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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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7 AIの本領発揮


『わたしたちは文字を知る必要があります』


 ある日、ティーエが言い出した。


『とにかく情報が必要です。できるだけ多くの文書に触れましょう』


 さっそく家探ししてみると、本が1冊だけ見つかった。

 裕福とはいえない家に1冊でもあっただけ幸運だろう。


 茶色い革張りのカバーがついた重厚な本。

 表紙にはなにかの植物の葉っぱが描かれている。


 黄ばんだページをパラパラとめくってみると、やはり草や花のイラストと文章で構成されている。


 見たこともない文字列が並んでいるのでなにが書いてあるかはわからないが、この構成ならきっと植物辞典かなにかだろうとアッシュは思った。


『1ページずつめくってください』

(読めるの?)

『まったく読めません。地球の言語ではありませんから』


 それならなんの意味があるのだろうと思いながらもページをめくっていく。


(そうだ。文字を知りたいなら母さんに教えてもらえばいいんじゃない?)


 いくら優れたAIとはいっても、異世界の知らない文字を読めるわけではないだろうし。


 ここに植物辞典らしきものがある以上、両親のどちらかは文字が読めるはずだ。

 生粋の狩人の父よりも、幼少のころニルフェンに魔法を教わっていたサビーヌのほうが可能性が高い。


 しかし、ティーエの返答はアッシュの想像をはるかに超えてきた。


『その必要はありません。解読がほぼ完了しました』


 耳を疑った。


(嘘でしょ?)

『事実です。ただ今より翻訳を実行します』


 嘘ではなかった。


 たった1秒前まで意味不明な文字の羅列に見えていた文章が慣れ親しんだものかのように読めるようになったのである。


(すごい……。けど、どうやって?)

『通常の言語学とおなじ解読手順です。地球の植物に酷似したイラストがいくつかあったので、その文面を類推し、単語の意味を仮定しました。複数回出現する単語を照合して特定すれば、あとは地滑り的に処理していくだけです。残念ながらまだいくつかわからない単語はありますが』

(すごい……)


 本に目を戻してみると、たしかに翻訳されずに謎の文字のまま表示されている単語があるが、せいぜい1ページに1つあるかないかだ。


『この書物が植物辞典だったのはラッキーでした。辞典は文章や表現がパターン化されていますし単語も普遍的な意味で用いられます。作者の気分で単語の意味が変わる小説などだった場合、もっと解読に手間がかかったことでしょう。さあ、引き続き最後までめくってください。すべて記憶してしまいたいですから』


 本当にすごい、とアッシュはページをめくりつつ心の底から感心した。




 翌朝、アッシュは出かけた。

 最近はよく外に出る。


 家から離れすぎないことを条件に、出歩くことをサビーヌが許可してくれたのだ。


 山奥での隠れ住むような生活ももう3年目。

 そろそろ警戒を緩めてもいいと思ったのだろう。


 とはいえ両親が身を隠している理由も、なにから逃げているのかもいまだにわからない。

 何度聞いても教えてくれないのだ。


「いつかあなたにもわかる時が来るわ……」


 などと思わせぶりにはぐらかされてしまう。

 ともかくアッシュは憚ることなく堂々と出歩けるようになった。


 朝食を済ませると、いつものように山の静かな泉に出かけていって魔法の訓練や筋トレの日課をこなした。


 ここは人気がなく静かで、切り立った崖があるから魔法でなにかをぶつけたりする練習にぴったりなのだ。


 汗だくになっても泉に飛びこめば汗を流せるし、水泳の練習にもなる。


 最近ではとくに走ることを重点的に鍛えていた。

 ティーエの指導のもと、インターバル走というトレーニングを取り入れた。


 短距離を全力でダッシュしたあと数十秒の休憩時間をおいてまた全力でダッシュ。

 これを繰り返すトレーニング方法だ。


 瞬発力と持久力を同時に鍛えられる効果的なトレーニングらしいのだが、これはかなり苛酷だった。

 筋肉と心肺が悲鳴をあげるほどきつい。


 そんなときにイメージするのは、青々としたピッチを駆け抜ける純白のユニフォームの7番。

 憧れのクリロナになったつもりで走ると、きついトレーニングがたちまち楽しくなってくる。


 遊びとトレーニングを兼ねた日課をたっぷり2時間ほど行ったあと、いつもなら家に帰って洗濯や薪割りなどの家事を手伝う。


 だが、この日はティーエのリクエストで植物採取に出かけることになった。


 昨日解読した植物辞典で気になる植物を見つけたらしい。


『育筋草という優れた野草があります』


 【育筋草】とは読んで字のごとく、筋肉の増強に適した野草らしい。

 タンパク質が豊富なのだろうか。


 タンパク質豊富な植物というのは元の世界基準ではあまり思いつかなかったが、肉体の成長に役立つならなんでも歓迎だ。


 森の中をしばらく歩くと、広けた場所についた。


 木々のあいだに紫色の絨毯が敷き詰められている。

 これが育筋草らしい。

 ドクダミのような見た目だが、全体的に毒々しい紫がかった色をしている。


「なんか、ちょっと毒っぽいね……」

『栄養豊富な食材というのは得てしてそういうものです。これを毎食食べればクリロナの完璧な肉体美に一歩ずつ近づけますよ』


 アッシュは張り切って、持ってきた袋いっぱいに採取した。




 家に帰ると昼前だった。

 誰もいなかった。


『とりあえず一口いってみましょう。ただし飲み込まずに吐き出してください』


 言われたとおり、摘んできたばかりの育筋草を一口齧ってみた。


 青臭い苦味が口のなかに広がる。

 なんだか舌もぴりぴりする。

 言われたとおり破片と汁は吐き出した。


 しばらく待った。


『異常はありませんが、生食には適しませんね』

「わかるの?」

『はい。匂いと味でだいたいは。無味無臭の毒もあるので油断はできませんが』


 生食不可となると、調理する必要がある。


 調味料などという気のきいたものはないが、猟師の家なので動物脂は大量に貯蔵してある。


 鹿や野兎を解体したときに食べなかった肉や毛皮は売るが、脂は保存しておいて料理や燃料に使うのだ。


 かまどでくすぶっていた残り火に燃料を追加して火を再点火した。


 鍋を火にかけて、鍋肌が温まってきたのを確認してから脂をいれて熱する。


 しばらくすると脂がどろっと溶けだして透明な油になってくる。


「アク抜きしなくていいの?」

『そのアクに重要な栄養成分が含まれていたら食べる意味がなくなってしまいますから』


 じゅうぶんに油が熱くなったら、刻んだ育筋草を投入。

 あとは木べらで混ぜながら炒めて塩をふれば野菜炒めの完成だ。


「うん、まずい!」

 

 野草を塩で味付けして炒めただけなので当然だが、これで強い肉体が得られるならとアッシュはむしろ嬉々として食べた。


 こうして育筋草を毎日食べるのが習慣になった。




 結局、クリロナのようなムキムキな肉体にはならなかった。

 なぜなら、後々判明することだが、この植物は【育筋草】などではないからだ。



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