神話
二千文字の文章を書くのに三時間かかりました・・・
誠也は門をくぐると、いつの間にかまったく知らない場所を歩いていた。どこかの通りを歩いていたらしく、道にはきれいに石が敷き詰められ、その両脇に露店が並んでいる。道もそうだが周りの建物は石や煉瓦でできている。通りの向こう側には城のような建物が薄っすらと見えていて、どこか外国に来たようだと誠也は思った。
「ここが、ガイアなんだろうか」
周りは、露店があるためか人通りが多い。そこで、誰かに話を聞こうとしたのだが、重要な問題に気が付いた。それは、日本語が通じるのかである。ハーレムのことで頭がいっぱいだった誠也はそのことをまったく考えていなかったのである。どうしたものかと腕を組み歩きながらも考え始めた誠也はまた別のことに気付く。
「おやっ」
誠也は今、通りを城に向かって歩いている。当然、城側から来る者もいるのだが、そっちは特に何もない。露店で何かを買ったりしており、景色以外は日本の歩行者天国のようである。強いて上げるならば一部、肩を落としながら歩いている者がいるくらいだ。気になったのは城に向かっている者たちである。全員がわくわくした表情で歩いて、露店には目をやらず城に向かってひたすら歩いているようなのである。それは何かのイベントに急いでいるように誠也には見えた。城に向かう人たちが気になった誠也は言葉の問題は取り敢えず放置して、そのまま城に向かって歩いた。
誠也は、周りの声を聞きながら歩いていたのだが、そのことであっさりと言葉の問題は解決することができた。人が多いせいか聞きづらく、今までわからなかったのだが、誠也には周りの会話の意味が理解できたのである。
「神殿までが遠いぜ」
「おい、もし「アレ」を手に入れることができたらどうする」
「そうだな、やっぱ、戦わせるか。夜の相手をさせるか」
「へへっ、夢がふくらむぜ」
「つっても、俺らに資格があればの話だけどな」
・・・・・・
「あー、そういうことか。まるで物扱いだな」
誠也は、額に手を置きながら苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。
漠然とだが、彼らが何をするために城に向かっているのか。誠也はなんとなく理解したのだ。
まず、誠也が城だと思っていた建物はこの町の神殿で、今日はそこで何か「モノ」の所有者を決める何かの儀式をしているようなのである。会話の内容からその「モノ」が何か。会話の内容と誠也が老人に言った希望を組み合わせることで誠也には推測することができた。だが、気持ちの良い話ではないし、なにより情報が不足している。
そこで誠也は、神殿の近くまで歩くとムスッとした表情で座り込んでいた男に話を聞くことにした。
「すまない。あそこで何をしているんだ。俺は、田舎から出てきたばかりでね。よくわからずにここまで来てしまったんだ」
誠也としては、なるべく友好的に声をかけたつもりだったのだが、男はムスッとした顔のまま立ち上がりそのまま歩き出してしまった。
「困ったな。俺、少し口調が偉そうなところがあるらしいからな。それとも無料で情報を貰おうとしたのが、間違いだったか」
誠也は、頭に手を置いてうなった。
現代日本では、人に何か聞かれれば、余程変なことを聞かれないかぎりは答えるのがマナーだ。しかし情報は金になる。地球でも情報を商品になるし、インターネットなどがないだろうガイアでは地球より情報は貴重なのかもしれない。そう考えた誠也は、ポケットから、財布を取り出し十円玉を数枚抜き取り、さっきの男に近づき十円玉を握らせる。
「さっきはすまなかった。これでの情報を貰えると助かるんだが・・・」
「なんだこのコインは。金じゃないのか」
当然のことながら、この世界では十円玉には通貨としての価値はない。しかし誠也はこの世界のお金を持っていない。そこで誠也は十円玉で情報を買うことにしたのだ。
「いや、ここに来る途中で見つけたコインでな。細工も細かいし、何よりこいつは銅でできている。売れば、少しは金になると思うんだが・・・」
「まあ、いいだろう。それでお前さんは相当の世間知らずと見たが、どこから知りたいんだ」
どうやら、上手くいったらしい。現代社会ではあまり意識することはないが、十円玉に通貨としての価値とは別に銅という材質自体にも価値がある。もっとも純銅ではないし、この世界で銅がいくらの価値になるかわからないのだが・・・。そこら辺は男の判断次第である。
「悪いな。できれば、儀式の内容から成り立ちまで全てを教えてほしいのだが・・・。わかる範囲でいいよ」
「へいへい。わかったよ」
