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25 しばしの別れ!




 太陽が登るよりも早く小さなトラジロウに起こされ身支度をした。

 すでに起きていたカレタカさん夫妻と新婚カップルに挨拶をして少しお話しした。

 水浴びをして、まだグースカ寝ていたレオンを起こしに行って、太陽が昇り始めた頃に目を擦りながら起きてきたメルちゃんと一緒に朝ご飯を頂いた。


 トーテムポールの間を通り抜け、里の入り口前にやってきた。

 見送りにはなんと大勢の人が来てくれた。

 お祭りで仲良くなったアナちゃんたちや、なんと鼻水大事件のヌータウさんも。

 仲直り的なことをしたし、別にヌータウさんは嫌いじゃない。すぐ熱くなる里想いのいい人なんですよね。



「旅が終わったら、是非里に遊びに来てくれ。君たちの踊りをもう一度見たい」

「ありがとう。もちろんだ」

「その笛を吹けばまた迎えに行こう。だから持っていてくれ。旅でもキリヤ殿なら上手く扱える筈だ」

「は、はい!」

「おねぇちゃん! トラちゃん! お兄ちゃん! ぜったい、ぜったいまた来てね!」

「うん! 絶対、絶対また来るね!」



 メルちゃんに抱きつかれながら、たくさんの人と別れの言葉とハグを交わした。ハグしまくった。

 妖精の水にもとっても感謝しているらしい。

 毎日訓練が終わると妖精達に泉に突き落とされて、頭までどっぷり浸かってたなんて言えないよね。



「そろそろ出発だ。遅くなってはいけない」

「みなさん、本当にありがとうございました。また来た時も、よろしくお願いします!」



 羽ばたき始めたオオワシからみんなが離れる。

 族長とその息子の二羽の大きくて立派なオオワシが私達を先導してくれる。

 私とトラジロウを乗せてくれるのは、この三日間ずっとお世話になっていたオオワシだ。


 ふわっと体が浮いた。

 里の方を振り返って大きく手を振る。

 【風の峡谷(ヴェントーレ)】の向こうから太陽が里や雲、岩壁を照らし、美しい朝焼けを作り出していた。



「本当に、ありがとうございました!」



 そう叫ぶと、オオワシ達は目的地の方へ大きく羽ばたいて太陽をバックに飛んで行った。


 のではなく。



「いやぁあ―!」

「うおぁあ―、っ!」



 目の前の崖に沿って滑るように落下していったのだ!

 無理無理無理無理落ちる!

 って、トラジロウいない! 嘘でしょまさか落ちた!?

 振り返れば、風圧でたなびくマフラーの端に、小さいネコちゃんが必死に食らいついていたのだ。



「と、トラジロウ絶対放しちゃダメ! ひ、ひぃぃ!」



 どんどん地面が近づいてくると思ったら、急に身体がグンと持ち上がる。

 なんと里の上空まで一気に上昇したのだ。



「た、助かった……」



 プラーンとぶら下がるマフラーを引っ張り上げて、無事にトラジロウの救出が完了した。



「クォォオン……」

「も、もう大丈夫。楽しかったよ!」

「キュァン!」



 よく分からないけど、上昇気流的な何かがあるんだろう。

 レオンとアクロバットのコンビは今の絶叫気流を三回ほどやってから私達の後に合流していた。


 そのあとは朝焼けを楽しみながらゆったりとしたフライトを楽しんだ。

 心に焼き付けるようにトラジロウと二人静かに広大な大自然に浸る。


 シルヴェスティ様に伝わるかどうか分からないけど「治療してくださりありがとうございます」の念をむんむん送っていると「気を付けてね」という声が風に乗って聞こえた気がした。





******





 体感時間で三時間ほど飛行した後、降ろしてもらったのは港街へ向かう道の近く。

 見えるのは赤い大地ではなくて芽吹き始めた緑の草。

 【風の峡谷(ヴェントーレ)】とは全然違う雰囲気だ。



 最後にカレタカさんとメルロさんとハグをして、背中をポンポンと叩きあった。

 二人とも末長くお幸せに。

 この三日間ずっと私達を乗せてくれていたオオワシにお礼を言うと、大きな翼で包んでくれた。

 ふわふわすべすべの抱擁感がたまらなかった。



「どうか怪我と病気には気を付けてくれ。それでは、私たちは失礼する」



 ピュィィィイ……──



 風の民が手笛を吹くと、羽艶の美しい二羽のオオワシが空へと舞い上がる。

 その後に私たちを乗せてくれたオオワシも続く。


 くるんと上空で綺麗な円を縦に描くとそのまま急降下し、地面に脚が付きそうな低さを飛行しながら私たちの方へ向かってきた。


 風の民がオオワシに合わせて走り出す。

 助走をつけて高く空へ跳び上がり、猛スピードで地面を滑空するオオワシに完璧なタイミングで飛び乗ったのだ。

 速度を全く落とすことなく【風の峡谷(ヴェントーレ)】へ飛び去っていった。

 


