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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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30


 麗らかな春を迎えたロマノ城の自室で、守備隊指揮官のメリサンディ・メドウズは小姓の助けを借りて漆黒の鎧を身につけていた。


「フランク、入ります」


 暖かな春風をとりいれるためにドアが開けはなたれているので、来訪者が部屋の外でノックのかわりに一声かけた。


 メドウズが「ああ」と応じると、副官のフランクが入ってきて目礼する。


「例の件、ご指示どおりに手配しておきました」


 例の件とは、城の兵士と鍛冶職人家族のあいだに起こったトラブルのことだ。


 兵士と職人の妻君が一夜をともにして、そのことが亭主に知れたのである。


 激怒した職人は、しかるべき処置を求めて城主に訴えでた。

 めんどうくさがった城主は「兵士の監督は貴様の職分だ」とメドウズに丸投げしてきたのだ。


 本来、判事ごとは城主の職分であるにもかかわらず。


 メドウズは、不穏な気配をみせていたザスルアをおさえるための戦力増強要員として中央から派遣され、守備隊長として一時的に兵士の訓練と統率を任されたにすぎない。


 それに、不祥事をおこした兵士も自分がつれてきたわけではなく、もともとこの城にいた城主の郎党だ。


 そう冷静に告げたメドウズへ、イラだった城主は怒声とともになみなみとエールのつがれたコップを投げてきた。


「監督者たる貴様の力量がたりぬゆえ、こんな問題をおこすのだ!」


 麦臭いエールで白蝋のような顔を濡らされたメドウズは迷った。


 殺すかどうかではない。

 どう殺すか、をだ。




 メドウズは人格破綻者である。

 道徳心も倫理観もまったく持ちあわせていない。

 ふつうの人間にありがちな「善の側でありたい」という心情を感じたことすらない。


 単純に、自分が善悪のどちらにカテゴライズされるかということに興味がないのだ。


 興味があるのは自分の欲望と衝動のみである。


 とくに好きなことは、立場が強いときに強い態度で他人に舐めたまねをするやつをいたぶってその顔を絶望に染めることと、死んだあとに尊厳を汚すことだ。


 昔、とある晩餐会のパーティで下級貴族出身の彼女を笑いものにした色狂いで有名な大貴族が、しばらくのち不審死をとげた。


 その胃からは消化の進んだ自らの性器が発見された。


 生きたままイチモツを切られ、それを食わされ、そのあとしばらく生かされていたということだ。


 明らかに猟奇殺人だったが、遺族が真相究明を望まなかったため、捜査は早々に打ちきられた。


 なぜそんなことになったかといえば、故人が身分の高さをかさにきて、そこらじゅうの娘を犯しまわっていたという噂がたったからだ。


 被害者の数は100をくだらないとされ、そのほとんどが年端もいかぬ平民の娘だったことに世間は驚愕した。


 抵抗すらできず、どれほどひどい乱暴をされたか涙ながらに訴えでる清楚な娘が現れ、平民たちは「こんなやつ殺されて当然だ!」と憤慨した。


 遺族は恐れた。

 もし本格的に捜査が進めばそのことが証明され、その悪行を放置した悪の一族と誹りをうけることを。


 そんなことになればよくて没落、お家断絶につながりかねない。

 だから、捜査の打ちきりを申しでたのだ。


 だが真実は違う。


 たしかに故人は色狂いだったが、娼婦を買っていただけだ。

 悪評を決定的なものにした、乱暴されたと涙ながらに証言した女も、事件が収束するや煙のように消え失せた。


 貴族を惨殺して情報を操作したのは、言うまでもなくメドウズだし、それを知る生者もメドウズだけだ。

 

