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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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8 祭り


 アッシュが5歳になったある朝、一家は外出することになった。


 この日は月に1度の地母神フェリニアの祝祭日らしく麓のロマノ村で市場が立つそうだ。


 大勢の農民や商人たちも集まって活況をきたすため、取引も兼ねてその機会に普段は手に入れにくい物を調達するのがアドルの長年の習慣なのだそうだ。


 もっとも今日の場合、家族のお出かけという意味合いもある。


「楽しみねー!」


 サビーヌも村へ下りるのは初めてらしい。

 心なしかうきうきしているようだ。


 一家は山道を下りていく。


 用心のためか、アドルは弓矢を携行している。

 もっとも、その警戒対象が野生動物や魔物なのかどうかは怪しいところだったが……。


 アッシュもわくわくしていた。

 まだ赤子の頃に断崖からチラっと見て以来、ずっと麓の村に行ってみたかったのだ。


 祝祭の市場、というのは要するに祭りのことだろう。

 祭りなんてこの世界で初めてだし、そもそも地球で暮らしていたときにも行ったことがない。


 病院の窓から花火や縁日の賑わいを眺めて憧れていただけだ。




 山の麓まで下りていくと、街道があった。

 街道は2つに分かれ、1つは村に、もう1つは遠くに見える城につながっている。


 村につくと中心の広場にさまざまな屋台や露店が所狭しと並び、祭りを楽しむ大勢の人の活気に満ちていた。


 ほとんどは農民や村人、商人。

 だが、明らかに異質な集団も混じっている。


 平服だが腰に剣を帯び、肩で風を切って農民たちを押しのけるように道のまんなかを練り歩いていく。


「武装してるわね」

「ロマノ城に駐屯してる兵士だ。あいつら祭りにはよく顔を出す。酔って騒ぐタチの悪い連中さ。あまりお近づきにはなりたくないね」


 アッシュが屋台の食べ物を欲しがると、アドルが買ってくれた。


「露店の食べ物なんて不潔よ」


 とサビーヌが猟師の妻らしからぬことを言って頬をふくらませたが、おかげで祭りでの買い食いを経験できた。


 そんなふうに祭りを過ごしていたとき、一家はある人物に声をかけられた。


「こんにちは、アドルさん」


 礼儀正しく挨拶してきたのは、白を基調とした清楚な服を着た黒髪の女性だった。


 墨のように鮮烈な黒髪は肩のあたりで切り揃えられ、顔にはまだ少女のあどけなさが残っている。

 手足もほっそりとしていて、女性というより可憐な少女という印象だ。


「イメリア司祭どうも。見回りですかい? 毎度大変ですね」

「いえいえ。祝祭の運営もわたくしの大切な務めなのです」

「司祭様はそう言いますがね、祭りにかこつけて酔っぱらってハメはずす連中のお守りはあなたの仕事じゃないでしょうよ」


 顔見知りらしいアドルがくだけた調子で返すと、イメリアは苦笑した。

 どうやら祭りで酔っぱらった輩が騒ぎを起こすのはどの世界にも共通の問題らしい。


「フェリニアは豊穣の糧を楽しむことを否定されておりません。まあ、その、限度はありますけれど……」


 言いづらそうに言葉を濁したイメリアはサビーヌに向き直り、膨らみかけの胸にそっと手を当てる。


「初めまして奥方様。この村の司祭を務めるイメリアと申します。どうかお見知りおきを」


 年齢に似つかわしくない堂に入った自己紹介に、サビーヌも片足を引いて上品なお辞儀を返した。


「ようやくお会いできましたね。ええと」

「サビーヌです。司祭様」

「サビーヌさん。ずっとお目にかかりたかったのですけれど、なかなか会わせてくれなかったのです。まったくもう。こんなにお美しい方を山奥に隠しておられたなんて、どういうつもりですかアドルさん?」


 笑顔のイメリア司祭は冗談かお世辞のつもりだったのだろうが、アドルはなんとも返答しがたいといった微妙な顔で頭を掻いた。


 実際に隠していたのだから答えようがないのだろう。


「ここの暮らしはいかがですか? 不自由はありませんか?」

「ないと言えば噓になりますけど、この子といられて今は幸せです」


 サビーヌがアッシュを視線で示すと、イメリアは興味津々といった感じで目をぱちぱちさせた。


「まあとっても利発そうなお子様! それにとってもかわいらしいのです!」

「わかってくれます司祭様!? うちの子超絶かわいいんです!」


 自分の容姿が褒められてもさして嬉しそうにしなかったサビーヌが心底から嬉しそうに反応した。


 アッシュはなんだか背中がむずむずするような居心地の悪さを感じた。


「よろしければ今度神殿にいらしてくださいのです。といっても、お茶と書物くらいしかおもてなしできませんが」

「本が、あるんですか?」

「ええ。村の子どもたちに読み書きを教えていますのでその教材に使うのです。その、個人的な趣味で集めているものもありますけれど……」


 イメリアはどこか恥ずかしそうに言った。


「不自由というか、ここの暮らしがどうって言うのではないですけど、たしかに最近文字に飢えてるんです。でも私あんまり堅苦しい本は苦手で……」

「娯楽小説もあるのです。フェリニアは娯楽を否定されておりませんので」

「えっ、ほんとですか。それはお言葉に甘えたくなっちゃいますね」


 女同士の会話にいよいよ本格的な花が咲きそうな気配があったが、しばらくしたら広場のほうが騒がしくなった。


 酔っぱらい同士が揉めはじめたらしい。

 揉めているのは、さっきの兵士たちと村の若者たちだ。


 どうやら兵士の1人が村の娘に性的なちょっかいをかけて、それを若者が咎めたことが発端のようだ。



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