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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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「でやっ!」


 気合いとともにディルが木剣を鋭く突きだす。


 大柄な少年がその突きを木盾で受けたが、鋭さにおされてよろめいた。


 たたみかけるには絶好のチャンスなのに、どういうわけかディルは攻撃権を行使せず、なにもしなかった。


 これでもう3度目だ。

 ディルは本気でやらずに遊んでいるのだ。


 今の一撃も少年が盾で防いだというより、ディルがわざと盾を叩いたといったほうがいい。


 これは練習試合という名目だが、2人に実力差がありすぎて練習相手にすらなっていない。


「やりかえせよマルサス! やられっぱなしじゃ黒騎士の小姓はつとまらねえぞ!」


 見物していた兵士から野次がとぶ。


 発破をかけられたマルサスという少年が木盾と木剣を構えなおした。


 年齢はディルとおなじくらいで、年のわりに立派な体格をしているのだが、顔には怯えの色がある。


 彼我の実力差をすでに察しているのだろう。


「ふん」


 ディルはつまらなそうに鼻息をもらした。




 10分ほど前。

 黒騎士一行が突然アッシュの家を訪れた。


 黒騎士ことメドウズ卿は兵士を2人と6、7歳くらいの少年を1人引き連れていた。


 硬い表情のサビーヌが、ディルとアッシュを背中に隠すように歩みでる。


「メドウズ卿」


 サビーヌは礼式をわきまえない村人がよくやるような、雑な礼をした。

 黒騎士が微笑みすらみせずに短くうなずく。


「このような山奥になんのご用でしょうか、主人はいま猟にでていて留守なのですが」

「おまえに用があってきたのだ、サビーヌ。いや、サビニアス・マーシア」


 サビーヌがぴくりと反応した。


「なんのことでしょうか」

「とぼけるな。すでに西方から情報を得ているのだ。長身、栗色の豊かな髪におなじ色の目の美人。左目の下に泣きぼくろ。これはおまえのことであろう」

「そんな女はいくらでもいます。マーシア? なんのことかわかりません」

「あくまでシラを切るというのだな」


 黒騎士はふんと鼻を鳴らした。


「いいだろう。ならばマーシアについて聞かせてやろう」


 西方のマーシアはフラゴニア王国の領域内にありながら王国領ではない。

 かつて数度にわたる王国の侵攻をはねのけて独立を保ちつづけた自治領だ。


 黒騎士は教え聞かせるようにそう語った。


 アッシュは黒騎士の意図が読めずに困惑した。

 横のディルも「なんのことだかさっぱり」という顔をしている。


 森と山しかなく人口も少ない少領がなぜ王国の軍勢を退けることができたのか。

 それは領地を支配するマーシア家の武力のおかげだ。


「とはいえ兵数に恵まれていたわけではない。個人の武力のおかげだ。マーシア家の一族は生まれながらにして魔法を使える魔法族なのだ」


 アッシュはどきりとした。


 黒騎士はすべて知っているらしい。

 横目でうかがっても、サビーヌに慌てている様子はない。


「そのマーシア家に『閃光』の異名を冠する剣の達人がいたという。サビニアス・マーシア。数年前から行方不明になっているが、いまわたしの目の前にいる」

「人違いで――」


 サビーヌが否定の言葉を発している途中のことだった。


 突然、黒騎士の全身から立ちのぼる魔力に異変が起こった。


 獰猛な獣のように変化して牙をむき、いまにもこの場の肉袋を残らず食いつくさんばかりの殺気を発散させたのである。


 その変化はほんの一瞬に過ぎなかった。

 ほとんどの者は気づきもしなかったのか、なんの反応もしなかった。


 だが、アッシュは思わず反応して木剣を構えていた。

 サビーヌも同じだった。


 黒騎士が片頬だけをつりあげて愉快そうにうすら笑いをうかべる。


