きだと言われた時の反応も、全部。
気持ち悪いくらい好きになってしまったんだと思う。
気付いたら、目で追ってしまっているんだから、かなり気持ち悪い。
ストーカーみたいだな、と晃平に言われたけれど まあ、確かに と思ってしまったくらいに。
こんなに好きになった理由が一目惚れというのも笑える話。
一年生が入学してきた時、真っ先に目についたのが葉ちゃんだった。
女の子に興味を持てなかった僕にとっては初めての事でって、なんかどこかの少女漫画みたいでやっぱり笑えてくる。
可愛いなって思い始めた時に気付いたのはその子の隣に男がいるってことだった。
彼女は一生懸命その男に尽くしていたみたいだったけど、その男は馬鹿だったらしくちょくちょく他の女の子と会っているのを見かけた。
ただ、目で彼女を追うだけの毎日が続いて一年くらい経った時だった。
放課後、彼女の声とあの男の声。そしてうざったらしい女の声が聞こえた。
うざったらしい女とあの男は腕を組んだりしていて、親密さをこれでもかと強調している。
何か喋っているようだったけど彼女の表情が曇ったことを見るに別れ話をされたんじゃないかと思う。
良かったと思った。
これで、葉ちゃんにこれでもかというほどの好きをぶつけられる。
僕がそんな最低なことを考えている時、葉ちゃんはゆっくりしゃがみこんで泣いていた。
それを見たらあの男に対して物凄い怒りを感じたけれど。
保健室に送り届けた時に、ハンカチを握らせた。
きっと葉ちゃんなら届けに来てくれるだろうと思って、我ながら本当に気持ち悪い。
でも、好きだから仕方ない。
本当はゆっくり仲良くなっていこうと思ったんだけどハンカチを返しに来て、ありがとうございますと頭を下げて泣いたことによる恥ずかしさで頬を赤らめる葉ちゃんを見たらもう計画なんて全部ぶっ飛んだ。
気付いた時には好きだよ、と言ってしまっていたけれど遅かれ早かれ言うつもりであったんだから良しとする。
「そういえば」
珍しく晃平が真面目な表情でこちらを向いた。
「あの男が最近彼女の周りを彷徨いてる。という放してを英里から聞いた。」
「へぇ……そう。」
実は晃平と英里ちゃんは付き合っている。葉ちゃんは英里ちゃんと晃平が付き合っていることは知ってても晃平と僕がこうやって話していることは知らない。
「……どうもしないのか?」
おおよそ、英里ちゃんに言っておけ、とでも言われたんだろうな。
あの男、という単語を聞いても動かない僕に晃平は驚いているようだった。
「どうもしないわけ、ないでしょ?」
あの男は勿体無いことをしたんだから。
葉ちゃんを一度手に入れたのに放して傷付けた。
____そして、僕が葉ちゃんのこと逃がす訳なんて
晃平ににっこり微笑んでやる。
「………その顔、彼女には見せるなよ……。」
____ある訳ないんだから。
先輩の愛が重いですが、ヤンデレではないはず……