男は、誠也の言葉に肩をすくめながらも話が始まった。わかる範囲と言ったのだが、男の話はとても詳しく、この世界の神話から話が始まった・・・・・・
この世界、ガイアは唯一神の女神とその夫である男神の手によって創造されたとされている。
唯一神である女神はこの世界の表を作った。
夫の男神はこの世界の裏を作った。
この世界の表とは、生き物が生きていく上で必要なものであった。人間、人間以外の動物、植物、水、空気、太陽、亜人そして生きること。それらすべては女神が作った。
そして、裏とは世界に生きる者にとって不要なもの。魔物、モンスター、自然災害、死。それらの生物にとって喜ばしくないこと全てを男神が作った。
光があれば闇が必要だ。人間にとって不要なものであっても、世界のバランスを保つためには必要なもの。男神は仕方なく闇を作った。それにただの神である彼には表を作ることができなかった。
そこまでは、問題なかった。
二人はお互いを愛していたし、なにより、世界を創造したばかりで世界の仕組みを理解できるほど人間も賢くなかった。
しかし、時代が経つに連れ人は賢くなる。世界の仕組みを理解した人たちは、女神に感謝した。
毎日の食事時には、糧をありがとう。子供を授かったときには、新しい命をありがとう。
女神は人々の信仰と感謝を受け、光輝いた。
一方で、人たちは男神を嫌悪し憎んだ。飢饉で人が死ねば、なぜ死ななければならないと男神を恨み。モンスターに仲間を殺されれば、なぜこんな存在を作ったのかと憎む。
男神は人々の負の感情を全て受け、世界の日蔭で鬱々としていた。
それでも、最初は問題なかった。
男神は眩い光を放つ女神を見るのが好きだったし、女神は男神以上に男神への愛が深かったから。
ただ、神とは人々の信仰を受けるものである。男神は人々の信仰をまったく受けられず、逆に憎悪を向けられる日々に徐々に病んでいった。
元々、ただの神である男神と唯一神である女神では持っている力に大きな差があった。男神自身、今まで気付かなかっただけで、女神の力に嫉妬していたのかもしれない。
だから、男神は女神にこう言った。
「僕に、君の力を封じさせてほしい」
一番は男神が力を得ることで女神と対等になることだった。しかしそれは女神の力が強力すぎるため、無理だった。そこで、男神は女神を下げることで男神を上げることを思いついたのだ。
この言葉を聞いた女神は、快く了承した。女神自身は男神の悩みに気付いていたし、それで夫が安心するならば、それだけだった。しかし、女神には男神の暗い感情に気付かなかった。
そして、二人は誓いのキスを交わし、女神は男神の許可なしでは力を行使することができなくなった。
それからは女神は表舞台に残りながらも、男神の指示で力を使うことになった。
しかし、今度は問題がすぐに起きた。
自分より強力な女神の力を上手く扱うことができなかったのだ。それに加えて、世界の闇を作った男神が指示を出したことで世界の光と闇のバランスが崩れ始めたのだ。少しずつであるが、死ぬ人は増え、代わりにモンスターや魔物が増え始めた。
女神はそのことにすぐに気付き、男神に封印の解除を求めた。
女神自らの判断で力を使えるように。女神は、男神がすぐに封印を解除すると思っていた。それが神として当然の判断であるし、なにより愛する女神の願いを聞かないはずはないと思っていたから。
しかし、嫉妬というには温い(ぬるい)、神には相応しくない暗い感情を抱いていた男神は女神の願いを聞かなかった。女神に指示を出す立場が心地良かったし、この時には男神の精神は堕ちていたのだ。
そこで、女神は初めて男神が堕ちていることに気付いた。暗い感情を持ったことで神として狂ってしまっていることに。
このままにしておけば、いつか世界は滅んでしまう。だが、今の女神はただの女である。できることは少なく、そして、唯一神の責任と男神との愛に揺れ動く普通の乙女でもあった。
彼女は悩んだ末に、女神は男神をナイフで刺殺した。
世界を守るために。
愛する夫を止めるために。
本来、神を殺すことなどできない。男神はナイフ一本で死ぬほどに神とはかけ離れた存在になっていたのである。胸にナイフが刺さったまま、唖然とした表情をした彼の姿は、まるで普通の人間のようだった。
彼を殺した彼女は、力を取り戻した。しかし、殺人という神に相応しくない行為をした彼女は堕ちつつあった。そこで彼女は最後に世界を元に戻すために力を使い、ただの人間になった彼女はそのままどこかに消えて行った。
申し訳ありませんが、次回は神話②になります。
ヒロインの登場はその次で、本格的に話に絡むのはさらにその次になります。
一応、今日までに神話②を上げるつもりなので、少し待っていてもらえると助かります。遅くてすみません。