不気味な敵
「さて、今日が作戦当日だ。準備はできてるかね」
悠斗たちは朝起きてすぐに学園長室へと向かい、シグダリアの話に耳を傾けていた。
「バッチリだ。それより爺さんその姿、もしかしてあんたも戦うのか?」
頭が尖った帽子に大きな杖。会った時とは違い、魔導士感が満々だ。
「そうじゃよ。この作戦の指揮を任せられめおるからの。前に出て直接指揮するんじゃよ。若い奴には負けておられんからの〜〜」
「ま、マジかよ。ジジイの域を超えてるな。まあ、そっちはそっちで頑張ってくれ。俺たちは別働隊だからな」
「うむ、期待しておるぞ」
各自、己の戦場へと赴く。
学園長シグダリアは学園の生徒たちを連れてギランカの集団へ、悠斗たちはアリアにある調査をさせるために都市に残して他は全員ギランカの集団がある奥の方を目指す。
遂に作戦が始まった。
戦うのは都市にある学園ほとんどの生徒たちと教員、それに各学園の学園長。
その学園長は自身の学園の生徒を指揮する役目があるが全体の指揮はイシリア学園の学園長であるシグダリアだ。
つまりシグダリアが総大将でこの作戦の全てを任されている。
久しぶりの緊張感でシグダリアも顔が強張らせながら都市周辺にある森を歩いて先導している。
「学園長。質問があるのですが」
帽子を深く被り、濃い緑色の髪を覗かせている彼女はトート・カリェス。ミノスとは反対で学園一の優等生。
「なんじゃね。何でも聞いてくれ」
こんな緊張感のある戦いは数十年振りだから何か話して気持ちを落ち着かせたかったところだ。
「この配置なんですけど、後ろの二つの隊は必要なんですか?」
彼女が言っているのは、シグダリアが率いる本隊の後ろに控えている第二隊と補助隊のことだ。
これは悠斗が立案した守りの陣。まずシグダリアが率いる本隊が攻撃して体力を消耗したり、危険になった場合は第二隊と補助隊の間に入り、その間に第二隊が攻める。
そして第二隊が攻めている間は補助隊が本隊の負傷者を回復して、本隊は次に備える。
補助隊はそれ以外に、応援要請があったらすぐに向かい援助もする。
これでも駄目だった場合は後ろに退いて、準備を整えて、回復した状態で再度突撃する。
これの連続。この作戦はチームワークが必要となってくる。
「あんなのが、いなくてもギランカは私一人で蹴散らせてみせます」
しかし、トートは少しチームワークが苦手で自分より下手な魔法を見ると不快になるという理由で拒む。
自信に満ち溢れている彼女を見ているとつい、娘のことを思い出してしまう。
これは自慢になるが学園長の娘は彼女のように優秀だった。見た目も何となく似ているので娘と重なって見える。
「それは無理じゃよ。ギランカの強さを侮ってはいかんぞ。たとえ優秀なお前さんでもあの数を倒すのは不可能じゃ。わしが全盛期ならどうにかなるかもしれんが、今は老いた。さほど役には立てんよ」
全盛期の頃はそれは恐れられたものだ。都市なんて軽く吹き飛ばれたのだが、やはり歳には勝てなかった。
今では教員より少し強いぐらいにまで落ちた。
「そ、それでも。奴らを倒さなくては都市に攻め込まれてしまいます」
「ふぅ、説明を聞いておらなんだのか?これは防衛戦じゃ。熱くなって突っ込んでも戦いが長引いて被害者が増えるだけじゃよ」
この作戦の説明は今朝の集会で済ましてある。他の学園もそうしているだろう。
「すいません……ならこの戦いは勝てるのでしょうか?」
「どうじゃろうな。ギランカたちが引き返してくれればそれて良し。そうでなかったら別働隊が動くことになっておる」
「別働隊……説明にもありましたがなんなんですかそれは。ギランカと戦うわけでもなく何をする隊なんですか?」
この疑問には少し答えづらい。まだ悠斗たち、参加者のことを話していないからだ。
前にも説明したが、他の世界から来た参加者たちは既存の住民者たちに嫌われている。理由は何であれ嫌われている。
その一人の彼がこの作戦に参加して、この作戦を考えたとなるとこの後に支障をきたす心配がある。
だから彼らに触れず、はぐらかすための魔法の言葉を思い出した。
「真犯人を捕まえるための隊じゃ。そこにミノスもおるぞ。確かお主らは友達じゃろ」
「べ、別にあんな鈍臭い劣等生なんて友達じゃありません。ただ私を不快にしてくるのでよく注意しているだけです。仲がいいわけじゃありません。でも、何で劣等生がその別働隊に?」
「う〜ん。何というか成り行きじゃよ成り行き。それより見えてきたぞい。見たことのある生徒は少ないじゃろうから、よ〜く見ておくんじゃぞ。あれが魔導士の天敵と呼ばれる中級モンスター、ギランカじゃ」
本隊は木や葉っぱなどで隠れながら、奥にいる緑色の生物に目を丸くした。
ネバネバした鱗のような表面、目は赤く楕円形でそのそばにある口にはギラギラと鋭い歯が何本もある。
そして驚いたことに少し人に似ている。ちゃんと指があり二本足で立っている。身長は小さいものでも一メートルはある。
「あれがわしらが戦うべき敵じゃ」
トートは顔を真っ青にして自分が放った言葉に後悔していた。あんなものを全て蹴散らすなど不可能。体が震えてそう忠告しているのだ。
そんな彼女を見透かすように一体のギランカが首をヌュルリと動かして赤い目を此方に向けてきた。




