焚き火
「・・温かい。」
隣にいる少女は手を摩りながらそう呟いた。
目の前には燃え盛る炎。
バチバチと音をたて、黒い煙が空へと向かっている。
「そりゃそうさ、焚き火だもの。」
僕は笑ってそう言った。
「そうね。」
彼女は僕の言葉に少し笑う。
その瞳には炎が映っているが、彼女にはその炎は見えない。
わずかに光を感じるくらいだ。
僕は思わず彼女の体を引き寄せた。
「あなたの体も温かいわね。」
「そうかい?」
なにげない会話をうれしく思う。
・・たとえ――
「なにか変な臭いがするわね。」
顔は正面を向いたまま彼女は小首をかしげる。
「いろいろ燃やしたからね。」
僕はまた笑ってそう言った。
彼女の髪に指を絡めながら目の前の炎を何の感慨もなく見つめる。
・・そろそろあれも燃え尽きるだろう。
「君は先に部屋に戻るといいよ。僕は後始末するから。」
「わかったわ。・・早く戻ってきてね。」
彼女はそう言うと杖をつきながらゆっくりと家の中へと戻っていく。
僕はその様子を見守り、目の前の若干勢いが弱まった炎へと目を向けた。
「さすがに灯油をかけて燃やすと違うな。」
燃え損ねて風に遊ばれる布きれを拾う。
そしてそれを炎の中へと入れた。
「それでもさすがに残るか。」
少しではあるが白いものが炎の中に残っている。
だがさすがに形はほとんど残っていない。
「・・・・。」
彼女が燃やしている最中に来たのが誤算だったが、ある程度燃えた後なので誤魔化せたようだ。
「『温かい』・・・か。」
今ほど彼女の目が不自由だったことに救われる思いをすることはないだろう。
見えていたらと考えるだけで寒気がする。
「・・僕は温かくなんてないよ。」
そう呟いて天を仰いだ。
青空が涙で滲んで見えない。
ただ嗚咽が零れる。
「・・・っ。」
――たとえ。
たとえ、君が真実を知ってしまったとしても。
君は焚き火のように僕の事を温かいと言ってくれるだろうか・・・。
いろいろと謎がある悲しげな鬱の話。
彼女が失明した理由や燃えてるモノの正体など設定はありますがあえて謎のままで。
もっと突っ込んで書いてもよさそうですが、これくらいの謎を残したほうが自分的には好きです。
彼と彼女のその後・・みなさんでご想像してください。