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20 祭りだー!




 夜空を見上げればいつの間にか星が輝き、月光と炎に照らされながら峡谷の覇者、オオワシ達が舞っていた。


 カレタカさんが立ち上がり、この場は静寂に包まれる。



「ここに集まった誇り高き風の民よ。私は風の長、カレタカだ。皆も既に知っている通り、今宵は喜ばしく、大切な夜。

 我が娘、メルルを賊から救い出してくれたキリヤ殿、トラジロウ殿、レオン殿への御礼ノ儀。我が息子メルロと風の巫女フィーナの婚約ノ儀。

 一晩で二つの儀を行えるこの喜び、大いなる【風の峡谷(ヴェントーレ)】と私達の主シルヴェスティ様に捧げようではないか!

 皆の者、存分に飲み食い、唄い踊れ!」

 


 言い終わると同時に激しく太鼓が打ち鳴らされた。

 美しく着飾った女性たちが飛び出し、激しく情熱的な舞を披露しはじめたのだった。






******






「キリヤ殿、遠慮せずもっと食べなさい!」

「え、本当にいいんですか」



 太鼓や笛が生み出す音楽に体を揺らし、ちまちまと美味しいご飯を食べていたときだ。

 新婦さんのお父さんが切り分けられた丸焼きの肉を、輝かしい笑顔で渡してきた。


 どうやらトラジロウに忠告されてセーブしていたのを見抜かれたらしい。

 お金を払わずバクバク食べるのは気が引けていたから、それで十分だったんだけども。結婚のお祝いの席だしね。



「もちろん! これは貴方達への感謝の儀なのだから!」

「あ、ありがとうございます!」

「これは結び牛の肉だ。さぁ、食べなさい!」



 新婦さんのお父さんは切り分けた羊肉を、さらに葉っぱのお皿に載せてくれた。

 こんもりと山のように盛られた肉は、隣にやってきたメルちゃんの分も一緒だ。

 お礼を言うと、新婦さんのお父さんは他の人に肉を配りに行った。

 ちなみに今のは2周目である。



「ありがとうございます」

「おねぇちゃん、あーん!」

「あーん! ん、んん、うみゃー! 美味しいよメルちゃん!」



 ほっぺに両手を当てて身体をくねくねと震わせると、メルちゃんは嬉しそうに飛び跳ねた。

 周りの大人もにっこり花を咲かせたこの子にメロメロになっている。



「あっ、そうだ」

「なぁに?」


 小さなお耳にそっと口を寄せてごにょごにょ囁いた。

 我らがアイドルは悪戯っ子な浮かべ、両手にお肉を装備した。

 そしてお父様やお母様を始めとするファン達に「はい、あーん!」と言いながら突撃!

 しばらくするとみんなをデレデレにして、メルたんは達成感で顔を輝かせて帰ってきた。

 自然に膝の上に乗ってくるのがもうね。



「バッチリだね!」

「バッチリなの!」

「はい、メルちゃんもあーん」

「あーん! んん、うみゃー!」

「はぁあん」

「おいしいね、おねぇちゃん!」

「うん、とっても美味しい……!」



 メルちゃんのあーん。

 雛鳥のように大きく口を開けてあーん。


 こんがり肉が入った柔らかそうなほっぺに両手を当てて、くねくね。

 あぁもうこの子、可愛すぎる。

 私のマネをしてくれてるんだけど、もう比じゃないくらい可愛い。



「ユカリ、食べ過ぎには気を付けろよ。お前は底なしなんだから」

「もちろん、分かってるよー。ねー」

「ねー!」

「キリヤ! コレやるよ。ほら口開けろ」

「あー……ん」



 身体をひねって後ろにいるレオンから一口もらう。

 というか突っ込まれた。

 野菜の焼き物か。うーん、胡椒が効いてて美味しい。

 やっぱり味がある食べ物はいい。ずっと塩味じゃ物足りないよね。というかさっきから野菜しかくれないんだけど、それは気のせいかな。



「んじゃ!」

「いってらっしゃい」



 レオンは肉とお酒を口に詰め込むと、お酒のコップを持って席を立ち広場へと向かっていった。

 お酒の力も借りて楽しくなってる彼はなんとあの踊りに参加しているのだ。

 里の同じ年くらいの人と肩を組んで騒いでいる。

 どうやら身振り手振りと表情などでコミュニケーションを取っているらしい。

 楽しくなっちゃってるみんなでゲラゲラ笑っている。すごいっす。


 踊るのはすごく楽しそうなんだだけど……ちょっと恥ずかしくて無理かな。



「はい、トラジロウちゃんもあーん」

「あーん。……ん、美味い!」

「……」

「う……、うみゃー!」

「んぁあんかわいいー!」



 トラジロウの言う通りこのお肉美味しい。

 手間を掛けて焼いたこの肉には臭みがないし、噛んだ時の繊維の食感や舌に絡みつく脂が気持ちいい。

 癖になりそうだ。



 これがメルロさんとその相棒が狩ってきた巨大コロネ牛、スクルホーン。

 二本の角が螺旋状に絡み合い、大きな一本の角になっているという特徴的な角を持つ。


 風の民からは「結び牛」と呼ばれている。


 角を一生を共にする夫婦に見立て、結婚式でご馳走するのが里の昔からの習慣なのだそうだ。

 ゲン担ぎってヤツですね。異世界にもそういうのはあるんだね。


 新郎とオオワシ一組の力だけで狩って己の力を示し、結婚を認めてもらうのだそうだ。

 テントから飛び出したあの時、メルロさんはすぐさま相棒と飛んでいき、10分も経たないうちに仕留め、そしてプロポーズというスゴ技を披露したらしい。

 狩れたらベテランと言われる牛を10分で。

 それも一突き。メルロさん半端ない。



 愛の力で仕留めた獲物は、一度蒸し焼きにしてから中央の篝火で再び焼き、広場の真ん中で解体ショーをしたあと、みんなにご馳走された。



 その新婚夫妻さんたちはというと。



「メルロさん、……あーん」

「……あー」



 恥ずかしそうにあーんしているのだ。

 寡黙でクールな()()()のメルロさんが恥ずかしそうに、あーって声に出して。

 これはニヤけますね!!!



 この場はあーんフィーバー!


 トラジロウにそんな特別なご馳走をあーん。

 そして残りは私があーん。


 メルちゃんはお友達のちびっ子同士であーん。

 みんなで一緒に、両手は頬っぺ身体はくねくね。

 「うみゃー!」と叫んで楽しそうにはしゃいでいる。

 エクストリームかわいい。



「メールーローく〜んっ! あっそびーましょー!」

「っ、邪魔をしないでくれないか?」

「フィーナちゃんごめんねー」

「ええ。旦那様、いってらっしゃいませ」

「くっ……、旦那様、いい響きだ……!」

「よォーし、連れてけー!」

「あっ、まて! 俺は許可していないぞ!」



 メルロさんが里の楽しくなっちゃってる若者たち(レオン含む)に絡まれ広場に連行されていった。

 なんかもうレオンさんみんなと普通に喋ってる。

 たまに会話が噛み合ってないけど両方とも気にせず、ゲラゲラ肩を組んで楽しくやっていた。

 彼がすごいのか、お酒の力がすごいのか。

 どっちもか。






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