神の正体
運命とは残酷だ。
抗ってもその流れは変えられない。だからこそ彼は流れに逆らうことを諦めた。
いくら意地を張って意味のないことを繰り返してもただの時間の無駄。悟った男はまるで別人になったかのように無心で行動をし、そして今は『神』という存在となり目の前で跪く天使を見下ろしていた。
「突然申し訳ありません。我々の拠点に侵入者が現れました。現在はミカファロ様が交戦中ですが勝てる確証はなく……なのでお力を借りたくこうしてお呼びしました」
こうべを垂れるその天使は息を切らしながら報告をした。
「力を貸すのはやぶさかではない。だがその前に問おう。私に無断で何やらやらかそうとしていたな」
「確かに貴方の言う通りです。我々は貴方あっての存在。ですが我々なりに平和になるようにと……」
必死に弁解しようと顔を上げたその天使は後悔した。その男の顔を、この世のものとは思えないほどの恐怖をその身で体験してしまったのだから。
「口答えはいい。それにもうお前らの役目は終わりだ」
淡々と吐き捨てると天使は姿は消えていた。
「やはり魔力でつくった人形などこの程度か。口を開けば平和と平和と、猿にも劣る知能だ。しかし、もうこんなものいらない。もうそろそろ終わりが近づいているのだから」
「悠斗さん。お待たせしまし……た」
一方、治療を終えたエルが悠斗の元へと向かうとそこには驚きの光景が広がっていた。
「あ! ち、違うのよ。こいつがなんか急に倒れてそれで偶然こんな感じになってーーでも疲れてるから起こすのは気が引けて」
気が動転した美鈴は膝の上にいる悠斗のことを考えず咄嗟に立ち上がる。
「てっ‼︎」
当然、寝ていた悠斗は地面に叩きつけられるような形で起きることになった。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。私は約束通り悠斗さんとお話に来ただけでお二人の関係を言及するつもりはありませんので」
「だとよ美鈴。分かったら席を外しくれ」
「言われなくてもそうするわよ。どうせいても邪魔になるだけだものね」
そう言うと美鈴は不機嫌そうにその場を離れた。
「他の連中の具合はどうだ?」
「皆さん大丈夫です。ミノスさんも魔力が回復すれば元に戻ります」
「それを聞いて安心した。で? お前はどうしてそんな力が使えるんだ」
「これは捕まった時、天使さんたちから聞いたことなんですけど私もレイナさんのように神につくれた兵器らしいです。レイナさんは戦闘型、私は特殊型という違いはあるらしいですけど」
「ふ〜ん。にしてもどっちもモンスターを倒す前提なんだな」
「神はこの世界の人間、動物などは力でどうにかできますが元々この世界の存在ではない異形はその力が及ばないからでしょう」
「神といっても全知全能ってわけじゃなさそうだな。てかその言い方だと俺らも神の力の影響は受けないのか」
「はい。悠斗さんのような参加者には直接的に力を加えるのは不可能だとも言っていました」
「だから天使を駒にしてるってわけか。だとしたら完全に神に喧嘩を売った形になるな」
天使が異形を憎んでいたのも神の力が及ばない厄介な相手だからと考えれば納得がいく。
「すいません私のせいで」
「気にするな。元々神の野郎はぶっ飛ばす気でいたんだ。天使とやり合わなくてもこうなってたと思うぜ」
それに天使に手を出したのは俺が気に入らなかったから。それでどうなろうと俺は俺なりにケジメをつけていた。
「それを聞いて安心しました。ではこれからもよろしくお願いしますね悠斗さん」
「ああ、俺からも頼む」
結局、俺の仲間に人間はいなかった。
それでも仲間ということに変わりはない。これからも一緒にーー。
「いや、残念ながら君たちの旅はここで終わりだ」
上空から聞き覚えのある声がした。
だが少し違和感の声だ。毎日聞いているかのようなのにこうして耳にすることはまずない声。
その声の主は球体の玉座に悠然と腰を下ろしている男、見間違うはずがない。神の正体、それは俺、榊 悠斗だった。




