お婆さんとミニスカート。
「…ねぇ、またなの?」
「何よ深月、そんなに…お婆ちゃんが嫌い?」
「別に嫌いじゃないけど…」
…実際僕は、お婆ちゃんが苦手だ。
お婆ちゃんと言っても、まだ60歳だ。
何を考えているか解らないし、
家に行けば特に何もなく、縁側でのほほんとしてるだけ。
なのに、僕が少し悪い事をすると、すぐに怒る。
1時間以上正座させられるし、何なんだ…
「…ほら、着いたわよ」
「うん…って、あれ、お母さん行っちゃうの?」
「…ええ。それじゃ…」
…いつもはお母さんが居るからお婆ちゃんとも話せているけど…
何か気まずい…
「…いらっしゃい、よく来たねぇ」
「う、うん…」
僕は愛想笑いを浮かべながら、家に入る。
いつもの通りだ。
…帰りたいなぁ。
「…あれ、猫なんか飼ってたっけ?」
「…あぁ、この子は少し前から此処に住み着いているんだよ」
「へぇ…」
真っ白な猫は、僕に擦りよってくる。
お婆ちゃんは其れを見て、にっこりと笑った。
家に入ると、和室が異様に片付いていた。
「…?お婆ちゃん、何でこんなに綺麗なの?」
前までは、確か荷物が沢山有ったはずだ。
なのに、今では机と椅子、そしてテレビと布団が有るだけだ。
「…それは…」
お婆ちゃんは少し躊躇っている。
…何か有ったのだろうか。
「…その、お母さんと、お父さんが、離婚…するのよ」
「…へ?」
…僕は驚きのあまり、頭が真っ白になった。
「…だから、これからはうちで暮らして貰うことにしたの」
「…どっちかと暮らすとかじゃ、駄目だったの?」
「…お父さんは何処に行っちゃったか解らないし、
お母さんは、もうあなたを養うことは出来ないって…」
…何でだ?
何処で何が狂ったんだ?
こんなド田舎で、しかも友達とも離れて?
…何で、こうも、僕は不幸なんだ…?
「…まあ、馴れないことも有るだろうけど…」
僕はお婆ちゃんの言葉なんて聞かずに、和室に閉じこもっていた。
…何で、何で…
…そう考えると、涙が溢れてくる。
─それから1ヵ月後、僕は段々とこの町に慣れてきた。
友達も出来たし、特に不便もない。
…そんなある日。
「そう言えば、今日お婆ちゃんの誕生日だっけ」
「…え?」
…ついさっき思い出したのだが、お婆ちゃんも忘れていたようだ。
「…ちょっと、買い物でも行かない?」
「うーん…」
お婆ちゃんは少し苦笑いをする。
何か嫌な事でも有るのだろうか…
「…ちょっと待ってて」
そう言うとお婆ちゃんは、上へ上がっていった。
…待つこと10分。流石に遅過ぎる。
ノックをして、お婆ちゃんの部屋へ入る。
「お婆ちゃん?」
返事はなく、見てみるとお婆ちゃんはミニスカートを手に持ち少し涙ぐんでいた。
「…お婆ちゃん?!どうしたの、何処か悪いの?!」
僕がそう駆け寄ると、お婆ちゃんはハッとして、此方を向いた。
「…あ、いや…何でも無いわ…」
…結局、買い物に行くのを拒否されてしまった。
次の年も、その次も。
誕生日の時は、ずっとお婆ちゃんはミニスカートを見つめていた。
─月日は経ち、あれから11年。
俺は23になり、婆ちゃんは71。
そして、特に変わらぬ日々を過ごしていた。
飼っていた猫は、もう居ない。
「…ねぇ婆ちゃん。今年こそは出掛けようよ」
─今日は、誕生日。
「…嫌だ」
「…何で?」
婆ちゃんは黙ったまんまだ。
何処かを虚ろな目で見ている。
「…教えてよ」
「…あのミニスカートは、私の夫…つまり爺ちゃんから貰ったものなんだよ」
…婆ちゃんは、昔よりゆっくりな速度で話し始めた。
「…爺ちゃんは、優しい人でね…
給料が入ったら、何でも買ってあげるって言われたもんだね…
でも、私は良いよって言い張ってたんだけど、
有る年だけ、とてつもなく粘ってね…」
婆ちゃんは、遠くを見てにっこりと微笑みながら話す。
「…それで、ミニスカートを買ってもらったのさ。
…でも、その5ヵ月後、爺ちゃんは事故に有って亡くなったんだ」
…だから、そんなにミニスカートを大事にしてるのか。
「…それでね…私は、爺ちゃんに悪いと思ってるんだよ。
爺ちゃんが亡くなって、それから自分を祝うなんて、そんな事…」
「…爺ちゃんだって、許してくれるよ。
爺ちゃんも、きっと婆ちゃんのミニスカート姿、見たかった筈だし…」
婆ちゃんは少し驚いた様な顔をしたけど、その後すぐに笑った。
「…あは、ミニスカート婆ちゃんか」
「婆ちゃんだって、ミニスカート位似合うよ。
…だから婆ちゃん、早く用意しないと」
「…そうだね。
…やれやれ、困った孫を抱えたもんだ…」
婆ちゃんの笑顔は、いつもより輝いて見えた。
─それから8ヵ月が過ぎたある日、婆ちゃんは亡くなった。
とても綺麗な笑顔だった。
遺影は、俺と婆ちゃんとで撮った写真を切り抜いたものだった。
婆ちゃんは、爺ちゃんに逢えただろうか。
俺は、縁側の8匹の白猫を見ながら思う────。
どわー、初めて書きました、短編です。
疲れましたぁ…
此処まで見て下さった方々、ありがとうございます!