12、公園
あてもなく走り回っていたつもりだったけど、気づけば小さな公園に着いていた。
そこは、小学校低学年の頃に頻繁に遊びに来ていたところで、中でもお気に入りだった、公園の中央にある大きな滑り台に懐かしさを掻き立てられた。
当時は造られたばかりだったのか、ゾウさんに見立てた滑り台は全体的にパステルなカラーリングでとても可愛いかったのを覚えている。
けど、今目の前にあるのは、塗装が禿げ落ちて錆びと薄黒い染みに覆われた、得体のしれない生き物だ。
ゾウさんの特徴である大きな耳の部分は、誰かが壊したのか片方だけ取れていて、一見しただけじゃゾウさんとは判別できない。
おまけに長い鼻の部分が滑り台となっているものの、その鼻の塗装がほぼ丸ごと取れているので、ただの滑り台にしか見えなかった。
「はは…」
気分が最低に落ち込んでいるときにさらに落ち込むようなものを見せられ、思わず自虐的な笑いが漏れる。
(なにやってんだろ)
頭が冷えてくれば、ただひたすらに恥ずかしさが胸を占拠した。
なにを取り乱していたのだろうか。
思い返せば、あれは喧嘩ですらなかったに違いない。
一人で癇癪を起こして、一人で叫び出したに過ぎない。
兄はそれを迷惑そうに見つめる傍観者だった。
「なにやってんだろ、私…」
冷静になった今でも燻り続けているもやもやは、まだ腹の底で渦を巻いていた。
怒りでも羞恥でもない、恐怖でもないこの感情は、一体何という名前なのだろう。
一番似通っているのは気持ち悪いなんだけど、それは感情という括りに入れてもいいんだろうか。
思い悩む私に、泣きっ面に蜂というような事態が起こった。
頬に一滴の雫が落ち、雨が降り始めたのだ。
運がいいのか悪いのか、ゾウさんだった滑り台の胴体部分には空間があり、丁度雨宿りには良さそうだったので躊躇わずに中へ入った。
だが、座ろうとした時、足に鋭い痛みを感じて驚いた。
そういえば素足のまま、おまけに制服を着たまま出てきてしまったのだ。
痛みを感じた右の足裏を見ると、真っ黒に汚れている上に、一か所から血が出ていた。
痛くて、また泣きたくなる。
たまらず涙が滲んできた時、さっきの兄の表情を思い出していた。
理解のできない人間を目にした時のような顔を見れば、絶望には事足りた。
血の繋がりがあろうとも、彼とは何も分かち合えないのだろう。