勇者召喚!(上)
あー、今日は何があったっけ?
数学と-、英語と-、おお、体育がある! よし! ……げ、古文もあんのかよ。予習してね-。
俺は今日の授業を確認しながら高校までの道のりを歩いていた。
俺が通う高校は自宅から徒歩15分。
いつもは自転車で通ってるんだけど、昨日の夜から今日の朝にかけて降った雪で道路が凍っていて転んだら大変だから今日は徒歩で登校。
体育はバスケだよな! 俺の見せ場!
久しぶりだよな-、最近は体育なかったから体がなまってるよな。
古文は俺の敵だからな……孝典(俺の友達な)とか予習してあるんじゃないか? 見せてもらおう。
大体、理系な俺に古文なんて必要あるのかよ?
そんなことを考え、プリントを見ながら歩いていなかったのがいけなかったのかもしれない。
それまでと全く変わらないペースで左足を前に出した。
地面に着くはずのところが、何も踏みしめた感覚がない。
え、雪で滑ったとかそういうわけじゃないのか!?
そのまま重力に従って左足が落ちたであろう穴に落ちる羽目になった。
「うわあぁぁぁぁぁぁ……」
思わず叫んだ俺の声はご近所迷惑だったかもしれない。
もし聞こえていた人がいたら誰か助けてくれ。
「った!」
そのまま落ちていった先にあったのは自然がいっぱいなところでした。
俺が座っている周りには外国人らしき人達がたくさんいます。
どうやら地下にはたくさんの人が住んでいるようです。
―――――― 登校中に穴に落ちた高校生より。
じゃなくて。
いろいろと疑問だが、何で道に穴があったんだ? っていうか穴に落ちた先に更に空が広がってるんだ? え、この人達誰??
みんな俺に目を向けて……というかじっと見てくる。
中には顔が青くなっている人も見える。
「あの――……」
「ゆ、勇者様だ!」
「勇者様!」
「王様に報告を!」
「……は?」
『ユウシャ』って『勇者』? 俺が? どこのRPG?
尻もちを着いた状態から立ち上がろうとしたら、強烈な眠気に襲われる。
そのまま視界が暗転した……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――帝国の栄えある首都ライシア、皇帝陛下が暮らしている城のとある一室にて――
「『勇者召喚』?」
「そうだ。――この村で行われた。」
そう言って地図上のある村を指したのを私――アルベルティーナがのぞき込む。
帝都の北西、帝都からは普通に行って2日ってところかな。
「陛下から勅命だと言われたのですが、何のことかさっぱりなんですけど……」
数時間前に陛下に呼ばれ「事態を収束してくるように」という命令、いや勅命をうけた。
それに是、と返したのはいいのだが、どんなことが起きていて何を収束してくればいいのかさっぱりわからない。
「詳しい説明はバルタザールから聞いてくれ。」と言われたのでザール殿下のものに来て何をすればいいのか説明を受けることにしたのです。
行くのは私一人。同行者、なし。
「今回勇者召喚が行われたこの村では今の季節に毎年祭りがあるんだ。
今から1000年くらい前の話に則ったものでな……確かなことかはわからないが、
当時世界は魔王に侵略されそうになっていたという話がある。」
「……魔王?」
「ああ、魔王だ。」
うわー、ファンタジーな世界だからもしかしたら……と思ったら魔王は「いた」んですね。
もう滅ぼされちゃってるので「いる」わけではないんだ。
いなくてよかったけど。
世界征服ってなんかありきたりなかんじ。
魔王について私が考えているのを余所に、ザール殿下は更に説明を付け加えてくれる。
この世界の住人で魔王に挑んでいくものは少なからずいたらしいが、倒すことができなかった。
そこで当時の最高とも言える魔術師(その頃からも魔術が使える人がいたらしい)が挑んだのが魔王を倒せるものを召喚すること――勇者召喚だ。
召喚された人は数人の仲間を連れ、無事魔王を倒し、世界は平和に戻った。
話自体はよくありそうなおとぎ話なんだけど、この世界では多くの人が昔にあったことと考えている。
まあ、そうですよね。
実際に魔法が使えて魔物がいる世界だから魔王が居たとしてもおかしくないってことですよね。
今回の私の任務に関わってきている村は何でもその勇者召喚を行った場所で同じ召喚の儀式を毎年行っているらしい。
今まで一回もそれで勇者が召喚されたことがなかったのだが(そりゃあ当時の最高の魔術師が苦労して行ったものを一般人ができちゃったらそれの方が問題だ。)、今回の儀式で人が現れた。
まだ調べている途中だけど、今回の召喚は偶発的な事故。
けれど、「勇者召喚」によって人が現れたことによって「魔王が復活してるのでは」という考えを持った人が出てきてしまった。
「私がやるべきことは『勇者様』を元にいた世界に返すことですか?」
「ああ。幸いなことに召喚が行われてから日が経っていない。
お前の魔術ならなんとかなるだろう?」
「(なんとかなるって……)なんとかしてみます。」
「魔導師アルベルティーナ・ギラルディーニ。今回の事態の収束を一任する。」
「承りました。」