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16、忘れられた交流




私は、考えなかった。

考えても、この行動に対する理由がまったく思い浮かんでこなかったからだ。


『でも、家族だもん』


そう言って兄の顔を見つめれば、相手はひどく驚いたようで、ぎょろりとしたタレ目を見開いてこちらを見ている。


『………』

『お父さんも、兄さんも、私の家族だよ…』


その答えは、自分でも全くの予想外だった。

家族だと思ったことなど、一度もなかったというのに。


ステンレス製の灰皿の中には、消し屑になった写真の残骸が、黒く溜まって残っている。


『兄さん、』


不安になって声をかけようとした私を遮るように、兄は私に正面から向き直って言った。


『ええか、今見たんは忘れろ』

『どういうこと?兄さんは…』

『忘れろ。お前はなんも見んかった。元から写真なんてもんはなかった。それでええ』


兄は、私の両肩をぐっと掴んで腰をかがめ、ゆっくりと視線を合わせてきた。

いつも、どんな感情を浮かばせているのか分からない瞳に、強い一筋の光が見える。


『忘れる…』


呟いた私に、兄は噛んで含めるように言い聞かせた。


『せや。その方がええ。お前には今の家族がある。俺らはおたがい干渉せんで、興味も持たんでおった方がええ。その方が、ええんや』


私は反射的にこくりと頷いていた。

それほど、兄の声には抗えない力のようなものが宿っていた。


その後、私は本当にその出来事を忘れようとした。

兄の部屋から出るときには「はよ、いね」と、もういつもの調子に戻っていたので、私は強く強く念じて、忘れろ忘れろと言い聞かせることで記憶の奥深くに仕舞いこんでいた。


けれど、何故忘れる事が出来たんだろう。

あの時の兄は、確かに、私に誠実な面を見せていた。

あれこそが、私の望んでいた兄だ。

優しくて、誠実で、頼りがいのある、けれどどこか不器用で憎らしい、兄。

普通の人より何かを超越しているようで、でもどこにでもいそうな、そんな人。

私の自慢の兄。






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