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11、警鐘




無表情に、冷静に言い放った兄は、私の話などに付き合っていられないというように、通り過ぎようとしている。

いつものロードワークへいく格好の、黒いジャージの上下を身にまとって、上着のジッパーを閉じようとしていた。


もう、これで喧嘩は終わった。

兄は、私を視界から外し、そして世界からも除外する。

彼は瞬時に脳みそのモードをサッカーへ切り換えることができるから。

けれど、そんなことは許してやらない。


「ちょっと待ってよ」


ナイロン素材の上着の袖をギュッと掴んで、そうはさせるかと制止させた。


「関わるなとか言うなら、私や家族に迷惑かけないでくれる?なによ、これ」


ぎゅっと握ってくしゃくしゃの紙くずになった例の手紙を突き出して、兄の胸、心臓の部分に強く押しあてた。

兄は怪訝な表情でわずかに眉根を寄せながら、拳の中のものを受け取った。


「さっき、学校の昇降口で、元カノっぽい女から渡されたんだよ。だれかさんと類友みたいで、自己中で人の話聞かないから、私が渡すしかなくなったんだよ。関わるなとか偉そうに言うなら、まず自分がちゃんとしてよ。私が知らないと思ってんの?お母さんとお義父さんがいないとき、夜中、誰と何してんのか」

「…………」

「…気持ち悪い。関わりたいわけないじゃない、こっちだって、好きで関わってんじゃない!!関わらざるを得ないんだよ、何でだか分かる?ねえ、分かってる!?きょうだいだからだよ!!気持ち悪くても血が繋がってるからだよ!一生っ!嫌でもっ!!」


血を吐く思いでそう言って、私は何故か泣きながら息を乱していた。

怖いとか、気持ち悪いとか、むかつくとか、そんな簡単な感情では言い表せないものが、腹の底でぐるぐる暴れまわっている。

それを吐き出したくても、何て言えばいいのか分からなくて、また涙が溢れてくる。


「あんたなんか…っ、あんたなんかに、会わなきゃ良かった!」


気がつけば、私は兄の顔を見ずにその場から走り出していた。

家にいたくなかったので、階段を駆け下りて、靴も履かずに外へ出た。

それは、まるっきり逃げたのと同じことだったので、それが悔しくて、堪らない。

けれどもう、それ以外にはどうしようもなかった。


『これ以上かき乱さないで、暴かれてしまう』


警鐘が、強く、強く鳴っている。

こんなにも息苦しいのは、その警鐘が体に言い聞かせているからだろうか。

これ以上、何も知ってはいけない、と。






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