氷を纏し救世主
瞼を閉じていても尚抑えられない眩い光は徐々に強さを増していく。
それは力を使い果たした悠斗たちには止められない。絶望的な状況で悠斗だけはどうにかしようと一歩ずつその光の中心へと近づくが魔力の塊であるその光の周辺は結界のように風が吹い荒れており、自慢のエストレアを振おうにもそのせいでその場に留まることで精一杯に。
「クソ……魔力さえあれば」
何も出来ない自分を悔いて床を叩くがそれで何かが変わるわけではない。
「何やってるのバカ!」
聞き覚えのある声が聖堂に響き渡り、顔を上げるとそこには吸い込まれるように光へと突撃する数体の妖精が見えた。
「これはフローズンフェアリー」
妖精は光の中心へ達するとそこには光の代わりに氷の塔が築かれた。
「珍しく随分と手こずってたわね」
その凛々しい立ち姿に悠斗は見覚えがあった。
駿河谷 美鈴。
幼馴染である彼女は絶体絶命のピンチに駆けつけてくれた。
「お前……どうしてここに?」
彼女は悠斗ととは違いギルドのリーダーで多くの仲間を率いている。だというのに今回はただ一人で何故かこんな辺境まで来ているのはおかしい。
「実は私のところに変なメールが来て、慌てて追いかけてきたのよ」
「メール? もしかしてお前もエクストラクエストを受けて来たのか」
俺たちをここに飛ばした神からのメール。あの様な転移魔法みたいなのがあればこんな都合良く登場したのも頷けるが。
「エクストラクエスト? 知らないわよそんなの。でも宛先不明でこんなの送られてきたら駆けつけるに決まってるじゃない」
と若干キレ気味で見せつけられたメールの内容は俺の危険を知らせる文面とここへのルートの詳細。
宛先がバグなのか黒く塗り潰されており、返信も出来ないようになっている。
「ギルドの連中はどうした?」
「人数が増えると何かと移動に時間がかかるから置いてきたの。でもほんとギリギリだったわね」
「しかし、メールの送り主はこうなる事を知っていたのか?」
そして知っていたとして何故俺を助けるような事をしたのか? まるで意図が読めない。
「いいじゃない助かったんだから。それよりもしばらく見ないうちに仲間を増やしたのね」
前回美鈴と出会ったのはまだレイアとアリアしかいなかった。
驚くのは当然か。
「まあな。エル、ミノスの様子はどうだ?」
「どうにかなりそうです。他の皆さんも私の力で治します。悠斗さんは休んでいてください」
よく見てみると少しだが異形のようだったミノスの体は元に戻っている。あの歌が効いてきたのだろう。
「魔法でもないのにそんな力を使えるなんてお前一体何者なんだよ」
天使の連中が欲しがっていた特殊な能力。
ただの聖職者でないのは誰の目から見ても明らかだ。
「それについてはこちらが終わり次第全てお話します」
いつもは笑顔が絶えないエルだがその険しい表情からすると天使たちに自分が何者か知らされたはずーーだから自分で歌うことを選び、自分で決意し行動に移したのだ。
「……分かった。しかし、ゆっくりはしてられないぞ。逃げた奴が増援を呼んでくれるかもしれない」
手伝おうにも魔力がない悠斗、戦闘系の魔法しか使えない美鈴がいても邪魔になるだけ。
なので二人は聖堂の外で待つことにした。
「人間不信治ったんじゃない?」
少しの間静寂が続き、耐えられなくなった美鈴が先に口を開いた。
「どうしてそう思う」
「だって、あのエルって人にあの場を任せるなんて前の悠斗だったらあり得ないもん」
「前の俺……か。何も変わってねえよ。お前と別れてから色々とあったがあの忌まわしい過去を忘れられるほどじゃなかった」
過去は変えられない。
だからせめてどうにかして思い出さないようにしよう。そして手を出したのはゲーム。
まさかこんな結果になるとは考えもしなかったがいい刺激となった。けど記憶が消えるわけではない。
結局、俺は逃げていただけなんだ。
人間から、そして自分からも。
「別にいいんじゃない。あんたのためにも」
「適当に言うなよ。何も分からないくせに」
「分かんないけど、悩んで悩んでそれで最終的に出した答えはきっと自信に繋がるから」
彼女の目は真剣そのものでナイーブになっていた悠斗はそれで我に帰り、いつも通りになった。
「ふっ、それもそうだな。しかしお前に気づかされるとは俺も焼きが回ったな」
「何よそれ。て、ちょ⁉︎」
美鈴は突然悠斗が膝の上に倒れこんだことで自分でも驚くほどの甲高い声が出た。
一瞬どうしてそうなったのか理解出来なかった美鈴はその場で固まった。数秒して冷静さを取り戻し、悠斗が寝息を立てているのを聞いて微笑んでそっと頭を撫でた。
「もぉー、今回だけだからね」
今だけはこのままでーー。




