表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お婆さんとミニスカート。

作者: あど

「…ねぇ、またなの?」


「何よ深月、そんなに…お婆ちゃんが嫌い?」


「別に嫌いじゃないけど…」


…実際僕は、お婆ちゃんが苦手だ。


お婆ちゃんと言っても、まだ60歳だ。


何を考えているか解らないし、

家に行けば特に何もなく、縁側でのほほんとしてるだけ。


なのに、僕が少し悪い事をすると、すぐに怒る。


1時間以上正座させられるし、何なんだ…


「…ほら、着いたわよ」


「うん…って、あれ、お母さん行っちゃうの?」


「…ええ。それじゃ…」


…いつもはお母さんが居るからお婆ちゃんとも話せているけど…


何か気まずい…


「…いらっしゃい、よく来たねぇ」


「う、うん…」


僕は愛想笑いを浮かべながら、家に入る。


いつもの通りだ。


…帰りたいなぁ。


「…あれ、猫なんか飼ってたっけ?」


「…あぁ、この子は少し前から此処に住み着いているんだよ」


「へぇ…」


真っ白な猫は、僕に擦りよってくる。 


お婆ちゃんは其れを見て、にっこりと笑った。


家に入ると、和室が異様に片付いていた。


「…?お婆ちゃん、何でこんなに綺麗なの?」


前までは、確か荷物が沢山有ったはずだ。


なのに、今では机と椅子、そしてテレビと布団が有るだけだ。


「…それは…」


お婆ちゃんは少し躊躇っている。


…何か有ったのだろうか。


「…その、お母さんと、お父さんが、離婚…するのよ」


「…へ?」


…僕は驚きのあまり、頭が真っ白になった。


「…だから、これからはうちで暮らして貰うことにしたの」


「…どっちかと暮らすとかじゃ、駄目だったの?」


「…お父さんは何処に行っちゃったか解らないし、

お母さんは、もうあなたを養うことは出来ないって…」


…何でだ?


何処で何が狂ったんだ?


こんなド田舎で、しかも友達とも離れて?


…何で、こうも、僕は不幸なんだ…?


「…まあ、馴れないことも有るだろうけど…」


僕はお婆ちゃんの言葉なんて聞かずに、和室に閉じこもっていた。


…何で、何で…


…そう考えると、涙が溢れてくる。



─それから1ヵ月後、僕は段々とこの町に慣れてきた。


友達も出来たし、特に不便もない。




…そんなある日。


「そう言えば、今日お婆ちゃんの誕生日だっけ」


「…え?」


…ついさっき思い出したのだが、お婆ちゃんも忘れていたようだ。


「…ちょっと、買い物でも行かない?」


「うーん…」


お婆ちゃんは少し苦笑いをする。


何か嫌な事でも有るのだろうか…


「…ちょっと待ってて」


そう言うとお婆ちゃんは、上へ上がっていった。




…待つこと10分。流石に遅過ぎる。


ノックをして、お婆ちゃんの部屋へ入る。


「お婆ちゃん?」


返事はなく、見てみるとお婆ちゃんはミニスカートを手に持ち少し涙ぐんでいた。


「…お婆ちゃん?!どうしたの、何処か悪いの?!」


僕がそう駆け寄ると、お婆ちゃんはハッとして、此方を向いた。


「…あ、いや…何でも無いわ…」



…結局、買い物に行くのを拒否されてしまった。



次の年も、その次も。


誕生日の時は、ずっとお婆ちゃんはミニスカートを見つめていた。



─月日は経ち、あれから11年。


俺は23になり、婆ちゃんは71。


そして、特に変わらぬ日々を過ごしていた。


飼っていた猫は、もう居ない。


「…ねぇ婆ちゃん。今年こそは出掛けようよ」


─今日は、誕生日。


「…嫌だ」


「…何で?」


婆ちゃんは黙ったまんまだ。


何処かを虚ろな目で見ている。


「…教えてよ」


「…あのミニスカートは、私の夫…つまり爺ちゃんから貰ったものなんだよ」


…婆ちゃんは、昔よりゆっくりな速度で話し始めた。


「…爺ちゃんは、優しい人でね…

給料が入ったら、何でも買ってあげるって言われたもんだね…

でも、私は良いよって言い張ってたんだけど、

有る年だけ、とてつもなく粘ってね…」


婆ちゃんは、遠くを見てにっこりと微笑みながら話す。


「…それで、ミニスカートを買ってもらったのさ。

…でも、その5ヵ月後、爺ちゃんは事故に有って亡くなったんだ」


…だから、そんなにミニスカートを大事にしてるのか。


「…それでね…私は、爺ちゃんに悪いと思ってるんだよ。

爺ちゃんが亡くなって、それから自分を祝うなんて、そんな事…」


「…爺ちゃんだって、許してくれるよ。

爺ちゃんも、きっと婆ちゃんのミニスカート姿、見たかった筈だし…」


婆ちゃんは少し驚いた様な顔をしたけど、その後すぐに笑った。


「…あは、ミニスカート婆ちゃんか」


「婆ちゃんだって、ミニスカート位似合うよ。

…だから婆ちゃん、早く用意しないと」


「…そうだね。

…やれやれ、困った孫を抱えたもんだ…」


婆ちゃんの笑顔は、いつもより輝いて見えた。




─それから8ヵ月が過ぎたある日、婆ちゃんは亡くなった。



とても綺麗な笑顔だった。


遺影は、俺と婆ちゃんとで撮った写真を切り抜いたものだった。


婆ちゃんは、爺ちゃんに逢えただろうか。


俺は、縁側の8匹の白猫を見ながら思う────。

どわー、初めて書きました、短編です。


疲れましたぁ…


此処まで見て下さった方々、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