7、家庭事情
「…今日に限っているし」
友達の誘いを振り切って帰ってみれば、玄関にあるアディダスの黒い継ぎはぎランニングシューズを確認し、肩がますます下がってしまった。
兄のロードワーク用の靴だった。
イコール、いつものランニングには行ってない、イコール、この家の中にいる…―――。
…まったく気が滅入る話だった。
私たちの両親は互いに仕事を持っており、割合家にいない時間が多い。
そうなると、必然的に家の仕事は居る者で補わなければならなくなる。
しかし、全国大会に出場するほど実力のあるサッカー部に在籍している兄は、大半の家の雑事をこなす時間がない。
そのためお役はほとんど私にまわってきて、炊事洗濯掃除、学校から帰ってからはおさんどんもかくやというほどの主婦ぶりを発揮しなければならなかった。
外での素行など知れたものではない兄はサッカーに関してだけは真剣で、その腕前たるや高校サッカー専門の雑誌記者から何度か取材を受けるほどというから驚きだ。
ゆくゆくはプロへ行くのではと周りがささやくのも頷けるほど、とかく兄のサッカーへ対する傾倒ぶりは尋常ではない。
両親もそれだけは手放しで兄を受け入れており、私には彼の手助けをするようにと口が酸っぱくなるほど言い聞かせている。
そのため、自然と家の雑用は私が請け負うことになってしまった。
もちろん不平不満はいっぱいある。
けれどどういうわけか、私はまるで習慣のように、決められた予定を実行するように毎日、早々に帰宅してはそれらの雑事をこなしていた。
もともと帰宅部で、これといった趣味もなかったから、時間だけはたくさんあった。
ときどき、さっきみたいに友達から誘いを受けることもあったが、百合子のように人脈が広いというわけではないので本当に時々だ。
だから、もっぱら、高校生活に入ってからの私は家事に奮闘しまくっていた。
とりあえずは夕食の支度と風呂掃除を優先しなければならない。
兄がいることに多少の不安を感じるものの、彼が私へ興味を向けることは万に一つもないに等しい。
夕飯ができていれば「作ったんだな」とか、お風呂が綺麗になってれば「洗ったんだな」とかその程度の認識だ。
気にしている方が馬鹿らしいと考えて、制服を着替えるために二階の自室を目指して階段に足をかけた。
そのときだった。