眼鏡っ娘
「なら、魔道士を一人くれ」
その一言に学園長シグダリアは年甲斐もなく口を開けて驚いた。
「それはほ、本気で言っておるのか?」
「ああ、マジだぜ爺さん。っつても、マジなんていう言葉はここでは使わないか」
シグダリアはアワアワと震え出した。この男が、参加者はやはりこんな奴らなのかと恐れていた。
「だけど教員じゃなくて生徒だ。この学園のな。爺さんはここの学園長なんだからなんかこう上手い理由つけてくれればいいから」
「なぜお主はそんなに魔道士を望むじゃ」
「戦力だよ戦力。オラムに仲間にした方がいいって言われてよ。俺もその意見には賛成だったしな。だけど教師だと爺さん困るだろ。それに年上っていうのは大抵やかましいもんだ。そんなのが旅のお供なのは嫌だからな。だから俺はここの生徒を仲間として欲しいんだ」
彼の言っていることは傲慢だ。
つまり自分の都合のいい強い仲間が欲しいと言っているのだ。しかも、個人的理由までついている。
だが彼が希望であることも確かだ。これは学園長としてこの申し出をどう受けるか真剣に考えなくてはいけない。
唸って額にシワを作り、悩み、考える。
「それにしても主も人が悪いの。いきなり年寄りが困る言葉をぶつけるとは」
シグダリアの迷う姿を見てニヤニヤするアリア。
「目的は早めに片付けておきたいしな。それに俺があの爺さんに遠慮する理由がない」
「く〜っ、悠斗悪っす。でもしびれるっす」
なぜかホグアは地団駄を踏む。
彼女がいれば何もない荒野でも騒がしくなりそうだなとその姿を見て悠斗は苦笑した。
「悠斗様。なぜ学園長を嫌っているのですか?」
「レイナにはそう見えるか」
「はい。間違いでしたか?」
「いや、レイナの言うとおり。俺はあいつが嫌いなのかもしれないな。あいつは少し俺のジジイに似てるんだよ」
「悠斗様の祖父様にですか?」
「ああ、そいつはいつも偉そうにしていてな。俺は嫌いだった。その態度がな。でもあの学園長は少し違うかな」
「違う、と言いますと?」
「なんだかな……あの爺さんは温かい感じがするんだよな〜。俺のジジイにはなかったものだ」
「温かい……ですか?私にはわかりません」
機械である彼女には感覚がない。痛覚もその温かさも感じることはできない。レイナはこんな時に自分が機械であることを憎む。
「いいさ。これからの旅で学んでいけばいい。誰にだってわからないことはあるさ」
「は、はい悠斗様……。やはり悠斗様ですね」
学園長へと言葉が鋭くて、少し不安になっていたが、何の心配もいらなかった。いつものいつも通りの悠斗様だと思いレイナはそっと呟いた。
そしてウロウロと動いていていた学園長が近づいてきた。
顔からして何かを決めたようだ。
「君はこの騒動を抑えられるかね」
「ええ、命に代えても抑えてみせますよシグダリア学園長」
彼は自信ありげに宣言した。
「そ、そうかならば……」
「ちょっと待ってください学園長。さっきから気になってたんですがネズミが聞き耳を立てているようですよ。おいホグア」
学園長は報酬の提案をしよとしたが、悠斗はそれを止めて指で合図してホグアに扉を開けるように仕向ける。
「ほいっす」
木でできたその扉を思いっきり開けると一人の少女がガタンと音をあげて学園長室に現れた。
「ぬ、君は……」
眼鏡をかけたその栗色の少女をシグダリアは知っている。
だが学園長である彼もこの一万人ほどいる学園の生徒を全て覚えいるわけではない。学園で有名な生徒や話したことのある生徒、問題を起こした生徒なら覚えているがそれ以外はうろ覚えだ。
それに歳も歳だ。顔や名前が一致しない時があるのも屡々(しばしば)だ。
だが、この少女だけは別。
「どうやらここの生徒みたいだな。制服も着てるし……ん、それは?」
悠斗が目にしたのは大きな水晶が乗った杖。
「す、すきません。聞いたのは謝ります。でもこのことは誰にも喋りませんなので許してください」
「いいぜ」
「へ?」
即答すぎてミノスは声が裏返った。
「お、おい。主、其奴は盗み聞きしとったのじゃ。お咎めなしとはどういうことじゃ。もしや、この女に惚れたのではないだろうな。あれか、主がいた世界でいう眼鏡っ娘という奴が好きなのか?」
「おい、待て待て。勝手な誤解をするんじゃない。てかお前、眼鏡っ娘なんてどこで知った?」
眼鏡っ娘なんて言葉、アニメとゲームもないこの世界にはないだろうに。
「主のことを少しでも知ろうと思ってな。レイナに頼んで主の世界独自性の言葉を覚えたのじゃ」
「方向性間違ってんぞそれ。別にこいつが眼鏡っ娘だからって許したんじゃねーからな」
「ならば何じゃ」
アリアはまだ疑いの目を悠斗に向ける。
「俺はこいつを仲間にするこにしたからだよ」
「ほおぇぇぇーーーー!?」
とんでもないことに巻き込まれてしまったとミノスの心の叫びが学園長室に響き渡った。




