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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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9 黒騎士


「あぁもう……行きませんと。みなさんに地母神の思し召しがあらんことを」


 イメリアは司祭らしい挨拶をしてから小競り合いの現場へ小走りで駆けつけていく。


 現場のほうでは、すでに若者と兵士複数人がからんだ殴り合いのケンカに発展しているようだった。


「お若いのにたいへんね。おいくつなの?」

「たしかまだ13歳かそこらだったはずだ」

「そんなに? まだ子どもじゃない。助祭どころか見習いの年齢でしょ」

「それほど優秀ってことさ」


 と、アドルが話しはじめる。


 イメリア司祭が赴任してきたのは数か月前。

 なんでも地母神を崇めるフェリニア教団始まって以来の天才とも評される優秀な若手司祭で、本人が希望すればどこへなりとも赴任できたのに、わざわざ辺境を希望してこのロマノ村に来たらしい。


「なんの風の吹き回しであんなエリートがこんなド田舎に来たのか知らんが、気をつけろよ」

「わかってる。あの子目ざとい。私が文字を読めると察して本で釣ってきたわ。偽名にも気づかれたかも……」

「マジか。司祭様はいい人だと思うが、フェリニア教団がこっちの味方になる理由もない。用心に越したことはない」

「うう、村に下りてきたのは迂闊だった……?」

「かもしれんが、たまには息抜きも必要だろ」

「私はもうここには来ないほうがいいかもしれないわね」


 さっきまでイメリアとあんなに楽しそうに会話していたのに、とアッシュは軽くショックを受けた。


 思っていたよりも一家が置かれている状況は危険なのかもしれない。


「それにしても、あんなに細い体でどうやってケンカを止めるのかしら?」

「まあ見てな。身分は司祭だが、すでに実力は高司祭にもヒケをとらないそうだからな」

「13歳で?」

「13歳で」


 イメリアはケンカの現場につくと双方の陣営にやめるように注意したが、いきり立っている酔っぱらいがそんなものを聞くわけがない。


 説得を早々に諦めたイメリアがおもむろに右手を高く上げた。


 すると、不思議なことが起こった。

 たった今まで拳を振り回していた男たちが急におとなしくなったのだ。


 まだ口では罵りあっているが、その声には張りも怒気もなくただの愚痴のような音量だ。

 もう暴力の気配はまったく感じさせない。


「すごい。神聖魔法ね」

「ああ。さすがフェリニア様の司祭。信仰の賜物ってやつだな」


 アドルはフェリニア教を信仰している。

 熱心な信者というわけではないが、豊穣神であるフェリニアを信仰する猟師は多いらしい。


 この辺りは牧畜を営む農民が多いため、広く信仰されているという。


 そのとき、またべつの方向が騒がしくなった。


 おもしろがるようにケンカを取り囲んでいた野次馬の輪がさっと道をあけたかと思えば、他を圧するような見事な体躯の馬に乗った騎士が現れた。


 騎士は重厚な黒い甲冑を身につけている。

 馬に乗っていてもわかるほど背が高く、黒々とした短髪の女。

 またがる屈強な馬も漆黒の馬具を装着している。


 黒一色の人馬がはなつ威圧感に周囲のひとびとが怯えているのが傍目にもわかった。


「あれは?」

「黒騎士メドウズ。ロマノ城の戦闘指揮官だ。危険な女だ。絶対に近づくんじゃないぞ」

「わかったわ」


 黒騎士は馬からおりると、イメリアに冷徹な顔をむけた。


「司祭殿」

「メドウズ卿」


 2人が親しげとは言えない視線を交わす。


「世話を焼いたな」

「お礼には及びません」

「礼など言っていない。無用なことをしたと言っている。兵たちが腑抜けになったらどうしてくれる」


 黒騎士は吐き捨てるように言うと、配下の兵士たちに視線を向けた。


「お前たち、この騒ぎはどういうことか」


 上官から説明を求められた兵士たちは「村娘のほうから誘惑してきた」「それを見た若者が因縁をつけてきた」と主張した。


 当人である村娘が即座に否定するとともに、若者たちも「嘘を言うな!」とまたいきり立った。


 事の始まりから見ていたと思われる周囲の数人も口々に兵士の主張を嘘だと裏付けた。


 見ていたわけではないが、ここまでみんなの話が一致しているならきっと兵士が原因なのだろうとアッシュも思った。


 しかし、黒騎士はそう思わなかったらしい。

 村娘に恐ろしく冷たい声を浴びせる。


「我が兵士を誘惑した。城の守りを弱めるのが狙いか」

「ち、ちがいます!」

「どう違う。その開いた胸元。ふくよかな胸の谷間を見せつけるための扇情的な姿ではないか」


 たしかに村娘はすこし襟元がひらいた服を着ているので扇情的といえばそうだ。

 とはいえ、他の女たちも程度の差はあっても似たような服装だ。

 特別に露出度が高いわけではない。


「さてはザスルア王国のスパイか」


 そう言うなり黒騎士がいきなり村娘を平手打ちにした。


 平手打ちといっても甲冑を着こんだ人物による、金属製の分厚い手甲での強烈な殴打である。

 村娘がもんどりうって倒れた。


 さらなる一打を加えようとでもいうのか、倒れた村娘に歩を進めようとする黒騎士の前に、血相をかえたイメリア司祭が立ちはだかった。


「メドウズ卿! どういうおつもりですか?」

「見ての通りだ。職務として不穏分子を取り調べている。邪魔をしないでもらおう」

「なにが不穏分子ですか! ただの村人です!」

「見解の相違だ。どけ」

「どきません」


 イメリアは小さな体にてこでも動かないという決意を滲ませて長身の女騎士を見上げる。

 黒騎士は冷徹な表情で華奢な司祭を見下ろす。


 にわかに緊張感が高まる。

 にらみ合いはしばらく続いたが、やがて黒騎士が引いた。


「ここは司祭殿の顔を立てるとしよう」

「このことはロマノ城主に抗議します!」

「ふん。好きにするがいい。だが、つぎに騎士の職分を侵すときはその前によく考えるのだな。血の気の荒い者が相手なら聖職者であってもただでは済まないかもしれんぞ」


 脅迫まがいの捨て台詞を残して、黒騎士は配下の兵士を率いて広場から出ていった。


 イメリアが心配そうに村娘の様子を見たが、たいしたケガはしていないようだ。

 興がそがれた野次馬たちも散っていった。


 せっかく祭り初体験だったのに、不快なものを目撃してアッシュはもやもやした。


 その後、一家はグリーズという革職人の店に行き、アドルが持ってきた毛皮1巻きを渡して代金を受け取った。

 それから細々とした生活必需品を調達して家に帰った。




 その晩ベッドに潜りこんだアッシュは昼間のもやもやした気分がまだ抜けきらずなかなか寝付けなかった。

 そこでティーエに憂さ晴らしの相手をしてもらうことにした。


(あの黒騎士って女、ひどいやつだったね)

『そうでしょうか』

(そうでしょうかって……。理由もなく女のひとを殴るなんて横暴でしょ)

『理由はあったのではないでしょうか。すくなくとも部下の信頼は得られましたよ』

(なにそれ。意味がわからないよ)


 どうやらティーエには憂さ晴らしの相手になるつもりがないようなので、布団をかぶっていよいよふて寝した。



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