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人間不信様のハーレム世界   作者: 和銅修一
13/80

フローズンフェアリー

 コキュートス・ヘイル。

 ランキング報酬として美鈴が受け取った武器の名だ。刀身は透き通った氷のように美しい。

 それが魔具だと知ったのはコキュートス・ヘイルを持ってきた配達員から聞いたからだ。

「いいですかお客様。魔具はそれ自体が魔力を持っているのでとても強力です。しかしその反面、扱いが難しく事故が多発しております。もし嫌であれば他のものと……」

「いいえ。これでいいわ」

「左様ですか。お客様がお決めになったことですから私は止めはしませんがどうぞお気をつけくださいませ」

 一礼して帰っていく配達員を見送りながら、美鈴は手元のコキュートス・ヘイルを見つめる。

 なぜ配達員の忠告など押し退けるほど欲しくなったのかはわからないがこれは手放したくなかった。

「これも魔法なのかもね」

 まるでこの運命の相手のように感じた不思議な気分をそう例えざるをえなかった。




「そのチンケな虫で俺を倒そうというのか小娘」

 年は大差ないであろうガイザは斧を構えて妖精たちを侮辱(ぶじょく)した。

「妖精は虫ではないわ。そんなことを言うことができない口にしてあげる」

 レイピアを指揮棒のように振り、妖精たちに合図を送る。

 妖精はそれに合わせて小さな羽で飛び回り、ガイザへと近づいて行く。

 そしてある一定の距離まで接近すると妖精たちはガイザに向かって体当たりする。

 しかしそんなのは軽くあしらわれた。

 お返しとばかりに斧で逃げ遅れた妖精一匹を切り刻んだ。その時、斧は妖精によって氷漬けにされたがガイザ本人には何の影響もない。

(もろ)いな。それでもギルドマスターか? お前では話にならん。どけ、俺は師匠に用がある」

 吐き捨てて、斧を地面に叩きつけ、纏わり付いた氷を無理やり壊そうとしたが、ひび一つ入らなかった。

「無駄よ。そういう魔法なの」

 残った九匹を自分の周りに漂わせながら威張る。

「この程度で勝った気になるなよ女。やりようはいくらでもある」

「例えば?」

「こうするんだよ!」

 刃の部分が氷漬けになった斧をハンマーのようにして美鈴に叩きつけた。

 しかしそんなものは難なくかわす。

「ちっ!」

「もう勝負は決まってるのよ。あなたの武器に私のフローズンフェアリーが当たった時からね」

「ほざけ! まだ負けたわけじゃねーだろ。おいリラーノ」

 怒りに怒ったガイザは後方で援護攻撃ばかりしていたギルドメンバーの一人にに指示を出す。

 リラーノはギルドマスターの考えを悟り、矢を引き絞り天高く放つ。

「シャインアロー」

 光り輝くその技の名を呟くリラーノ。

 しかしそれらは美鈴の上空を飛んで行った。

「ま、まさか」

 狙いは後ろにいる会合参加者とその人を誘導している一人のギルドメンバー。

 風を突き抜けて一直線に光はそこに飛んで行ったが、途中で現れた赤い闇に切り裂かれた。

「そこまで落ちたかガイザ。だがよ、そんなんじゃあ誰も殺せねーよ。お前が誰も守れねーようにな」

 金髪と化した悠斗はできるだけ大きな声で、ガイザによく聞こえるようにそう言いつけた。

「なん……だ。その姿は。本当に師匠なのか?」

「あれは(リンク)リングの力でアリアとコネクトした悠斗よ。簡単に言えば合体した……って感じかしら」

 合体というより融合が適切かもしれないが。

「ふざけるな……師匠の体に汚物はいらない。俺が処分してやる」

 目が怒りから、殺しの目に変わった。

 彼の何がそうさせるのかわからないが目は本気だと語っている。

「せぇやぁ!」

 ガイザの目に映ったのは、綺麗で、無駄がなく、精錬された剣さばき。

 リラーノが放った矢をことごとく弾き、それに苛立ったグラドスの猛攻撃もいなしていく。

 二人が弱いわけではない。悠斗が強すぎるのだ。

「さすが師匠……もっと殺したくなったよ」

 その光景に目を奪われたガイザは何かに取り憑かれたようにズルズルと氷で重くなった斧を引きずりながら悠斗の方へと歩んでいく。

「あなたの相手は私よ」

 美鈴の声で朦朧(もうろう)としていた意識が覚める。

 そしてその時、一瞬だが隙ができた。

 できた隙を見逃さず、残りの九匹の妖精をガイザに向けて飛び出させる。

「うっとおしいハエが‼︎」

 氷でハンマーのような形となった斧を振り回す。

 まずは真っ直ぐ飛んでくる妖精に一発。左右から迫る妖精二匹に流れるように動かした斧をぶつけた。

「まだよ」

 駄目押しとばかりにもう一匹の妖精をフルスピードで突撃させた。

 それをガイザは紙一重のところでかわして軽く叩いてやると無残に崩れ去る。

「くっ」

 だが彼女は散りゆく最後にありったけの氷を置いていってくれた。

 その氷はつもりに積もり、斧の大部分を埋め尽くし、もはや持てないほどになっていた。

 残った妖精は五匹。

「これで終わりね」

 そう言い魔具コキュートス・ヘイルを突き出し、合図を出した。

 妖精たちはそれに従いガイザに突っ込んで行く。

「クソォォォーーーーーーーー‼︎」

 ガイザの怒り、苛立ちの雄叫びは絶対零度の氷の中に閉ざされた。

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