4、秋良高馬
私の兄は、秋良高馬という。
年は二つ上の18歳。
そして私の名前は七倉みどり。
名字が違うが、私たちはべつに義理でもなければ他人でもなく、完璧に血の繋がっている兄妹だ。
では何故名字が違うのか?
私は今、母の再婚相手である義父の姓を名乗っている。
しかし兄は、離婚したときに母が私だけを連れて出て行ったため、必然的に実父の姓のままだった。
そして、私たちと暮らすことになった今も、実父の姓を取らないでいる。
戸籍上は他人だった。
学校のみんなには、兄のファン(?)に私が兄と一緒にいるところを目撃されてからは公表するようにしている。でないと、凄まじい妄想からの誤解による恐ろしいやっかみが待ち受けることになる。(登校から三日で身に染みた)
けど、いたって気にしないような人にまでわざわざ私たちが兄妹だということを触れまわったりはしなかった。
でなければ私と兄は、周りからはじゅうぶんに他人として映るからだ。
兄は、何につけても実父の影響が強い。
いまだに独特の関西弁で話すのもそうだし、家庭環境、価値観、生活習慣、文化、何から何まで私たち家族とは一つもかぶらない。
そう、実の兄妹でありながら、私たちにはまったく共通点がないのだ。
それに、転校を繰り返していたからか、それとも飲んだくれだった(らしい)父を一人で支えてきたからか、同年代の人より世慣れているし、妙に落ち着いているしで…。
とにかく、私と血を分けていることなど一つとして感じさせない人が、私の実の兄、秋良高馬という男だった。
当然だろうが、私は、兄を兄とは思っていない。
兄の方でも、私を妹とは思っていないだろう。
なにしろ私が兄と「家族ごっこ」をしなくちゃならなくなったのはつい最近のことだ。
一緒に居た時間よりも離れて暮らしていた時間の方がずっと長い、そんな家族を家族とは呼べない。
それでも、最初の頃はまだ「らしく」しようと頑張っていたように思う。
けれどその努力も、瞬く間に泡と消えた。
最初に放棄したのは兄の方だった。
…いや、あの人は放棄どころか、はなっから何もするつもりがなかったんだろう。
私は、実らない成果をアテにしていい子ぶれるほど、大人でも子供でもなかった。
どうでもいい補足:兄の高馬はバリバリにオマージュというか、原型があります。知ってる人は知ってるサッカー漫画の某キャラです。