14、家族写真
『何やってるの?』
目の前で、兄がライター片手に写真に火をつけているので、私は思わずそう聞いていた。
扉の隙間から様子をうかがっていたことも忘れるほど、その行為が常軌を逸していたからだ。
『なんや、帰っとったんか』
どうでもいいように呟いた兄は、私の質問に答える気などないらしく、また新しい写真に火をつけようとしている。
その写真の中に見知った顔を見つけた時、私はとっさに兄の腕にすがっていた。
『ちょっと…何してんの!?それって…』
実の父の写真。
おそらく兄にとってはとても大事なもののはずだった。
けれど兄は、取りすがった私を突き放して、父が遠くでこちらを向いているその写真に、またゆっくりと火をつけはじめる。
『大人しくしとる気がないんやったら、いねや。…見とるんやったら黙っとれ』
珍しく、兄が拒絶もせずにそんなことを言ったので、私は思わず口を閉じてその行為に見入ってしまった。
突き放しているように聞こえるかもしれないが、「黙ってるなら居てもいい」なんて、普段の兄だったら逆立ちしたって出てこないセリフだった。
不気味なことこの上ない行動ではあったが、兄の顔つきがいたって真面目で、私はなんだか、そんな兄を新鮮に感じてしまって、文句も言わずにその場に残ることにした。
机の上に置いてある数枚の写真たちは、ほとんどが古いものだった。
そしてよく見ると、それらは私たちがまだ家族として機能していた時代のもので、幼少期(おそらく2、3歳)の兄や私が母や実父と一緒に笑い合っているようなものばかりだった。
私にとっては懐かしさのかけらもないが、兄にとってはそうではないはずだ。
兄の中では、家族は実父ただ一人なのだろうということは、言外に知れていた。
そのただ一人の家族の写真、遺品とも言えるそれを燃やすなど、ただ事ではない。
その行為の異常さは、私たち、母、養父との写真を燃やすという行為の方が、まだしも理解できるほどだった。