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1ヶ月が無為に過ぎた。

蓮見リリは責任能力なしと判断され無罪放免。その後は重篤な精神疾患を認められ警察の管理下にある閉鎖病棟へと収容された。


その蓮見への面会許可がやっとおりた。

鉄道を乗り継ぎ、都心を遠く離れ郊外へ。休日に1日潰してまで来たのだ。

必ず何か聞き出してやる。


いつまでもこの件に関わっている朝宮に対して署内の人間も白い目を向け始めていた。


だが文句は言わせない。

誰よりも犯罪者どもを駆逐しているのはこの俺だからだ。

今回だってそうだ。

真実を白日の元にさらし、法の裁きを受けさせてやる。


少年法?

知ったことか。

俺の仕事は人殺しを逮捕することだ。


それにしても閉鎖病棟と言うのはここまで酷いものなのか。

朝宮は廃墟同然の小汚ないビルに顔をしかめた。

ここには一般患者もいるはずだ。

いくらなんでも扱いが悪すぎる。

まるで隔離所だ。

こんなところに居る方が病気が悪化するのではないだろうか。


「警察庁の朝宮だ。蓮見リリへの面会をお願いしたい」


受付に座る初老の看護師はのっそりと体を前に倒し書類を受けとると、老眼鏡をかけたり外したりしながら確認の作業を行った。


「おい、早くしてくれよ。許可はとってあんだ。さっさとハンコつきゃいいんだよ」


「はぁ、でもこの方はまだ状態が安定してませんからねぇ。面会ってのはどうなんですかねぇ」


「おい、聞こえなかったのかよ。許可はとってあるって言ってんだ!早くしやがれ!」


悪いとは思ったが声が出てしまった。

なるべくなら他の患者を刺激したくはない。だがこのババア何だっていうんだ、勝手なこと抜かしやがって。


大体不気味な病院だった。

設備は古いし、風通しも悪い。

こっちこそ一刻も早くこんなところからは出ていきたいというものだ。


やっと手続きが終わり、朝宮が通されたのは殺風景な小部屋だった。

小さな窓と机がひとつある他は何もない。セメントの質感がそのまま伝わってきそうなコンクリートの壁がまるで独房を想起させる。

逮捕時に所持していたものだろう、学生がよく使うようなスポーツバックが部屋の隅に置かれていた。

10代の少女とは相容れない環境。

だがそれも特におかしいとは思えなかった。


こいつは殺人鬼だ。

30人を殺害したクレイジーなサイコ野郎だ。



蓮見リリは端正な面立ちをしていた。

鼻筋の通った横顔、長い睫毛、意思の強そうな眼差し。

ロングヘアーの黒髪に目元で切り揃えた前髪。


これまた逮捕時に着ていたのであろうセーラー服に袖を通していなかったら20代でも通用しそうなほどに彼女は大人びて見えた。


「蓮見リリ、やっと会えたな。俺は朝宮誠。刑事(デカ)やってる。てめぇに聞きたいことは山ほどあるんだ。話、聞かせてもらうぜ」


「調書をお読みください。すでに伝えるべきことはお伝えしたはずです」


蓮見の発した言葉は恐ろしいほどに感情のこもらない声音だった。

人はこれほどまでに無感情に話せるものなのか。少なくとも今まで自分が接してきたどのタイプの人間とも違うと朝宮は直感した。


「俺はな、おとぎ話が聞きたい訳じゃねえんだよ。ちゃんとお前自身の口から何が起こったのか聞かせてくれよ」


「私は事実を述べています」


「心神喪失で無罪放免ってか?悪いな、嬢ちゃん。俺にその手は通用しねえよ。だってあんたどっからどう見てもまともだもんな」


本心だった。不思議なことに蓮見リリはおかしな事を証言しているにも関わらず極めて正常に思考しているように思えた。これまた今まで朝宮が出会った心神喪失の犯罪者たちには当てはまらない傾向だった。


「ありがとう」


微かに蓮見が笑った。

その顔は美しく整っていたが何故か不安を掻き立てられた。


「おい、お前舐めてんのか」


「人は自分の見たいと欲する現実しか眼に入らない。刑事さん、あなたも現実から眼を背けますか?」


有無を言わせぬ眼差し。

朝宮の刑事としての勘が警告を発し始めていた。

真実を語る眼。

まさか。そんなはずはない。

ガキの夢物語だ。


「それ、何読んでんだ?」


朝宮は話題を転ずることにした。

今のところ彼女のペースだ。

屈辱だった。

子供に踊らされてたまるか。


魔導書(スペルブック)です」


まるで辞書のように分厚いハードカバー。紫色の装調に表紙には六芒星というのだろうか、薄気味悪い星印。

趣味の悪い本だ。


「はぁ、なあ嬢ちゃん。大人の話をしようぜ。いつまでも夢見る少女じゃいられねえんだ。俺は真実を知りてえんだよ。あの日、何があったのか。教えてくれよ」


「刑事さん、真剣ですね。いいでしょう。ひとつだけ真実をお教えしましょう。不都合な真実を」


気取りやがって。

段々、蓮見と話していると頭がおかしくなりそうな自分に朝宮は気づき始めた。

淡々と話しているだけの少女の言葉に妙な威圧感を感じる。


「被害者の吉岡康介(よしおかこうすけ)。私たちの担任をしていた方です」


「てめぇが殺した相手と言ったほうが記憶に残ってるぜ」


挑発してみたが蓮見はクスリと笑うだけだった。

どこまでも彼女のペースで進んでいく。

主導権を握ることができない。


「刑事さんは彼の顔をはっきりと思い出すことができますか?」


「あ?刑事(デカ)舐めんなよ。関係者のデータは全部頭に入って」


言ってから気づいた。

吉岡?

清霜高等学校2年C組担任。

事件の被害者。


確かに顔の印象が薄い。

何故だ。

今までそんな事はなかった。

関係者の顔を忘れるなんて。


「彼はどんな人だったかしっかりと思い出せますか?」


当たり前だ。

事件の被害者なのだから。

蓮見が殺した生徒達の担任。

清霜高校の2年C組を受け持っていた教諭。


反芻(はんすう)しながら気づいた。

それだけしかデータが出てこない。

馬鹿な。

被害者に関しても経歴から人柄まで完璧に把握してきたはずだ。


「これ以上は詮索しないほうがいいでしょう。事件は終わったのです。今日のところはこれでお引き取りを」


朝宮の頬を一筋の汗が伝った。

事件の記憶が遠のいている?

たかが1ヶ月前の事件の記憶が?


「蓮見、お前は何者なんだ」


「魔法少女、ですよ」


ちゅうい!


本文中にある閉鎖病棟の描写は雰囲気作りです。

作者の脳内妄想100%で出来た代物でありますので実際とは何の関係もございません。


不快感を覚えた方、ご容赦下さいませ

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