「いくらでもいる、か。我が剣気に反応できる女などそうはいまい」

「……!」

「無論、子どももな。たしかアッシュといったな」


 黒騎士がこれみよがしにアッシュを見ると、サビーヌがあきらめたように長く息を吐いた。


「かりに私がそのマーシアの者だとして、なんのご用です?」


 黒騎士はサビーヌの質問には答えず、周囲を確認するように頭をめぐらせる。


「ここは剣術の鍛錬場だな」


 庭には、藁を巻きつけた打ちこみ用の丸太や人の形を模した木人人形、木剣を何本も立てかけた棚がある。

 剣術の鍛錬場以外のなにものにも見えない。


「その子どもらが弟子か。せっかく剣を嗜む者たちが集ったのだ。剣術の交流会でもしようではないか」

「おもしろい! やろうぜ!」


 ディルが嬉々としてはしゃいだ声をだす。


「わけわかんない話をいつまで続けるのかと思った。オレがやるぜ、そっちは?」

「ディリリアやめなさい」

「いいじゃん師匠。ただの練習試合だよ」

「いい返事だ。剣士はそうでなくてはな」


 黒騎士が満足そうにうなずいた。


「ちょうどここに先月から預かっている小姓がいる。マルサス、前へ!」


 後ろにいた大柄な少年がのしのしと自信たっぷりの様子で前にでた。




 こうしてなし崩し的にはじまった練習試合だったが、すぐにディルとマルサスの実力差が出てしまったのである。


 もう1年以上サビーヌに稽古をつけられているディルに比べて、マルサスは体格こそいいものの、ろくに鍛錬したことがなさそうに見える。


 おそらく剣を握ったのも昨日今日というところだろう。

 完全に手合い違いだ。


 まだ剣と盾を構えてはいるが、自ら打ちこもうとしない小姓に黒騎士が声をかける。


「マルサス。もうやめるか」

「いえ! まだやれます!」


 マルサスがおのれを鼓舞するように、奇声に近い大声を出して突進する。


 ディルは芸のない直線的な突進をひょいとかわし足を引っかけると、転んだマルサスの頭に木剣を突きつけた。


「はい終わり。おまえ弱すぎ」


 怯えているのか、マルサスはぶるぶると震え、悲壮感を漂わせている。


 立ち上がろうともしない相手に興味を失ったディルが黒騎士に挑戦的な目をむけた。


「弟子を倒したんだから師匠のあんたが相手してくれるんだよな、黒騎士さん」

「ディリリアやめなさい!」


 サビーヌの鋭い叱責の声に、アッシュもまずいと思った。

 黒騎士はかすかに笑みをうかべている。


「いいだろう。じきじきに稽古をつけてやろう」


 黒騎士はさっきマルサスが落とした木剣を拾いあげる。


 ディルがふたたび構えをとった。

 こんどはマルサスを相手にしたときと違って本気の顔をしている。


 本当ならディルを止めるべきなのだろう。

 相手は大人だし、しかもあの黒騎士だ。


 だけど、自分より上達しているディルが大人の剣士相手にどこまで通用するか見てみたいという気持ちがアッシュのなかにあった。


 それに、これはあくまで木剣での練習試合だ。

 黒騎士も無茶はしないだろう。


「盾をつかえ」

「へっ、いらねえよ!」


 ディルは突っぱねたが、強がっているわけではない。

 そもそも盾の使い方を知らないのだ。


 サビーヌの教えてくれる剣術に盾の想定はない。

 防御するな。

 敵の攻撃をすべてよけるか、そうでないなら「やられる前にやれ」という流儀なのだ。


 実際、ここに盾の用意はない。

 木盾は黒騎士たちが持参したものだ。


「ケガをさせたと騒がれては困るのでな。マルサス。おまえのを貸してやれ」


 主の命令に従ったマルサスがすたすたとディルに近づいていく。


 左手に持った盾に右手が隠れているので妙だな、とアッシュが思ったとき、突然ティーエが早口で語りかけてきた。


『マスター。マルサスは右手で刺そうとしています。確率は99%です』


 不可解な言葉の意味をアッシュが咀嚼している最中に、なにかが鈍く光った。


 ナイフだった。



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