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人間不信様のハーレム世界   作者: 和銅修一
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哀れな天使

「ここが私の教会です。そこに座っていてください」

 エルの教会に入ったが、なんというか年季があって独特な匂いがする。

 だが悠斗は何も言わず、椅子に座った。

「では、始めます」

「始めますってお前何も持ってないじゃないか」

 エルは包帯も何も持たず、ただ悠斗の怪我の部分に手を添えた。

「大丈夫です。見ていれば分かりますし、この程度なら直ぐに治ります」

 自信満々に宣言すると、添えたエルの手が白色に輝いてその光が傷を吸い込んでいくように見る見る怪我が消えていき、数分で全ての怪我が治った。

「お前が天使だったのか……」

 確かに魔法とは違った雰囲気だったが、彼女の力は紛れもなく噂と同じだ。

「その呼び方はやめて下さい。それに私にはあまりいい噂なんてありませんよ。魔法ではないこの治癒能力にみんなは私をインチキ呼ばわりして、今では参加者なのではと言われています」

 確かに魔法ではないなら参加者がもつ固有技という考えも生まれても仕方ないことだろう。

「そうなのか大変だな」

「そうなんですよ。この教会も一人で支えています。他の人は何処かへ行ってしまったので」

 エルは思い出したかのように悲しい顔をする。

 彼女の悪い噂でここに居られなくなったのだろう。とても悠斗が思っていた天使とはまるで違う。

「なんでそんなに頑張るんだ? 一人っきりなのに」

 悠斗はふとニートだった頃を思い出す。あの時の悠斗も一人っきりだったがネットゲームをしていただけだが、彼女は諦めずに頑張っている。

「神を信じているからです。それよりも説教の続きをしますよ」

 や、やばい……。

 彼女の説教はとても長いどうにかして話を変えなくては。

「そ、それよりもお前のこと知りたいな〜」

「お前ってなんですか? 私にはエルという名前があるんです。そういえばあなたの名前を聞いていませんでしたね」

「俺は榊 悠斗。隣のこいつは魔道士のミノスだ」

 なぜか黙ったままのミノスは小さくお辞儀した。

「いいお名前ですね。ではその榊さんたちはどうしてここへ?」

「俺たちは回復系の力を持っている奴を仲間にしようと探しにきたんだよ」

 エルは何かを悟ったような顔をしてため息を吐いた。

「そうですか。何か普通の人とは違う雰囲気だと思ったらあなたは参加者だったんですね」

「参加者だったら悪いのか。お前が参加者呼ばわりされてるから本物は嫌いか?それって差別じゃねえか。参加者がどうとかって。同じ人間だろ」

「そですけど……あなた達は野蛮です」

 やはりバイオレンスキャッツの悪い噂がここにまで流れているようだ。

「野蛮って俺はそんなことしてないだろ」

「しました。ここに来る前に男の人を殴ったじゃないですか」

 まだあの事を気にしているようだ。

 ここまでくると執念すら感じられる。彼女はとことん誰かが傷つくのが嫌いらしい。

「あれは正当防衛だろ。殴らなかったらお前が何されてたか分かったもんじゃねえ」

「殴る必要はありません。話し合いで解決すれば良かったんです。なぜそれを理解してくれないのですか!」

「あのカエル野郎が言ってたように、やっぱお前の頭はおめでたいな。だが俺はお前のそういうところが好きだ。俺の仲間にならないか?」

「私はこの教会を守るという役目がありますのでお断りします。ですが、勘違いしないでください。あなたが参加者だからではありません」

「そうか。だけどこの怪我を治してくれたお礼をさせてくれよ。まだ俺たちには時間あるしな」

 レイナの予想だとアリアが落ち着くには最低でもあと一、二時間はかかるだろうと言っていた。

 この時間を無駄にしたくはないし、この街は教会だらけで遊ぶところなど一切ない。

「でも、いいんですか?」

「いいさ。俺は参加者だからクエストなんて沢山受けてきてるから、なんでも言ってみな」

「そうですか……なら、一つだけ気になることがあるんですが榊さんは白い炎を知っていますか?」

「な! 白い炎だと」

 つい声を荒げてしまった。

 白い炎はあの森で見たものだが、それを彼女から聞くとは夢にも思っていなかった。

「知っているんですね」

「いや、詳しいことは知らないがここに来る時に見たんだよ。お前はあれの何を知っている」

「白い炎は罪をかき消すものとして聖書に書かれてありますので、私でなくとも聖職者の方々なら知っています。ですがそれは伝説としてです。実際に白い炎が存在するなんて聞いたことありません。ですが昨日に……」

 急に顔を伏せた。ここからでも迷いの森からあがった白い炎が見えたのだろう。そしてそれは罪のある者が消されたことを意味する。

 争いごとが嫌いな彼女からすると、複雑な気持ちだろう。

「あの森でのことか。その白い炎を使っている奴をここに連れてくればいいのか?」

「連れてこなくてもいいです。白い炎を良いことに使っているのか、それとも私利私欲の為に使っているのか確認してください。もし私利私欲の為なら私が話し合ってやめさせます」

「話し合いって、やっぱり甘ちゃんだな。だがいいぜ。その依頼受けてやるよ」

 悠斗たちは白い炎の使い主を探すために教会を出た。

 外はとても静かで、心安らぐが悠斗は強制的に闘志を吐き出す。白い炎の使い主が脅威だからだ。

 今まで戦ってきた敵とは違って、あの炎を見ただけで体が震える。

 悠斗はその震えを押し殺しながら誰もいない道を進み出した。

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