初めのダンジョン
「ここがヴァンパイアが住みついている洞窟か」
村人からヴァンパイアのことを聞いてここまで駆けつけてきた。
そして悠斗が今着ているのは街で買った装備、防具はエラプロンブルー。これは青を基調としていて鋼の装甲をもち防御力は最高ランクのS。
武器はエストレア。西洋の剣といった感じで横幅が広く盾代わりに使えるだろう。攻撃力はBランクとやや低めなのだが使用者のスピードを上げる特殊な能力と魔族に有効な星属性であることと、ゲーム内で愛用していたという理由でこれに決めた。もちろん指には絆リングをつけている。
これら一式はレイナに頼んで他所から取れ寄せたものだ。かなり距離があるところのものなのだが、二日で届いた。
「参りましょう」
対モンスター用戦闘機とだけあって、腰には高周波ブレード、左腕には彼女の腕の二倍ほどあるガトリングが腕の下にぶら下がっいるというかなり攻撃力の高い装備となった。そして小さな絆リングもつけている。
とにかく中に入ってみるとそこは本当にダンジョンみたいだった。岩に囲まれた洞窟で少しジメジメしている。
奥へと進んでいると何かが横を通り過ぎた。
「何だ?」
身を隠したと思われる岩に目を凝らすと、小さなネズミがいた。しかし普通のネズミではない。モンスターだ。ゲームの時にも出てきたので見覚えがある。名前は確か、シルバーマウス。
銀色の毛並みでMIYTOSでは有名なザコモンスターだ。
「悠斗様、あのモンスターで武器の練習をいたしましょう」
「練習ってどうすればいいんだ?ただこの剣を振ればいいのか」
「いえ。それではその武器の能力は発動いたしません。剣に願いを…。速くなる、強くなる、そんなイメージを剣に送ってください。きっと剣が応えてくれます」
「イメージ……」
MIYTOSをプレイしている時を思い出してみる。あの時はどんな敵もなぎ払い、他のプレイヤーの憧れの的だった。それをここで現実のものとする。
悠斗が握るエストレアは紫色に輝き始めた。
「セイッ!!」
そのまま飛びかかってくるシルバーマウスを横一閃に斬った。真っ二つとなったモンスターはバラバラになり、黒い煙をあげて、一瞬の間に消え去った。
「お見事です悠斗様」
レイアはパチパチと拍手し、褒め讃えるが、悠斗には何か物足りない気がした。
「これでいつヴァンパイアが出ても大丈夫ですね」
「無理だよ!こんなザコやっただけなのにどうしてそんな自信が出てくるんだよ」
「それは私が悠斗様を絶対的に信用しているからです。悠斗様ならどんな試練でも乗り越えられると」
悠斗は自然とため息が出た。
信用。今の自分ができそうにないことを彼女はできている。これでは彼女の方がよっぽど人間らしいでないか。
そんなことを考えたら自然と出てしまった。
「さあ、悠斗様。先へと進みましょう」
「ああ」
これから何体かモンスターが現れたがどれもザコだったので順調に進みことができたがそれが逆に不気味でもある。
「本当にこんなところにボスクラスであるヴァンパイアがいるのか?ダンジョンのモンスターが弱すぎる気がするだが」
「そうですね悠斗様が仰る通りかもしれません。ですが聞き込み情報によると確かにここに間違いないのですが…」
少し疑問を抱きながら歩いていると広いところに出た。細い道、その先に怪しい城が建っている。
「なんで洞窟の中に城があるんだ?」
「わかりません。ですがあそこに目的のヴァンパイアがいるのは間違いありませんね」
それはそうだろう。どう考えてもそういう化け物がいる感じの古い洋館だ。
「悠斗様、少しよろしいでしょうか?」
細い道を歩きながら前にある背中に声をかけた。
「なんだ?」
「悠斗様は人間不信だと聞きましたが、私は大丈夫なんですか?その……私は機械ですのでここに来るまで不気味だと言われました。悠斗様もそう思われているなら…」
「は?お前はバカか。機械なら人間じゃねえだろ」
「確かにそうですが、私なんか悠斗様のお側にいていいのかわからないんです」
「じゃあ、俺がお願いするよ。側にいてくれ。俺はここのこと全然知らないからサポートしてくれ」
「ゆ、悠斗様…」
「まずはヴァンパイアだな」
「そうですね。私、悠斗様のために頑張ります」
細い道を進み、レイアが悠斗の背中を見つめる目はとても輝いていて、それは機械とは思えないほどのもので、まるで人間のようでもあった。