 メドウズは人格破綻者だが、やみくもに剣をふりまわす猪武者でも狂人でもない。


 人々がなにを善とみなし、悪とみなすか、そしてそのくだらない価値基準にどれほど左右されるか理解している。


 後年、帝国との戦争が勃発したとき、個の武力も指揮能力も高いメドウズは重要な戦力として中央に呼び戻される。


 それに前後して、ロマノ城主は不名誉で不可解な死をとげる。

 死因は、何年も前に癇癪を起こしてたった1杯のエールを投げつけ、間違った相手を侮辱したことだった。

 それを知る者はいない。




 フランクが口をひらく。


「当該兵士には非を認め、鍛冶師に直接謝罪して賠償金を支払うように、と申しつけました」


 聞き取り調査の結果、妻との性交は同意の上だったという兵士の言い分が正しかった。


 だが、鍛冶職人にヘソを曲げられて仕事に手抜きされれば城の防衛に支障が出かねないため、メドウズがそのように差配したのだ。


 同意があろうとなかろうと不倫には違いないし、いち兵士ごときと貴重な鍛冶職人とでは価値が違う。


 兵士にはわりを食ってもらう形になったが、そのかわり、賠償金を実際に払うのはメドウズである。

 それだけではなく、問題の兵士に小遣いまでくれてやった。


「女漁りは村でやれ、と伝えました。よろしいですか?」

「ああ。ご苦労」


 城内の女にさえ手を出さなければ、そして殺しさえしなければ、城外で兵士がどこの女になにをして性欲を発散させようがメドウズの知ったことではない。


「それから、いくつか手紙が届いております。珍しいことに西方からのものもあります」

「なに?」


 それまで生返事をしていたメドウズが反応を示し、はじめてフランクを見た。

 副官の手には手紙の束が握られている。


 それをひったくるように受け取ると、他のものはすべて机の上に投げだし、目的の手紙の封蝋をナイフで切った。

 文面にざっと目を通す。


「やはりマーシアだったか」


 白蝋のような顔にかすかに笑みのようなものが浮かぶ。

 冷徹な上官が笑うことなどめったにないことなので、フランクが驚きに目をみはる。


「おもしろくなってきた」


 ロマノ城に赴任してすぐにメドウズは、侵攻してきたザスルアの威力偵察部隊を全滅させた。


 そして死骸を串刺しにして国境沿いに晒した。


 紛争を激化させて戦争に発展させるための挑発のつもりだったのだが、たった1度の全滅でザスルアの腰抜けどもは震えあがって反撃の意思が萎えたらしい。


 以来、何年も本格的な戦闘は起こっていない。


 去年、自分が王都に呼び出された留守中にようやくその気になった敵が復讐戦を計画してくれたのだが、それをよりによって猟師の一家ごときに潰されてしまった。


 これではなんのためにわざわざ村娘をスパイとしてしたてあげたのかわかったものではない。


 あのときは落胆のあまりしばらく荒れたものだ。

 メドウズは敵対者には搦め手もつかうが、本質的に求めているのは血湧き肉躍る闘争なのだから。


 だが、どうやらその一家が罪滅ぼししてくれそうだ。


「ふっ。『閃光』とは、そそる異名ではないか」


 ザスルアの弱兵どもよりはよほど楽しめそうな相手だ。

 メドウズは、こんどははっきりと口の端を歪めた。




 朝、稽古が始まる時間になってもディルが山に姿を見せなかったので、アッシュとサビーヌは首をひねった。


 いつもなら、まだ2人が洗濯や掃除といった家事をこなしているうちから現れて、1人で先に稽古を始めているのに。


 最近ではアッシュが魔法で手伝うようになったおかげで、サビーヌが家事に拘束される時間はずいぶん減った。


 前は洗濯物を川の水で一着ずつ手洗いしていた。

 やたらと時間がかかるし、冬には冷たい水で手も荒れた。


 しかし、いまでは【水をぐるぐるする魔法】で渦巻きのように回転させた川の水にまとめて洗濯物を放りこむだけであっという間に終わる。

 天然の洗濯機である。


 乾かすときも天候に左右されていたのが、【服を乾燥させる魔法】で瞬時に水分を飛ばせる。


 他にも【火加減を調節する魔法】で炊事が、【木を角材に加工する魔法】で薪割りが格段に楽になった。


 魔法の威力を抑えるのが苦手だったアッシュも、ニルフェンからもらった【いい感じに魔法を調節する指輪】のおかげで適切にコントロールできている。


「魔法がこんなに便利なんて、私のときはニルフェン言ってなかった」


 サビーヌが頬をふくらませたが、先生の授業をろくに聞いていなかっただけだとアッシュはすでに知っている。


 そんなわけで朝食のあと1時間もあれば家事はあらかた終わってしまうのだが、その短い時間ですら待ちきれないとうずうずしているのがいつものディルなのだ。


 そのディルが時間になっても姿を現さない。


 脳裏に去年のザスルア先遣隊騒動のことがよぎり、なにかよくないことがあったのではないかとアッシュが思いはじめた頃、ようやくディルがやってきた。


 どういうわけか息せき切って走っている。


 あわててはいるが、誰かに追われているという表情でもない。


「遅刻よ、ディリリア。打ちこみ千本追加ね」


 師匠から無慈悲な懲罰を申しわたされても、ディルはそんなことどうでもいいとばかりに呼吸も整わないうちに話しだした。


「朝、村に城の連中がきてさ、馬を預けてたんだ。ちょっと気になったから様子を見てたんだよ。そしたら、あいつら山のほうに向かっていってさ」

「山って、ここ?」

「ここ以外どこに山があるんだよ! そんでさ、まさかと思ったけどやっぱ山道に入っていったから、森のなかを走って追い越してきたんだ。もうすぐ来るぜ、あいつが!」

「あいつって?」

「黒騎士に決まってんだろ!」


 黒騎士がこんな山奥になにをしにくるんだろう? とアッシュは純粋に疑問に思った。


 狩りを楽しむのなら、ずぶの素人でも楽に移動できる狭い森林が城の近くにあるのに。

 サビーヌを見るといつになく硬い表情をしている。


「アッシュ、ディリリア。家に入りなさい」

「えーなんでだよ師匠」

「いいから入りなさい」


 有無を言わせぬ口調でサビーヌが弟子たちに命じたちょうどそのとき、山道の奥から黒く不吉なオーラをまとう人物が姿を現した。



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