17、悪夢
『せやけど、ええ子ちゃんのみどりは、俺の汚い部分なんぞは絶対に許せへんのやろ?』
そんなことはない。
兄がちょっとでも私に向き合ってくれたら、私の存在を認めてくれさえすれば、私は何もかもすべてを許すことができるだろう。
少しでも優しさを見せてくれれば。
妹として認めてくれたなら。
『妹なんぞいらんわ。女やったら…相手せんこともないで』
両親のいない日に響いてくる女の声。
兄は、甘ったるい睦言を吐いて、優しく女を抱き寄せている。
扉の隙間3㎝の視界で繰り広げられる、吐き気のする行為。
『あ、あ、いい、あああ…!たかまぁ!』
『はっ、はっ……っ!』
ねっとりとした空気の部屋で、服を着たまま絡み合っているその現場を、私は何度も目撃してきた。
許せない。
とても許すことなんてできなかった。
なぜあんな人が私の兄なの?
なぜ私はあんな人の妹なの?
『あ、ああっ…、兄さん…っ』
『……どや、兄貴に抱かれる心地は?こうされたかったんやろうが?けど、兄貴に抱かれたいなんちゅう女なんぞ、それこそいらんわなぁ……』
いつのまにか私は兄の腕の中にいて、激しく抱かれていた。
これは夢だ。
いつもの悪夢。
私を抱く兄の顔が歪んでいく。
耳の中でずっと鳴っているのは、あのときの呪文のような兄の言葉―――。
―――忘れろ。お前はなんも見んかった。
そうだ。
私は何も見ていない。
何も知らないままだ。
兄さんが…
あの兄さんが…
扉の隙間3㎝の向こう。
私が本当に忘れている、本当の「忘れるべき出来事」…
―――あんたのお兄さん、残酷なやつよ。
そうだ、この言葉も忘れなくちゃいけないんだ。
綺麗な女の人は、きっと「知っている」人だった。
―――せや。それでええ。その方がええんや…
―――その方が…
しとしと…という音が、どこかから聞こえてくる。
紗にかかった様に、意識は急速に明瞭さを失っていく。