「すごい技術だな」

「超カッコいい」

「んじゃ、行くか!」



 そう言って港街がある方へと歩き出した赤髪の長身男をトラジロウと追いかけた。

 緑の草が短く生え始めた見晴らしのいい大地を、港街へ繋がる大きな道を目指して歩く。



「レオンもこっちなの?」

「あぁ。待ち合わせをしてる奴がいるんだ」

「仕事か」

「そういうコト!」

「……そっか」



 ということは次の街でお別れなのか。


 風の神殿で私たちの事情を知ったのかは分からない。

 昨夜の説明では特に何も触れてなかったし、私も喋れないから尋ねられなかったのだ。



 私としては旅に付いてきてもらいたい。

 だって私達よりずっと物知りだし、強いって噂の赤獅子っていう人だし……ね。うむ……うむ。

 きっと旅はよりスムーズに進められる筈だ。


 でも今言ってたみたいに有名賞金稼ぎグループの一員として役割や仕事があるだろうし、出会ってまだ……5日目だっけ?

 そんな人に仕事を放って私達の旅に付いてきてお願ーい! なんて言われてもさ。

 私なら断っちゃうかもしれない。

 まぁ、私は弱いから行ったとしても足手纏いになっちゃうし、自分の身すら満足に守れないし。

 家族とか親友とか、大切な人ならともかくね。


 付いてくることに何もメリットもない。

 あるとしたら異世界巡りと大精霊様たちに謁見できる可能性アリという事だけだ。


 ていうか、魔力回路の治療があんなに痛いなんて知らなかったんだけど。

 シルヴェスティ様も終わった後とてもキツそうにしてたな。


 なんか、治療しないと死ぬって実感がじわじわ湧いてきたよ……。


 はぁ……。

 25日以内にあと三回……お腹痛い。



 レオンとはまたどっかで会えたらいいな。

 というかどうやって連絡取り合ったりするんだろう。お手紙? いやでも住所知らないし。

 この世界にもスマホがあれば簡単に連絡取れるのに。

 本当に不便な……、あ!


 そういえば私レオンにすっごく聞きたいことがあったんだ! 何だったかな。

 うーん……ダメだ思い出せない。

 すごく大切な事があった筈なんだけど。

 あー、もやもやする……。



 レオンを見れば思い出すかもと右側を見れば。

 頭の後ろで腕を組みながら私を見下ろしていたエメラルドグリーンとバッチリ目があった。



「うわっ」

「な〜に百面相してんの」

「あ、あぁ、考え事だよ。ね、トラジロウちゃん」

「なんでおれに同意を求めるんだ」

「そうですね」



 前を歩く小さなトラジロウが呆れた顔で振り返った。


 今朝、風の大巫女様であるエハウィさんと話した時シルヴェスティ様からの伝言を頂いた。

 トラジロウについての事だ。


 まだ完璧に魔力回路が治っていないので、風の神殿で見たような大きいトラジロウにはほんの少しの間しか戻れない。

 大きい身体を保つのは魔力を消費し、魔力回路にも負担がかかるのでオススメはしないと。

 戻るなら空気中の魔力が濃いところでね、と言われた。


 大きくなれないトラジロウは凄く不機嫌そう。

 しかし私はもう少しふわふわ青毛を楽しみたいと思っていたから……ちょっと嬉しい。ふへへ。



「なぁキリヤ。オメー俺に何か聞きてーことあんじゃねぇか?」

「あるある! よく分かったね。だけど……思い出せなくって」

「ハァ?」

「はぁ? ってどういう意味?」

「そりゃぁお前……」



 レオンが立ち止まってこちらを向く。

 私も止まるとトラジロウが肩まで登ってきた。



「私達の旅に付いてきてー! って、依頼すんじゃねーの? スゴ腕賞金稼ぎである、この赤獅子様によ!」

「えっ……」



 レオンはバッチーンとウインクを決めた。

 まさか、いいの?

