■シーン3(姫、ジョーカー、テトラ)男2女1
■シーン3(姫、ジョーカー、テトラ)男2女1
(※シーン0にキャラクター説明が載っています)
姫を拐った男二人の、なんとも立派な宇宙船の上。姫と先程の男二人が甲板に立っている。
アイゼル城近くの海を漂っている。
姫「ゆううう――――拐されましたっ!!」
テトラ「愉快だね~」
ジョーカー「いや。誤解だ」
姫「誤解!?」
テトラ「ゆカイっ?」
姫「愉快!?」
ジョーカー「不快」
姫「私がですよ」
ジョーカー「うるせえ。俺はあんたの望みを叶えただけだ。即ち。断じて誘拐などという悪業を働いた訳ではない」
姫「偉そうに」
テトラ「姫は――……自分の部屋から身投げして死ぬつもりだった? かな」
姫「そうです」
ジョーカー「目指す落ち場所は底無しの沼。窒息死か、」
姫「当たり所が悪ければ一瞬で昇天できたはずです!」
ジョーカー「あんた馬鹿か」
姫「はい!?」
ジョーカー「(馬鹿にしたように鼻で笑って)死んでどうする」
テトラ「どうして死にたかったの? 姫さん」
姫「いきなり核心つきますか」
ジョーカー「死ななければならない。そう言ったな?」
姫「ええ」
ジョーカー「何故だ?」
姫「答える訳ないでしょう。見ず知らずの人に」
テトラ「頑固な所はジョーカーとそっくりだね。気が合うんじゃない? 君らさ」
ジョーカー「何だと」
テトラ「ふふっ」
姫「ジョー、カー?」
テトラ「その人の名前だよ。僕はテトラ。君は?」
姫「……。アイゼルの、王女です」
テトラ「え?」
ジョーカー「肩書きじゃなくて名前を聞いてんだ」
姫「っ……」
テトラ「そう言えば、アイゼル城の騎士たちの名前は世界でも有名だけど、王族はあんまり表立ってないよね?」
姫「わたしには王族の資格が無いから」
テトラ「どういうことなのかな?」
姫「名前、無いんです。私」
テトラ「名前がない?」
ジョーカー「名が無いのと、お前の自殺は関係あるのか?」
姫「っ答えません! っ――!」
姫は船首に向かって歩く。何かを我慢しているよう。
見渡す限りの青い海。知らない世界。
海に出たのだって初めてで、城から出たのすら初めてだったが、彼女の目的をここでは果たせない。
訳の分からない人拐いにあってしまったし。どうやって城に戻るか、それだけを考えていた。
テトラ「何する気かな?」
姫「どうやらあなたがたは時期をみて私を人質にし、アイゼルから身代金でも頂戴するつもりだったようですが」
テトラ「ふふふ」
姫「あんな私そっくりの人形まで用意して」
ジョーカー「クククッ」
姫「でも無駄ですよ。私には、何の価値も無い。一刻も早くあそこで死ななければならないから……っ!」
姫、海へと見投げしようとする。
テトラ「待って。アイゼルの姫は、君は国の宝なんだって、騎士達がコメントした新聞を読んだんだ」
ジョーカー「そ、そうだ。それに死ぬとか死なないとか。どんだけ若いんだお前。アホらしい! あんたが死んで喜ぶ人間なんかいるわけねえだろうが。ちょっと落ち着けよ」
姫「あなたたちには関係のないこと。それに騎士のみんなはとても優しい人達なんです。……わかっています。でも私はもう、耐えられない」
ジョーカー「おい、聞けよ。頼むから」
姫「?」
ジョーカー「あんたは昨日死んだ! 自分の部屋から飛び降り、池の底に頭を強打し頭蓋骨骨折。それか溺死。再起不能! 決して帰らぬ人間となった! なあ。喜べよ」
姫「……っ」
ジョーカー「もう自由だ。また死ぬことなんかねえ」
テトラ「ジョーカー。たまには良いこと言うじゃん」
ジョーカー「テトラ。チャチャ入れんな」
テトラ「しゅみましぇ~ん」
ジョーカー、姫の前に立つ。
ジョーカー「なあ……。(思い詰めた表情で、優しく)国の為に自殺なんかするな」
姫「!……」
ジョーカー「名がないから王族じゃないんだろ? 関係ない奴等の為に自分を犠牲にするな」
姫「あなたに……貴方に何がわかるんですかっ!!」
ジョーカ「いや、何、俺も。あんたと同じように、誰かの為に死のうとしたことがあるから」
姫「……」
テトラ「そうだったね。愛する女の子の為にね」
ジョーカー「おい。ちょっと大事なとこなんだから黙ってろ!」
テトラ「え~」
ジョーカー「余計なこと言うなって言ってんだよ!」
テトラ「良いでしょ別に」
ジョーカー「よくはねえだろっ」
テトラ「ブーう~」
ジョーカー「あのなぁ」
テトラ「なんだよーもー。ぶう~ぶう~」
軽く言い合うジョーカーとテトラ。
姫「ふふっ……」
テトラ「あ」
ジョーカー「笑った」
テトラ「へぇ。笑うと可愛いね」
姫「えっ?」
ジョーカー「はぁ……腹減ったな。飯にしようぜ」
テトラ「そうだね」
ジョーカー「ほら。来いよ。名無し姫」
姫「……その呼び方、好きじゃありません」
テトラ「名前、つけてあげたら?」
ジョーカー「ん? そうだな……。おい、お前誕生日いつだ」
姫「えっと、966月の……」
テトラ「きゅろろ姫?」
ジョーカー「黙れマジで(テトラの背中を軽く殴る)」
テトラ「ふあっ」
ジョーカー「ふむ……。アイゼル王族の姓は確か、ロワーツだったな。……とりあえずお前、クロムって名乗っとけ」
姫「えっ?」
ジョーカー「クロム・ロワーツ。死んだあんたの名前さ」
姫「(ダークと、同じこと……言ってる――)」
ジョーカー「どうした?」
姫「えっ、う、ううんっ! ……ありがとう」
テトラ「さて、クロム。食事を作るの、手伝ってくれる?」
姫「あ……。はいっ」
三人で食事を済ませ。夜が更ける。
一人、船首で見張りをしているテトラの背後に、気配を殺したクロムが近付き。
(たっぷりと間を取る)
テトラ「(振り向かずに)眠れないのかい? クロム」
クロム「っ! え、ええ……」
テトラ「今日は見事な満月だね。赤く美しい。月が、僕を呼んでいる……」
クロム「月が……?」
二人で、月を見る。
テトラ「そう。君にも語りかけているよ。どうか、孤独を感じないで、と」
クロム「……」
テトラ「クロム。ジョーカーを、許してあげて。ね」
クロム「私を逃がすんですか? どこかに」
テトラ「さあ。どうかなあ。このままここに居たって良いし。――そうだね。どこか別の場所に送り届けたって良いよ。どうしたい?」
しばらくの間、見詰め合う二人。
クロム「わがままを――……言って、良いのなら」
テトラ「……?」
月が輝きを増す。




