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エピローグ
いつのまにかまた振り出した雨音を聞きながら、私はのろのろと準備にとりかかった。
何があっても日常はやってきて、私たちは物を食べ睡眠をとり、生活を繰りしていく。
そして私は兄の妹で、家事をこなし、この家での責任を果たす役目があった。
家族だ。
何があっても。
どんなに思っていても。気にかかっても。
家族であり、それ以上でも、以下でもない。
さっき兄は、そう示したじゃないか。
階段を登って、踊り場にある窓から外を見れば、街灯の頼りない明かりに照らされた雨が、けぶるような霧雨となって街を覆っている。
私はその閉鎖的な光景から目をそらそうとして、すぐ踵を返そうとした。
そのとき、兄のあの言葉が、頭の中で鳴り響いた。
―――それでええ、その方がええんや。
『あなたのお兄さん、残酷なやつよ』
その通りだった。
残酷なくらい優しい兄は、やはりふしだらで、不誠実で、大嫌いな兄だ。
一生、それ以外の、なにものでもない。
強く言い聞かせて、わたしは一歩、また一歩と、仄暗い階段を登り始めた。
浅い夢の名残は、雨に溶けるように霧散していた。
終