9、衝撃
「お前の告白なんぞ聞きたないっちゅうねん。…はあ?なんや俺んことか。あほう、正真正銘の兄妹じゃボケ」
瞬間、どきりと胸がなった。
会話の内容に私に関係ありそうな言葉がでてきたからだ。
きょうだい。
あにいもうと。
あの人の妹という位置は、今のところ私しかあてはまらない。
「……お前、ほんましょーっもないな。ほんまのアホやな。実の妹つかまえて欲情もクソもあるかい」
私は思わず耳を疑った。
「そらな、確かにな。まあ顔は俺に似て可愛い部類っちゃそうか知らんが。…アホ、言わせ。そや、体もけっこういいセンいっとんで。あれは着やせするタイプっちゅうやつや。真面目そうな顔しとるけど中々やらしいで。……くくっ、しゃーからなんべんも言わすなや。そういうんとはちゃうねん。あくまで、客観的意見の範囲やろうが」
なに?
なに言ってんの?
なんなの、これ。
本当に、「あの」兄がしゃべっているのか。
私のことを?
「あー…そこまでは知らんな。そんなん自分で聞きぃや。…は?その役立たずの兄貴に妹のスリーサイズ聞いとんのはどこのどいつやねん」
その言葉が耳に入った瞬間、私は全身が燃えるように熱くなったのを感じていた。
信じられなかった。
兄は、いつもの兄は、私のことなんて少しも興味を向けていないはずなのに。
それも、これはまったく嬉しくない類の興味だ。
怒りと羞恥、そして計り知れないほどの軽蔑が生まれる。
気持ち悪い。
妹としてでなく、女という視点から私に干渉してくるなんて許しがたいことだった。
「お、アカン。そろそろ時間や。ほんなら、明日な」
通話の終わりを予感させる言葉が耳に入ってきても、私は廊下の壁に張り付いたまま動くことができずにいた。
それほどの衝撃が、私の全身に雷のように打ちつけられていたのだった。
扉の隙間を凝視したままでいると、部屋の中で衣類が擦り合わさった時の、独特の音が響いてきた。着替え始めたらしい。
立ち去ることも自室に隠れることもできないまま、私は足が床に縫いつけられたかのように、そのままの体勢でじっとしていた。
着替え終わった兄が部屋から出てきても、それでも、動くことはできなかった。