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「 地底の水曜日。 」

作者: しけた。

 水曜日には地底に潜る。火曜や木曜日ではない、わたしの爪は水曜日によく伸びる、まずアスファルトに爪を立てる、アスファルトは硬いがわたしの爪はそれよりも硬く尖っていて親指の付け根に力を入れるとごぶりと、アスファルトに突き刺さる、薄いアスファルトと抜けると砕石の層に突き当たる、ここから下は路盤路床路体と続きアスファルトよりも柔らかいので、爪の先端を少し丸くし、用心深く掘る、乱暴なものたちはここをがりがりと力任せに掘るもので時折生き埋めになったりもするが、わたしはそんなことはしない、掻き出した路盤や路床を唾液で丹念に固め塗り付ける、わたしの唾液は空気に触れると硬化する性質がある、わたしは穴の周りを硬くしながらじりじりと掘り進む、しばらくするとひとの手が及んだことのない、処女土に出る、それは爪の先から伝わる土の感触で解る、わたしはこの瞬間が好きだ、わたしが地底に潜ることの意味を、わたしが地底に還ることの意味を教えてくれる瞬間だからだ、ここの土は赤い、掘れば掘り進むほどに赤くなり、血の色になる、それはわたしの祖先が地底に潜る前に沢山のわたしたちの祖先を殺し、地上を血で染めたからだ、その光景を見た祖先は自らの爪で自らの眼を潰し、地底に潜った、わたしたちはその子孫で、わたしもそのひとりだ。

 赤い土を掘り進む。理由も解らない涙を流しながら赤い土を掘り進む、やがて硬い、アスファルトよりも硬いものに触れる、爪はもうぼろぼろになり指の先からは血が出ている、わたしはその指先でそっと、硬いドームの表面に触れる、もう何世紀も前に先祖が建てそして捨てたドームの表面に触れる、それはいつも冷たい、だからわたしはドームを抱き締める、まるで母鳥が卵をあたためるように、ドームを抱き締める、いつか先祖がドームの殻を破り地上に出たあの朝が来るまで、わたしはドームを抱き締める、あたためる、粘土のようにどろりとした眠りに包まれる、わたしは眠る、木曜日はまだ来ない。

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