 あ、なるほど!

 依頼をすれば良かったのか!



「ったく。遠慮なんかしてねーで、早く言えってんだ」

「どこまで知っている」

「大精霊サマから聞かせてもらったぜ。オメーらは他の大精霊ん所にも行かなきゃなんねーんだろ? 確か、30日以内だっけか?」

「正確には残り25日だ」

「命に関わる危険な旅とか何とか言ってたけどよォ。そんなら尚更俺を連れてったほうが良いんじゃなァい?」



 片眉と片方の口の端をクイっと上げて自信満々に私達を見ている。

 そっか、なーんだ! 知ってたのか!

 シルヴェスティ様も教えてくれれば良かったのに。



「どうだキリヤ。今ならお安くしとくぜ?」

「どのくらい必要?」

「そーだなァ。トラジロウから貰ったお前の多すぎる救出料を引いて……ンー、そうねぇ。……ま、金貨五枚だな。払えないならそこは相談ね」



 トラジロウと目線で会話する。

 いいと思う? おれは賛成だ。よし。



「お願いします!」

「頼む」

「……おう。んじゃ、今回もよろしくな!」



 またあの時、スマホ奪還契約の時みたいに三人で握手をした。

 大口の依頼が入って嬉しいのか、レオンは輝かんばかりの超笑顔だ。

 そして私もトラジロウもニッコリ!

 需要と供給がピッタリ合うって素晴らしいね!

 ウィンウィン!



「あ、でも他のお仕事とか……そっちは大丈夫?」

「フッフッフ、スゴ腕の俺はもうノルマ達成してるからな。しばらく自由なんだぜ!」

「そっか! ありがとう!」



 賞金稼ぎグループはノルマ制らしい。

 そしてレオンはきっと、夏休みの宿題は全部七月中に終わらせるタイプ。

 私は自由研究とか読書感想文とか面倒臭いのが最後まで残ってヒーヒー焦るタイプ。

 そういえばこの世界に学校ってあるのかな。

 いや学校くらいあるか。



「いやー、断られなくてラッキー!」

「そう?」

「あぁ。こんな面白そうな依頼、そうそう見つかんねぇからな」



 は?



「……ねぇ。今何て言った?」

「こんな面白そうな依頼は見つからねぇって、っておっと! いきなり殴り掛かるなんて、危ねェだろーが!」

「っ! 離し、て!」

「ユカリやめろ! レオン、悪いが離してやってくれ」



 レオンから距離をとって睨みつけた。

 目の前の男は何が何だか分からないという表情だ。



「……面白そうだって?

 あと25日で……私死んじゃうって知ってるくせに!? 信じらんない!」

「お、おい、それって」



 伸ばされた手を払いのけて叫ぶ。



「レオンなんかもう知らない! 契約破棄だ、このおバカ!」

「ユカリ! いい加減にしろ!」



 左手で強く握った杖を振って、全力で走り出した。



「オ、オイちょっと待てよ! キリヤ! 待てって! クソッ!」



 背後から風が吹き始め、やがて身体を浮かすほどの追い風になる。

 それに乗ってより速く走る。


 こうすれば島に住む凶悪ウサギもイノシシも私には追いつけなかった。

 クマ師匠でさえ追いつくのには手こずっていた。

 今追いつけるのはトラジロウだけ。

 みるみるうちにレオンの姿も声も届かなくなった。


 それでもヤケクソになって走っていると大きな坂の頂上に辿り着いた。

 魔法のお陰で全然疲れていない。



「うわぁ……!」

「……、はっ、やっと止まったか……」



 そこから見えたのは大きな海と港街。

 白い壁や赤茶の煉瓦造りの建物がズラリと迷路のように並んでいる。

 まるで地中海の何処かの国のような街並みだ。


 街の門から幾つも伸びた道では沢山の馬車が出入りしている。

 きっとあそこは、最初の街とは段違いに華やかで賑やかだ。


 美しい海は太陽の光をキラキラと反射させている。

 港を見れば大きな船や小舟が幾つも並び、海の向こうにも多くの船が見えた。

 あそこの港から次の大陸へ向かう船に乗るのだ!


 再び杖を振って走り出した。



「トラジロウ! 行くよ!」

「コラ! 待てこの考えなし!」






これにて第1章は終了です!(`・ω・´)

読んでくださり、ありがとうございました!!!

 評価、感想頂けるとヤル気出ます!

 誤字報告もお待ちしております!

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