22、真実
二年前の、まだ一緒に住んで間もない頃のこと。
私は今日のように、まったくの興味本位で兄の部屋を覗いた。
扉の隙間、3センチの向こう側。
そこで、私が見たものは……。
『はぁっ、はっ、はっ、―――くぁっ、みどりっっ!!』
荒い息遣い。
うつろな目線。
興味本位で覗いた部屋の中で、兄は私の名を呼びながら自慰に耽っていた。
『あっ、はあっ、はぁ、はぁ…っ。あぁ…みどり、みどり、っ!!』
兄の手の中には、私が昨日洗濯機に放り込んだはずのブラジャーがあった。
最初は、何が行われているのかを理解するまで時間がかかって、自失状態にあったと思う。
けど、兄が私の名前を呼びながら動かしている手が、股間にある、到底目にしたくないグロテスクな物を握りこんでいたので、すぐにそれが忌まわしい、嫌悪感を伴う行為だということに気がついた。
そして、気がついたとたんに、私は立っていられなくなった。
腰が抜けたのだ。
―――ガタンッ。
当然兄は気付く。
行為をやめ、扉を開ける。
その時の、蒼白になった兄の顔を、何故忘れていられたのだろう。
ポーカーフェイスを崩さず、常に飄々としていた兄の、いっそ笑えるほど人間らしい表情だったというのに。
『みどり、お前……!』
『あ……』
兄は、一度大きく唾を飲み込んだ。
そして震えながらため息をつくと、正気を失ったようにこう言った。
『すまん、すまんかった、みどり!』
繰り返しそう言って、床に頭をつけて土下座した兄に、私は一言、こう呟いたのだ。
ぎゅうっとつぶされた胸から押し出された言葉は、まるで悲鳴のようだった。
『変態…!』
「……思い出したんか?」
「どうして、兄さんどうして!!だって、兄さんが…!!」
忘れろと言ったのに。
お前は何も見なかった、忘れろと。
それなのに、どうして思い出させたのか。
『わすれる…』
『せや、忘れろ!お前は何も見んかった、俺の部屋も覗かんかった!』
私は、ゆっくりと首を横に振った。
到底忘れることなど出来そうになかったからだ。
『それが出来んのやったら、こっから出てくわ。…二度と、お前らの前に顔見せへん。それでええやろ』