優しさ
「ただいま〜」
と言ってもここはミノスの部屋で、家ではない。中はそれなりに広いが五人入るには少し狭い。
「どうだった主。部屋は取れたのか?」
「いや、もう空いてる部屋がないってさ。仕方ないからここで寝るか」
しかしここはベッドが二つしかない。
「なら、主は我と一緒に寝るしかないな」
「なんでそうなるんだよ。お前らはミノスのベッドに入れてもらえばいいだろ」
ベッドは意外と大きい。頑張ればひとつのベッドに三人は入れる。
「よし、ならレイナとホグアの二人は眼鏡っ娘のベッドで主は我と一緒に……」
アリアはベッドに座りながら妖艶な瞳で悠斗を見つめる。
「それしかないのかお前は!」
「ま、まぁまぁ落ち着いてください。私が床で寝ますから」
それを見兼ねてたミノスは彼らに遠慮してベッドから立ち退こうとする。
「待て待て。俺らは無理言ってお前の部屋に泊めてもらうんだ。ミノスが無理をすることはない」
「で、ですが……」
それならば、どうすればいいんだろう。
悠斗は一人で寝たいが、ミノスは床で寝かせたくはない。だがベッドに入れるのはどう頑張っても三人。必ず二人が残ってしまう。
「では私が床で寝ます。悠斗様に不快感を与えたくありません。ベッドで寝てください」
「イヤイヤ、それだとお前が普通に寝れないだろ。ドラゴンの時もお前寝てなかっただろ」
「ゆ、悠斗様! なんでそれを……ま、ま、まさかあの時起きてらしたんですか?」
レイナの機械の顔が赤み帯びていく。
「あの時? いや後でホグアから聞いたんだよ。あいつ夜に飛んで周りの安全確かめてくれたらしくてな。その時にレイナが何かしてるのを見たっていたんだよ」
何かしてるということは、空からではよく見えなかったのだろう。
「そ、そうですか。あれは見られてないんですね」
悠斗様に忠誠を誓うためのキス。したのは頬だがあの時の感触はまだ忘れられない。
「あれって何なんだ?俺になんかしたのか」
悠斗はズイッと顔をレイナに近づける。
「ひゃう……ゆ、悠斗様……」
赤み帯びた顔はさらにら赤くなり、遂には倒れこんでしまった。
「お、おい!どうした」
倒れたレイナに手で額に触れる。
「熱いな。前のオーバーヒートと同じ現象か? 仕方ないこのまま寝かせとくか」
そっと毛布をかぶせる。
「だ、大丈夫なんですか? レイナさん顔真っ赤だったんですけど。風邪ですか」
「いや、こいつは機械だから風邪はひかねーよ。なんだかんだあってオーバーヒートしてるんだよ。一日置いとけば治ると思う」
以前もそうだった。それに今回は煙を出すほどではなかった。すぐに治るだろう。
「そうなんですか。でも、どうします。レイナさんはそこで寝るしかないけど、悠斗さんはどこで寝るんですか?」
彼女は熱くて隣で寝るには厳しい。他のベッドで寝るしかない。
「寝ねーよ。俺はレイナの看病してるからアリアたちはミノスのベッドで寝ればいい」
これでベッドは全て埋まる。
「待つのだ主。それでは主が大変ではないか」
「そうっすよ〜」
「いいんだよ。こいつにはこの世界に来たときから世話になってるからな。少しでも恩返ししたいんだよ。もちろんお前らが病気になったら看病してやるよ」
レイナは病気ではないし、ヴァンパイアと竜人が病気になるかは知らないが。
「看病か……う、うむ。それもいいかもしれんな」
「何がいいんだよ。まあいい。お前たちはちゃんと寝とけよ。明日は作戦が始まるからな」
少し早いが、会議で作戦開始日が明日となっている。
「主が言うなら……」
「は〜〜い」
アリアは悠斗が寝ないのを不満がっているが、ホグアはちゃんと何も考えずに言うことを聞いてくれる。
それがホグアの取り柄だ。
一時間後、なかなか寝れなかったホグアも今では深い眠りへとついて鼻ちょうちんまで出している。
一方アリアは気品良くお嬢様のように寝ている。
しかし、真ん中のミノスは寝ていない。
彼が気になって寝れないだ。今も看病を続ける彼を寝たふりをしながら見ている。
タオルに水をつけてレイナの頭を冷やしている。
「早くよくなれよ。でないとアリアとかホグアを抑えられないからな」
本当に、本当に優しい人だ。初めの印象は少し怖い人だったけど彼と接してみるとよくわかる。
ただ彼は不器用なだけで人を気遣える優しい人なのだ。
それに初めて褒めてくれた。それがミノスにとってはとても大事なことだ。彼にもっと褒めて欲しい。今はそう思ってる。
「おやすみなさい悠斗さん」
ゆっくりと目を閉じ、夢の中へと入って行った。




