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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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6 体を鍛えます


 ニルフェンが帰った翌日。


 動きやすい服装のサビーヌがアッシュを寝床のカゴごと庭に連れ出した。


「ここでおとなしくしていてね」


 薪割り場の切り株にカゴを置いてなにをするかといえば、藁を束ねたカカシを的に見立てて火の玉を放ったのだ。


 火の玉は外れた。

 魔法の訓練らしい。


 他にも激しく動き回りながら体の周囲にすばやく光る壁を出現させたりしている。

 攻撃魔法と防御魔法だろうか。


 いつも家事では頼りないところがあるサビーヌだが、魔法の訓練ではやけに動きがいい。


 魔法の腕前はわからないものの、単純に体のキレがある。

 熟練のボクサーのシャドーボクシングのように澱みない動きだ。


「ふう。こんなものかしら」


 小一時間ほど熱のこもった訓練をした後、サビーヌは薪割りをしてから家に戻った。


 その翌日もサビーヌは魔法の訓練をした。


 だが、時間は30分ほどに短縮された。


 その翌日にはさらに時間が短くなり、10分ほどで切り上げられた。

 そして4日目にはついに0分に。


 典型的な3日坊主である。




 それから数日後。


『マスター、わたしたちも魔法の訓練をしましょう』


 ティーエが突然提案した。


 わたしたちも、といってもすでにサビーヌは訓練をやめてしまっている。


 最初は母が飽き性なだけと思っていたが、よく考えてみたら、子育てに家事にとサビーヌには自由な時間がほとんどないのだ。


 洗濯1つとっても、近くの川まで洗濯カゴを持って歩いていき、ごしごしと1着ずつ手洗いしている。


 脱水機などないので水気を絞るのも手作業だ。

 一家3人の汚れ物は数が多くないとはいえ、とにかく時間がかかる。


 他にも掃除、水汲み、薪割り、草むしり、炊事、すべてが手作業だ。


 これではいくら時間があっても足りない。

 魔法の練習なんてやってる暇がないのも仕方がない。


 早く家事を手伝えるようにならなきゃ、と思っていたところに魔法の訓練をしようと提案されたので、アッシュはあまり気乗りしなかった。


 自分だけ遊ぶようでちょっとだけ母に悪い気がしたのだ。


(けど、魔力が人生で使い切りかもって話はいいの?)

『枯渇のリスクは限りなく低くなりました。ニルフェンがサビーヌにもっと魔法を使って上達するようにと促したおかげです』

(そういえばそんなこと言ってたっけ)


 サビーヌが急に魔法を訓練したのは、ニルフェンに発破をかけられたからだろう。

 2人はサビーヌが子どもの頃からの長い付き合いらしい。

 きっとその頃からニルフェンは魔法の先生だったのだ。


 ライザという人の墓参りをしたこともきっかけかもしれない。

 あれで自分が置かれた境遇をあらためて思いだしたのだろうか。

 忙しくてやめてしまったのだが。


(まあニルフェンがもっと使えって言うなら平気だろうね)

『なぜそう言い切れるのですか?』


 話を合わせたつもりなのに逆質問された。

 てきとうに言ったと答えるわけにもいかず、なんとか根拠をひねりだす。


(だってエルフだし。長生きだから、もし枯渇するならそういう人間を見てきたはずでしょ)

『マスター。そのような憶測で重大な決断を下すことは危険ですよ。人は乏しい経験を絶対視しがちですし、バイアス効果で無意識に嘘もつきます』

(なら、どうすればいいのさ)

『とりあえずやってみましょう。訓練してみて危険ならすぐに止めます』


 やれと言ったりやめろと言ったり、なんなんだよと思わないでもないが、気乗りしないだけで拒むほどの理由もない。


 ティーエがやれというならやるだけだ。

 そんなわけでアッシュはそよ風の魔法を練習するようになった。




 とはいえ、いつでも好きなように、というわけにはいかない。


 なにしろ家の中で魔法を使うといろいろな物を吹き飛ばしてしまう。


 両親の目を盗んで外に抜けだすのだが、家の周囲は木に囲まれているから水平方向に放つわけにもいかない。


 森を痛めてしまうのは気が引けるし、木々を揺らせば音がうるさくてすぐに気づかれてしまうだろう。


 解決策として、空に向けて真上に放つことにした。


 これならどこにも被害を与えないので思う存分練習できる。


 本当にちゃんと使えているのかわかりづらいのが難点だったが、それは体が教えてくれた。


 始めてすぐにわかった。

 魔法を使いすぎると体がだるくなる。


 筋肉や心肺の疲労とは違う、神経や精神の疲れのせいか、意思と体が連動しなくなってくるのだ。


 手を伸ばそうと思ってもいつもより動作の開始が遅れる。

 このズレはとても気持ち悪かった。


 極端に魔力を消耗すると最終的にはズレるのではなく、思った通りに動かなくなることが容易に想像できた。




 ティーエからの指示は魔法の訓練だけではなかった。


『クリロナになりたいならフィジカルトレーニングを開始してください』


 アッシュはあまり幼いうちから筋トレをするのはよくないと聞いたことがあったので、すこし早くないだろうかと懸念した。

 しかし。


『古代科学の迷信にすぎません』


 と一蹴された。


 具体的にはどんなトレーニングかというと、腕立て伏せ、腹筋、スクワットだった。


 普通だ。

 ものすごく普通だ。

 未来的で画期的な要素がぜんぜんない。


『いいですかマスター。普通、というのはすごいことなのです。これらはどれも最初は限られた地域でのみ行われていた画期的なものでしたが、効果が実証されたからこそ世界中に広がり、普遍的にまでなったのです。人類が普通に行っていることの多くは、かつては画期的な発明だったのですよ』


 ものすごい早口で説き伏せられた。


『クリロナならとっくにトレーニングを始めているはずです』


 そこまで言われたらやらないわけにはいかない。

 ティーエの言うことはいつも正しい。

 アッシュは言われたとおり筋トレをはじめた。




 最初は腕立て伏せ1回もうまくできなかった。

 だが、3歳になる頃にはすっかり日課としてこなせるようになっていた。


 日常的に行うようになったので、気が緩んでいたのかもしれない。


「おまえ、なにしてるんだ?」


 気がつくと、アドルが未知の生物でも見るかのような目で見ていた。

 狩りから帰ってきたことに気づかなかったのである。


「……筋トレ」


 独特すぎる腕立て伏せのポーズで言い逃れをしてもしょうがない、と正直に答えた。


「なんだ筋トレか。そんな姿勢だから俺はてっきり……早熟っていわれた俺んときでも10歳かそこらだったし、さすがにか……」


 などとアドルはよくわからないことをぶつくさ言っていたが、騒ぎにするようなこともなかった。



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