炎達の過去
ここは街から少し離れた小さな森の中にある小屋に二人はいた。
「じゃあ、これから頼みを話す前に俺たちが何者なのかを教えるけどこの話は長いからちゃんと聞いとくんやぞ」
「大丈夫だ。俺は忍耐強いからな。一気に話してくれ」
曜炎は頷いて、自分達の話を始めた。
確かにお前の言った通り俺達は参加者だが、それは依り代のことであって今話している俺じゃない。体の方だ。
二千年ほど昔のことだが、今喋っている俺達は黒竜、白竜として恐れられていた。
恐れられていたのは俺達が良く喧嘩していたからだ。その度に村なんかは軽く吹き飛んで都市や国もそれは酷いことになったもんだ。
だけど俺達はそんな事はお構いなしに暴れて暴れて暴れ続けた。それぐらい俺達は仲が悪かった。
そうして日々を過ごしていると俺達の討伐依頼が各地に広がった。だがそんなものは俺達にとって道転がる小石同然だった。だが、最後に来た一組の魔道士達が俺達をお面と刀として封印した。
今着ているのが、それだ。
ある日、俺達が封印されている所に二人の参加者が来てそいつらが俺達を装着してある呪いがかかった。
装着した奴の心の奥底にある願いが叶わない限り体は一生、俺達のものになるというものだ。
だが、俺達はそんな事なんて望んじゃいない。だからこいつ願いを叶えようとしたら、それは実の兄を消したいというもので、あっちは罪を犯した奴を片っ端から殺したいというもので、俺はそれを止める為に煌炎を追っていたというわけだ。
「なるほど、つまりお前らは参加者の体を乗っ取っている状況というわけか。だが両方もと死人がでる願いだな」
「いや、そんな事はないですよ。俺達には特別な力が備わっていて死んだ時は塊となって生きながらえる事ができるんです」
「それを上手く使えばお前の願いは叶いそうだが、煌炎の方はどうする? キリが無い願い事だぜ」
願い事が叶う前に依り代である参加者の体が腐ってしまいそうだ。
「だからまず一回倒して塊になってもらったらその後は俺が何とかしますんで、そっちは旅を続けていたらいい」
「そうか? それだとなんか無責任な感じがするけどいいのかよ」
「大丈夫、大丈夫。慣れてますから」
胸を張って威張るが何に慣れてるのかさっぱり分からない。だが彼が何とかしてくれると言っているのだから何とかなるだろう。
「ならそうするが、何かあれば言ってくれよ。すぐに助けに来てやる」
「それはありがたいな」
それから煌炎捕獲の作戦を立てて、悠斗は小屋を出て街に入った。
「ゆ、悠斗様……」
宿に戻ろうと街を歩いていたらレイナとミノスと出会った。頼んでいた調査が終わったのだろう。
「さっき、ホグアさんが森まで来て悠斗様を探していましたよ。どうなさったんですか?」
どうやら気絶してる間に色々と迷惑をかけてしまったようだ。
「ああ……、ちょっとな。たけど情報は手に入った」
「そうですか。流石、悠斗様です」
「でも二人ともまだ悠斗さんのこと探してるんじゃないですか?」
「そうだな。俺は二人を探してくるから先に宿で待ってろ。すぐ戻るから」
「はい。道中気をつけてくださいね」
走っていく悠斗の背中をレイナは手を振って見送った。
「本当に慌ただしい人だね」
「それも悠斗様の魅力ですよ」
二人はそのまま悠斗のことを話し合って、宿へと戻って行った。
「よぉ、ここにいたのかお前ら」
もしやと思って煌炎と出会った所へ行ってみると三人が集まっていた。
「あ、主。今まで何処行っておったのだ。心配したではないか」
「すまん。少しあってな。それとホグア、森まで俺を探しに行ってくれたんだってな。レイナから聞いたぞ。ありがとな」
「いえいえ、お安い御用っすよ」
ホグアは恥ずかしそうに頭をかいて喜んだ。
「な! そ、そ、そんなのわしにもできるぞ。森までなんて軽く超えて、世界の裏側まで探しに行けるぞ」
ホグアに負けじと張り合うアリアだがそこまで行く必要は全くない。
「気持ちだけ受け取っておくよ」
そんなやり取りを見ていたエルは何かを決心したような顔で悠斗を見つめていた。
「榊さん。この依頼の事なんですが、二度とこんな事をしないように犯人に言ってください。それが駄目でしたら私が直接伝えますので連れて来てください」
「おいおい、かなり難しくなってないか?」
一度やって分かったがあれと戦って勝てるかは五分五分だ。それをエルの前まで連れてくるとなると倒して塊にしてからでないとできないだろう。
だがその状態で話せるかどうかは知らないので、形を保ったまま連れてくるしかない。
「そうですね。ですからお礼をさせていただきます」
「お礼? 今更なんだよ」
「この依頼を達成できたら私はあなたの仲間になります」




