クリスタルゴーレム
「今頃、走馬灯でも見ているのかな?」
革靴の音を立てながら、一人の男が倒れたタリエスに近づいた。
「誰だお前」
悠斗は一度も見たことのない人物だがこの都市の重要人物の一人である。
「まさかたった一人の参加者にここまで計画が邪魔されるとは思えなかったよ。称賛に値する」
男は音のない拍手をした。
「そんなこと聞いてない。お前は誰なんだと聞いているんだ」
「おっと、すまない。僕はこの都市の本部長を勤めているラカイドだ」
音のない拍手をやめて不気味な笑みを浮かびた。
「本部長? そういえば学園長が言ってたな。都市の責任者だろ。なんでそんな大物がこんなところにいるんだよ」
ラカイドは眼鏡を人差し指で持ち上げた。
「愚問だね。使えなくなったゴミを排除しに来たんだよ」
足で横たわったタリエスをつついて転がした。
「なるほどお前が裏で糸を引いていたのか」
「その通り。ハーメルンの笛を貸してやったのも僕の野望のためだ。まあ、こいつも少しは役に立ったよ」
転がしただけでは飽き足らず、思いっきり踏んで見せた。
「下衆が!」
水晶玉に魔力を注いでラカイドの顔面めがけて飛ばしたが、首を傾けてよけられた。
「おうおう。野蛮だね参加者は」
「おっさんを侮辱するなよ。おっさんはお前みたいな奴じゃない。学園長から聞いたんだ。あいつは努力家だ、凄い奴だってな。それに比べてお前は上で偉ぶってるだけのクズだ」
悠斗は怒り狂ったタリエスしか見たことがないが長い付き合いの学園長が言うのだから間違いない。
それに彼の態度が気に入らない。人は自分の思う通りに動くと勘違いしてる目だ。全くもって気に入らない。
「そう怒らなくてもいいだろう。貴様とは関係のないものだ」
「確かにそうだがそれでも俺はイライラするんだ。だからお前の野望を打ち砕いてやる」
「いくらでもほざいていなよ。君にいいものを見せてあげる」
タリエスの手に握られたハーメルンの笛をひったくり、思いっきり息を吹き込んだ。
やはり何度聞いても妙な音色だ。この音だからこそ魔力を操れるのだろう。
「さぁ、目覚めるんだクリスタルゴーレムよ」
両手を広げてラカイドが叫ぶと部屋全体が揺れ始めた。
「おわっ! なんだこれ。地震か?」
悠斗は知る由もないがここからではわからないがこの揺れは学園のみに起きていて、他は正常となっている。
「違う! クリスタルを見てみろ」
命令されて少し苛立ったが、クリスタルがある部屋の中央を見た。
すると、それは動いていた。
何かがこすれる音を上げて足、手の形を作り上げて立ち上がった。
その姿はまさに巨人。
暫く黙って見入ってしまうほどのインパクト。
それがラカイドが起こしたモンスター。クリスタルゴーレム。
「一体なんなんだこれ。でっけーな」
見上げて眺めていると首が痛くなってくる。
「これは昔、あの学園長に封印された上級のモンスターだ。この笛で封印を解いたんだ。俺はこれを最初にいろんなモンスターを手駒にしてこの都市だけじゃなく、世界を掌握してやる」
「ほぉ〜〜」
彼はグッと力を込めて拳を握りしめ、野望を宣伝するが悠斗はクリスタルゴーレムを見つめて口を開けていて話など聞いていない様子だ。
「お、おい聞いているのか?」
「ん? ああ、すまん。こいつに見惚れてたわ。めちゃくちゃ綺麗だな」
「まあ、クリスタルだからな。そしてそれは膨大な魔力を有しているということだ。モンスターは体内にある魔力で強さが決まると言われている。つまりこのゴーレムは最強! 貴様が敵うはずがないんだ」
「へ〜そうかい」
彼の説明に興味なさそうに返事してコネクトを解いた。
「お疲れミノス。どこか具合悪いところないか?」
元の姿に戻ったミノスの肩に手をポンと置いて確認する。
「いいえ大丈夫です。ありがとうございます」
そう強がっているが顔色からして少し疲れているようだ。
今までコネクトしてきたのは機械、ヴァンパイア、竜人とミノスのように純粋な人間はいなかったから、コネクトは相手の体力を消耗するということに気づかなかった。
「おい、僕を無視して何やってだ。戦え参加者! ギランカを倒したあの姿になるまで待ってやる」
「うるせー。そんなのただのこけおどしだろ。さっさとかかって来い。これで相手してやる」
悠斗は自慢の大剣を両者に向けて睨みつけた。その眼差しは怒りや恨みなどなく、なぜか安らいでいる。




