努力の日々
ただ幸せになりたかった。
いつになっても結婚できない。親しい友人も両手で数えられる程度。
魔道士としても、まあまあでそれでも必死に頑張って今の地位までついた。
だが幸せではない。
幸せっていうのは充実しているはずだ。だが充実など一度も味わったことはない。
学園でも家でも寝ている時も。劣等感というか、何かが邪魔している。そんな感じの毎日。
そしてある日、まだ学生だった頃にその邪魔の中心がわかった。
シグダリア。同じ歳で同じような環境で育ったというのに彼は全てが飛び抜けていた。
魔法もそうだったが、剣術も王国の騎士と互角に渡り合うほど強かった。それに魔道書の解読、新たな魔力理論などもやってのけた。
この話が広まると親が
「あなたも見習いなさい」
と無責任な事を言う。
だが努力をしなかったわけではない。ちゃんと授業を受けたし復習もした。
魔法も夜が明けるまで何度も何度も練習した。なのに努力は天才が打ち砕いてしまう。
年に一度ある魔法武道会。多くの生徒は強制的に参加させられタリエスのシグダリアもその一人だった。
しかし、タリエスはこの時を待っていたと言っても過言ではない。ここで勝利を収めれば今までの努力が結果として表れる。
それはかつてない喜びとなり、充実を味わうことになるのだが運が悪かった。
なんと一回戦でシグダリアと当たることになってしまったのだ。
頭は真っ白になったがやるしかなかった。
結果は惨敗。かすり傷すらつけられなかった。なんとも不甲斐ない結果。これでは充実を味わうことなどできなかった。
だけど来年がある。その時こそは一回戦ぐらいは勝ってみせると意気込んで練習に練習を重ねた。
そして一年後、タリエスは神を、運命を憎んだ。またもや一回戦の相手があのシグダリア。
しかも前回とは違って戦争を鎮めた英雄。はたまた魔帝という称号を貰い、今では学園の誇りと化していた。
もはや同じ人間とは思えない。高見、高見の存在で直視することすらままならないというほど成長していた。
対して自分はどうだろうか。成績は学園で十本の指に入るほど上がった。使える魔法が十から二十五になった。
天才から見てこれは進歩と言えるのだろうか。多分、ほんの些細な変化とし思わないだろう。
それを彼は無言で告げるかのように前よりも早くタリエスを倒した。
だがたった一言だけ
「頑張ったな」
と残してくれた。それは慰めか、嫌味か。どちからは本人しか知らないがタリエスはそれで何もかも勝てないと実感した。
彼は優しいのだ。ほんの些細な変化で努力したことに気がついてくれてそれを褒めてくれた。
自分は恨んで、死ねばいいのにとさえ思ってしまったというのに。情けなくて涙が出てくる。
来年は武道会には出なかった。強制がなくなったというわけではない。断れるのはシグダリアのような実績があるものだけ。それ以外は経験を積むためという理由で強制的に参加。それがこの学園の決まり。どこに出しても恥ずかしないような魔道士を育てるためのものだ。
ならなぜそれに参加しないと言われると、それは学園をやめて旅に出たからだ。
魔道士になることを諦めたわけではない。ちゃんと学園長と話し合い、旅から帰ったら残ったことを教わる予定だ。
旅に出たのは戦いの経験を積むため。人との出会いを求めてだ。
世界は広いのだから彼のように強い魔道士がどのかにいるはずと、探しに探して遂に見つけた。
実力はこの目で見たから間違いない。
歳は四十後半で白髪が目立ったおじさんだった。それになぜか名前を教えてくれなかった。
不気味な人だが頼れる人がこの人しかいなかったので頭を下げて弟子入りを志願すると
「暇つぶしになるかもな」
乾いた唇で承諾してくれた。
だが弟子と言っても最初から魔法を教えてくれるわけではない。召使いのようにこき使われた。
それが何ヶ月が続くといろんなクエストに連れてくれるようになった。
ゴブリン退治から巨大モンスターの討伐。何度か死にかけたがいい経験になった。
そんな日々が一年ほど続くともう教えることはないという置き手紙を残してその人は忽然と姿を消した。
仕方ないので学園長との約束を守るために残ったことを全て教わり、いろんな都市を周った。
弟子として最後に一言だけ聞きたいことがあったからだ。クエストをこなしながら何年も探したが手掛かりすら掴めず困っていると一通の手紙が届いた。
母校のイシリア学園からである。
内容を簡単に言うと、我が校の教師になってほしいといもので途方に暮れていたタリエスは承諾して学園の教師となった。
だが彼はまた運命というものを思い知ることになる。




