バイクに乗せる相手
大川は駅で降りると、駐車場に向かっていた。
秋の夜は早く、もう暗闇のカーテンが閉まっていた。
早く帰ろうと足早になったのだが、途中で止まる。
ーん? 何だ?
20代前半くらいだろうか。
ロングヘアーの女性が妙な歩き方をしている。
灯りを頼りに見ると、履いているものに問題があるようだった。
ーヒールが折れたのかな?
大川は目を凝らすと、そう結論づける。
秋の風がそうっと流れてきて、髪にさらりと触れていく。
大川はどうしようか迷ったが、女性に声をかけてみる。
「どうしたんだ?」
「!! び、びっくりした」
女性は大川の姿を認め、目を丸くしている。
確かに金髪にジャンパー姿は目立つ以外の何ものでもない。
大川自身は気に入っているのだが、ヤンキー仲間からは王道だから変えろと言われている。
ー俺は俺を貫く。
そう決めていたので、女性が大川に声をかけられて、びびるはずである。
なるべく刺激しないように、大川は柔らかく言う。
「その靴、折れているんだろう? 捨ててしまえ」
「え…。で、でもあの、履くものが…」
「俺がうちまで送ってやる」
ぽろりと口からこぼれていた。
女性は驚いたようだが、大川自身も驚いていた。
ー確かに好みの女だけど。
モデルみたいにオシャレで、顔が整っており、お付き合いになりたくなるのだが、ストレート過ぎたようだ。
ー俺、不器用だからな。仲間にもそう言われているし。
どうもヤンキー仲間からも、古くさいとか、昭和の親父とか、言われるくらい気遣いだった。
大川のせいではなく、家庭環境が複雑で、母親はいるのだが、父親がいなかった。
病死のようで、若い写真で写っている。
シングルマザーの母親を助けるために、バイトしたりしているのだが、それだも明日どうなるか分からなかった。
ーだから困っている人を見ると、助けたくなるんだよな。
もちろん下心もある。
あるのだが、彼女とはゆっくり付き合いたいなと思う。
スマホを取り出し、仲間に遅くなるとLINEすると、女性と向き合う。
「どうする? 俺、バイクなんだけど、後ろに乗れば、送ってやれるんだけと…」
「バイク…。で、てもタクシーを拾おうかと」
「あ、そう。じゃあ失礼」
一気に興味をなくし、行こうとすると、女性が慌てて声をかけてくる。
「あの!! 変なことはしませんか?」
「失礼な。俺は変態じゃない」
はっきり言うと、大川は女性を眺める。
細いウエストに、長い脚。
後ろに乗せたら目立ちそうだなと思いつつ、女性に頼られるのは悪くない。
ー早く俺を選べ。
そう急いでいると、女性が迷った結果、ビールを捨てて、大川に言ってくる。
「その…。良かったら乗せてもらえますか? タクシー代も馬鹿にならないので」
大川は心の中でガッツポーズすると、女性に背中を向ける。
「ほら、背負うから乗って。その足じゃ、歩きづらいだろう?」
「え…あ、あのでも、重かったら…」
「いいから。早く乗れ」
ヤンキーモードが出て、そう言うと、女性は身体をびくっと反応させる。
しまったと思いつつ、大川は優しくカバーする。
「大丈夫。背中に掴まって」
「…失礼します」
女性の身体が大川の背中に預けられる。
立ち上がると、どこが重たいんだというくらい、軽かった。
だから、つい言ってしまう。
「もっと食べろ。軽すぎる」
「え…。そ、そんなことはないんですけど…」
「人の忠告はよく聞くこと。分かったか?」
「は!はい…!!」
女性は肩に掴まるように、接してくる。
大川は軽々と運んでいくと、バイクにたどり着く。
「はい、ヘルメット」
女性をおろし、ヘルメットを渡すと、自分もヘルメットをする、
守らないと警察がうるさいので、守ることは守っていた。
「かぶれたか?」
「何とか。これでいいんでしょうか?」
女性の頭を確認すると、ふわりと甘い香りが漂ってくる。
大川はすん、と鼻を鳴らすと、ますます気に入ったと狙っていく。
「はい、後ろに乗って」
「えっと、どうすれば…?」
「俺の肩に手を置いて。…そう。それでいい」
女性がバイクを跨ぐと、大川はバイクのエンジンをかける。
2人乗りは初めてではないが、女性の身に何かあったら困るので、安全運転で行くことにした。
「行くけどOK?」
「お、OKです…!! お願いします」
そう言うと、バイクが走り出す。
法定速度を守りながら、女性のためにゆっくりと進んで行く。
「うち、どこの近く?」
「ガストの近くなんですけど…。分かりますか? そこで降ろしてもらえれば、いいです」
「ガストの近くね。よし、行くぞ!!」
大川は気合をいれると、颯爽とバイクを飛ばすのだった。




