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人間不信様のハーレム世界   作者: 和銅修一
9/80

月の夜に

 気配を消すというのはとても難しいことだ。

 逆にこちらが監視されていることだってありえるが、トリーはここに来る前の仕事上、そんなヘマはしない。

 問題はアリアにある。確かに速いが彼女は文句をぶつくさと話してくる。

 主と一緒に行きたかったとか、あの女は気に食わんだとか、悠斗のことばかりだ。

 隠れるのに邪魔だからあの手この手でアリアを黙られてからバイオレンスキャッツの拠点である廃墟エリアへと足を踏み込んだ。

 廃墟エリアといっても全てのビルを探し回るわけではない。トリーには心当たりがあるからだ。

 それは一番高い廃墟ビル。あそこからなら全体を見渡せて拠点とするにはうってつけだからだ。

 そのビルに入って自分の勘は正しかったことがわかった。

 入り口前の警護。たった男三人だが全員、武器と防具を装着している。

「さて、こっからどうしたんもか」

 上へと続く階段はあの三人によって塞がれていて通ることはできない。

 ボスは必ずこの最上階か、ここよりは上の何処かにいるはずだ。そこに到達しないと会合のことを盗み聞きすることはできない。

「おい何をやっているあの先に行きたいならさっさと行けばよかろうに」

「そうはいかねーよ」

 あの三人を気絶させて先に行くのは簡単だ。しかしそれでは侵入が遅かれ早かればれてしまう。

 そうなれば相手ギルドは会合時の作戦を変えくるはずだ。これでは不意打ちができなくなりこちらが返り討ちになる可能性がでてくる。

 総合的にはバイオレンスキャッツの方が戦力が高いのでそれだけは避けたい。それがトリーたちの心情だがアリアにはそんなこと関係はない。

「もう待てん。合図したら一気に走るんじゃぞ」

「て、おい待て!」

 トリーの止める声など聞きもせず、苛立っていたアリアは真っ直ぐ突っ込んで行った。すると男たちがいる手前で複数のコウモリに変身して彼らの目を塞いだ。

「わ! な、なんだこいつ」

 慌てる三人を横切り階段を駆け上がる。アリアもそれに続いて階段の先へと飛ぶ。

「くそ、何なんだ今の」

 兜を深くかぶった男は自分の身だしなみを整えながら文句を言う。

「どっからか来たモンスターだろ。ほっとけほっとけ」

 顎髭を生やしたこの三人の中でのリーダー的存在の男は軽い感じでなだめる。

「でも大丈夫なんすか? モンスター出てくるなら他に拠点を移したほうがよくないですか」

 装備からして下っ端感丸出しの男、というより青年は顔を青ざめながら意見する。

 彼はこの二人と違い参加者ではない。ギルドが安値で雇った傭兵みたいなものだろう。でなければあんな弱そうな奴が参加者のはずがない。

「わかってないな。うちらのギルドマスターがいるかぎり並大抵のモンスターは近づけん」

「でも、最近変わったモンスターが現れるっていう噂がありますよ。もしそいつが出てきたら……」

「ハハハ!所詮は噂だろ。ここいらのモンスターは雑魚ばかりだから大丈夫だ。もしそんなやつ出たら俺がこの剣で()(さば)いてやるぜ」

 身だしなみを整え終わった男は二人の目の前に躍り出て、腰に携えた剣を鞘から抜いて余った手を腰においた。

 しかし他の二人は笑うでもなく、賞賛の言葉をあげるのではなく、彼の後ろにあるものを見て絶句している。

 剣を持った男はそれを不思議に思い、そのまま後ろを振り返った。

 するとそこには男たちの身長の二、三倍ほどある毛むくじゃらの化け物がいた。そいつの毛は灰褐色で熊のような体で二本足で器用に立っていた。

「ベ…ベアウルフ…」

 彼らはその名を呼ぶことだけしかできず、ベアウルフというモンスターに首を掻っ捌かれた。



「ボス、次の会合はどぉするんです?」

 愛用の巨大ハンマーを持った見覚えのある筋肉質の男が段差の上で腰を下ろしている男に話しかけていた。

 グラドビがボスと呼んだその男は髪が女のように長い紫色の髪をかまい、見た目からしてもかなり年は低い方だ。

 しかし、彼がギルドマスターという立場なのは単に力が強いからだ。彼は斧の一本で数々の命を葬ってきた。

 死神。それがゲーム内での二つ名。今やバイオレンスキャッツのギルドマスターをしているガイザのことだ。

 だがその死神でさえ葬ることができないやつがいる。それは榊 悠斗。ガイザにとっては師匠という間柄である。

 だがガイザは悠斗にある恨みがあった。それを果たすためにもこの世界で、このギルドでずっと待ち続けていた。

「まぁ、今回もボスは高みの見物でもしていてくだせぇ」

「いや、俺も行くから」

 予想だにしていなかった言葉にその場にいた者たちはざわめく。この仲間集めには今まで参加していないからだ。

 が、ガイザはグラドビから聞いた不審者のことを知っている。その男は性格上、会合のことを知れば必ず阻止してくるだろう。

 だからこそコソコソしている二匹のネズミも野放しにしておく。奴らが悠斗にこの情報を流し込むことを期待して。



「あやつがこのギルドのボスか? なんか想像してたのと随分違うな。もっと…こう凄いのを期待しておったんじゃがな」

 影に潜みながら二人はガイザたちを監視する。

「見た目に惑わされるな。ああ見えてもランキング五位の実力者だ」

「たかが五位じゃろ? 我が主は一位じゃ、何の問題もなかろうて」

「馬鹿かお前、ランキングは強さを表してるんじゃねえ、今までの成績を表してるんだ。油断してると痛い目見るぞ」

「ムム。なんじゃそんな口を聞いていいのは主だけだぞ」

 こんな時だってのに鋭い目つきで睨んでくるが、トリーはそんなこと気にしてなどいない。

「早くずらかるぞ。十分に情報は集まった」

 その合図で二人は来たところを辿ってビルの中から出て廃墟エリアの中を走る。

 ただ走るのではない。シーフの固有技、エスケープを使って走ったのだ。これで万が一、追っ手がいても振り切れる。

 これは武器固有技ではなく、職業固有技だ。

 トリーは走りながら空を見上げると、そこには眩いほどの月が照られていた。

 暫く走ってビルの影に座りビルの影に座り後ろ方向に誰かいないか確かめる。

「はぁ…、どうやら大丈夫のようだな」

 アリアも無事について来ている。というかトリーとは違い、息など切らさずまだ余裕のようだ。さすがヴァンパイアといったところだろう。

「全くだらしないな」

 言い返す言葉もなかった。男なのに情けない。これでは自慢の固有技も形無しだ。

「ウルルル……」

 奴が現れたのはそんな風にトリーが落ち込んでいる時だった。

 それは階段前を警護していた男三人の首を跳ねたベアウルフだった。銀の毛並みは月明かりに照らされ輝きを増している。

「ウォォォーーーーーーーーーーン‼︎」

 甲高い狼の鳴き声があたり一帯に鳴り響く。

「ちっ、こんな時にモンスターかよ」

 トリーはエスケープを使ったせいで疲労困憊、必然的に頼れるのは一人しかいない。

「ここは我に任せるがいい」

 ポニーテールを翻しベアウルフの前に立ちふさがったのはアリア。気高きヴァンパイアである。

 蒼き月に照らされるその顔は自信満々に笑みを浮かべていた。

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