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18、迎え




しとしと…という静かな音で目を覚ました。

滑り台の下で雨宿りをするうちに、どうやら眠りこんでしまったようだった。

またも後味の悪い夢を見ていた気がするが、掬い取ろうとする瞬間に記憶は霧散した。

もうかけらも思い出すことができそうにない。


目をこすりながら辺りを見回すと、雨脚はそんなに強くはないようだ。

薄いカーテンに視界を遮られているような、霧のように煙る雨だった。

何かを思い出しそうになるが、やはり掬い取ることはできずに終わる。

私は頭が老化しているんだろうか。


「帰るか…」


そろそろ辺りが暗くなってきている。

雨の降る暗闇の中を一人で歩くなんて物騒にもほどがあるというものだ。

さすがにそれくらいの危機管理能力は持ち合わせていたので、雨宿りを切り上げてさっさと走って帰ろうとした。


「みどり!」


滑り台から一歩踏み出してさあ走ろうと前足を出したところで、誰かが私の名を呼ぶのが聞こえてきた。

聞き覚えのある声だが、その声が私の名前を呼ぶのにはひどく違和感があった。


「兄…さん?」

「みどりー!どこや!」


必死に私の名を呼ぶ兄の声に何かが込み上げてきて、私は発作的に大声で呼び返していた。


「兄さん!」

「みどり!」


どれほど外に居たのか、やがて視界に入ってきたのは、全身がしとどに濡れそぼっている男性。

いつもは立ちあがっている硬い髪もぺっとりと輪郭に張り付いている。

間違いなく、私の実の兄だった。


どういう風の吹きまわしか知らないが、どうやら兄は私のことを探し回っていたようだった。

それともランニングついでに探していただけだろうか。

そちらの方が、まだ信憑性のある話だ。


「…なんで」


肩で息をしながら駆け寄ってくる兄に、私は戸惑いを覚えずにいられない。

当然だろう。

普段であれば私なんかには少しの関心も寄せない兄だ。

ケンカして出てったくらいで心配するような、殊勝な性格じゃない。

そんな人がどうしてこんなに必死な様子で、関心のない妹を探しにきたのか。






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