一件落着
「なんじゃあ、こんなところに呼んで」
本隊が休んでいるところから少し離れた森の中、シグダリアはある男にここに話があると呼ばれてきた。
「すいませんね。こんなところにお呼びだてして。他の人には聞かれたくはない話ですので」
腰を低くしながら接する彼の名はケリア。今一番力があり、信頼されている教師でかる。
「そうか。訳ありか」
「はい。訳ありです」
目を笑わせながら彼は内にある殺意を押し殺して時を待っていた。
確実にシグダリアを殺せる時を。腰の後ろに隠した小さな杖が唸りを上げる時を。
「そんな剣で何ができるというのだ。こいつはクリスタルでできたゴーレムだぞ」
滑稽を通り越して、呆れる。
ラカイドにとって彼が何を考えているのか、さっぱりわからない。本当に剣だけでクリスタルゴーレムを倒せると考えているのか、それともハッタリで仲間が来るまでの時間稼ぎで本当は内心穏やかでないのか。それともそのどちらでもないのか。
いくら考えても尻尾すら掴めない。
「出来るさ。ほら、ちゃんとその笛型のコントローラーでそいつを襲わせてこいよ」
「コントローラー? 異界の言葉を使うな!」
「そうか。ここにはコントローラーなんてなかったな。ゲームがないんだし。とにかくかかって来いってことだよ。お前の野望とその綺麗な石の像を一緒に壊してやるからよ」
またもや挑発。彼は本当にクリスタルゴーレムを倒せるほどの力量を持っているのだろうか。
緊張で額に汗が浮かぶ。
参加者は知られていないことが多すぎる。ここで何も考えずに戦うのは賢い選択ではない。
だがここで戦わなくては野望が遠のいてしまうと気づいてしまった。
この世界には多くの騎士、魔道士がいるがもうそれだけではなくなっている。
異界から来た謎の集団。皆からは参加者と呼ばれている人たちだ。
世界を掌握するということはこれら全てを倒せなくてはいけないということ。参加者は数は少ないが個々の戦力が高く、なぜかクエストを積極的に受けている。
もし、このまま逃げてクリスタルゴーレムで暴れまわったとして。その後は必ず討伐クエストが出る。
その時に参加者が来たらどうなるか、ラカイドには予想できない。
ここで見極めなくては。
「行け! クリスタルゴーレム。あの参加者にお前の力を見せつけてやれ」
ラカイドは決意して笛を吹いて指示をした。
口がないゴーレムは青い拳を振り上げ、指示通りに全力で打ち付けて、ギランカの時よりも大きな窪みを作り上げた。
「お〜、思ったより攻撃力あるな」
感心しながら当たり前のように拳を避けた。
「くっ、余裕なようだな。だがこれならどうだ」
短く笛を吹いてゴーレムに彼へ連続攻撃をさせた。大きな体に似合わない俊敏な動きだが悠斗にとっては大差なかった。
「もっと頑張ってくれよ。クリスタルなんだろ? ゴーレムなんだろ?」
いつの間にかゴーレムの後ろに回り込んでいた悠斗はペチペチとその大きな左足の後ろを弱々しく叩く。
「ちょこまかとしやがって!」
腰を回して右拳を重力と怒りを乗せて殴りかかるが悠斗は一切動揺せず佇んで剣の刃で受け止め、その拳には大きなヒビが入った。
「この程度かよ」
がっかりした声を上げた途端、めり込んだ剣が紫色に輝いた。
「スター! ゲイザー!」
途中で少し間を開けて自分の固有技の名前を叫んだ。
すると、クリスタルゴーレムは砕け散りながらギランカがあけた穴から落ちて行った。
「そ、そんな……。こんないとも簡単に倒されるなんて……」
予想を遥かに上回る彼の強さにラカイドは尻もちをついて絶句する。
それを見兼ねた悠斗は彼に近づいて
「さぁ、これからどうする?お前もあれと一緒にここから吹き飛んでみるか?」
と、笑ながら問う。
しかし、ラカイドはそれを君の悪い笑いで答えてみせた。
「ふっ、ふっ、ふっ。お前らは知らんだろうが。学園長を殺すために刺客を送り込んでおいた。そいつはここの教師だから油断してるはず。だが今なら助かる。俺に謝って仲間になるとちか……」
「ああ、それならちゃんと対策はしてある」
「な、なに!」
「俺の仲間を三人置いてきたんだよ。今頃合流してると思うぜ」
その悠斗の言葉が嘘でないことを証明するように学園長たちがいるであろう森から炎が立ち上った。
ラカイドが送り込んだ教師は風の魔道士であんなことはできない。もちろん老いた学園長もあんな派手なことはできないと聞く。
「どうやら終わったようだな。裏切り者がいてそいつを倒したらホグアにああやって合図しろって教え込んだんだ」
ラカイドの顔はますます青ざめる。
「じゃ、お前も行っとけ」
笑ながら軽い感じにスターゲイザーを発動させて吹き飛ばした。
「ぬぅわ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「これにて一件落着だな」
壊れ果てたクリスタル保管室と大きな穴から見える景色を眺めて小さく呟いた。




