表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/28

8、電話




『……』


かすかだが、何かが耳に届いた。

おそらく兄だろう。

けれど、兄はいつも何をしているかなど物音でも分からせないというのに、今日はやけにうるさい。

私が帰ってきていることに気づいていない可能性が高かった。

なにやってんだろ?

興味本位で、まったくの面白半分で、私は足音を忍ばせて階段を上がることにした。


『………』


ボソボソとして聞き取りづらかったが、誰かと会話しているような感じだ。

しかし玄関には他人の靴など見当たらなかった。

ということは、電話でもしているのだろう。


兄の部屋は、階段を上がって手前にある私の部屋の、隣の隣、つまり奥の方にある。

階段をあがりきったところで、壁に張り付いて奥の部屋の様子を伺うと、音が聞こえた原因が分かった。

兄の部屋の扉が数センチほど開いていたのだ。

音を立てないように慎重に足を運びながら、私は息を潜めて耳を澄ませていた。


『しゃーから、あいつのことなん、なんも知らん言うとるやんけ』


少しかすれ気味でハスキーな男の声。

いつまでたっても耳慣れしない独特の関西弁。

紛れもない兄の声が、今度は正確な言語になって耳に入ってきた。


途端に、私は思い出していた。

学校の下駄箱で渡された、元カノらしき人からの手紙と伝言のことを。

あれを兄に伝えることなんてできるのだろうか?


(―――あんたのお兄さん、残酷なやつよ)


あんな身も蓋もない言葉を、いくら実の兄とはいえ…。


思わず制服のポケットに手を突っ込み、受け取ってきた紙切れを握る。

紙切れは私の握力に耐えられず、くしゃっとひしゃげた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