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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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 夏と秋のあいだ、アッシュは野外でニルフェンから魔法の実践的な訓練を叩きこまれた。

 冬の訪れとともに寒さが厳しくなると、座学での授業が多くなっていった。


 その内容はじつに多岐にわたる。


 魔法の種類、用途、対処法。

 そういう実用的な知識もあれば、体系的な魔法学から、はては魔法史というあまり実用性がなさそうなにものまで及んだ。


 アッシュ自身は魔法史のような学問的すぎることにあまり興味をもてなかったが、ティーエはいたく関心を示した。




『直接経験してきた生き字引のような存在から話を聞けるのはまたとない機会です。いまだ文書化されていない情報もあるかもしれません。しゃぶり尽くしましょう』




 というわけで、ティーエに命じられるがままひたすら質問を投げかけた。


 しつこく質問攻めにされてもニルフェンは嫌な顔ひとつせず、むしろ教え子が熱心なのがうれしいようで、丁寧に答えてくれた。


 そうやって古代ギリシアの哲学者のような魔法問答が渦巻きのように深化していく。


 ティーエの理解力は魔法の分野においてもやはりずば抜けており、その質問の鋭い切り口はときにニルフェンを驚かせることもあり、師弟のキャッチボールはすぐに専門的で高度な領域にまで踏みこむようになった。



 らしい。



 なおこの場合の師弟とは。

 師、ニルフェン。

 弟、ティーエ。

 である。


 そこにアッシュは含まれない。



 アッシュはかなりはやい段階でぜんぜん理解できなくなり、蚊帳の外に置かれるようになった。


 ニルフェンの語る深い知見を聞きとるためにただ耳を貸し、ティーエの考えぬかれた質問を発するためにただ口を貸し、そして記憶媒体としてただ脳を貸す。


 2人をつなぐ装置と化したのである。


 理解できない言葉のやりとりをつづけるのはおもしろくはなかったが、それはもう慣れっこともいえる。

 書物のページをひたすらめくりつづけるマシーン役とさして変わらない。


 退屈感が表情に出てしまっていたのだろうか、あるときニルフェンが不思議そうにしげしげと眺めてきた。


「キミはおもしろいね」

「え?」

「わたしの話をずっと興味なさそうな顔で聞いておきながら、深い興味がなければ出てこない鋭利な刃物みたいな疑問を口にする。まるで性格がちがう2人の教え子を同時に相手にしているみたいだ」


 ドキっとした。

 さすがにニルフェンは鋭い。

 この体に2つの人格が内在していることに気づかれてしまう。


 アッシュはあわてて眉間にしわを寄せ、真剣な顔をした。


「いいよ、ムリにまじめな表情をつくらなくても。べつに責めてるわけじゃないんだから。それがキミの個性なんでしょ」

「あ、あはは……」


 そのときはなんとか乗りきったが、危機はそれだけではなかった。




 ニルフェンは、復習をうながすためか、以前教えたことを急に抜き打ちテストしてくることがある。

 その問題すべてにアッシュが、というかティーエがすらすらと答えた直後のことだった。


 いつもならにっこりして「よくできました」と褒めるニルフェンがいつにない真顔になる。


「キミは本当に優秀だ。なにもかも1度で覚えてしまう。そればかりか、理論的な応用法まで思いつく。こんな人間はじめてだよ」


 アッシュはどう反応したものか困った。

 すべてティーエの手柄なので誇るのは違うし、かといって謙遜するのもなにか違う。


『わたしは褒められるのが好きです。このエルフ好きです』

(いま出てこなくていいから)


 アッシュが脳内でティーエを追い払っていると、不意にニルフェンが無言で顔を近づけてきた。



 心の奥まで見透かしそうな深い緑色の瞳でじいっと見つめられると、なんだか胸が高鳴ってくる。

 今の脳内会話も聞かれていたのでは、と不安になる。


「キミ、本当にサビーヌの子ども? ぜんぜん似ていないけど」


 ニルフェンが目を疑わしげに細める。


 その刹那、アッシュは心停止をおこすかと思った。

 自分ではわからないが、顔面蒼白になっていてもおかしくない。



 ニルフェンが自分によくしてくれるのは親友のサビーヌの子どもだからだ。

 もし、異物が混入していることを知られてしまったらこの関係は壊れてしまうかもしれない。

 それは嫌だ。


 心臓がばくばくと聞いたこともない爆音を立て、全身が心臓そのものになって世界に肯定をアピールしている気がした。


 しばらくすると、ニルフェンは微笑んだ。


「サビーヌとはぜんぜん違うね。あの子はなんど教えても覚えてくれなかった。しかも物覚えが悪いんじゃなくて最初から聞いてなかったんだ。失礼しちゃうよね」


 そうですね、と応じつつアッシュは心の底からほっとした。

 覚えすぎもよくない、と反省しつつ。

 これからは即答せず適度に思いだすフリを混ぜよう。




 そんな感じで冬は理解不能なつまらない問答と、正体がバレてしまう危険と隣り合わせのことが多かったけど、それだけではなかった。


 雪の降る寒い日のことだった。


 ロマノ村があるオレーヌ地方は王国でも比較的北側に位置するため、アッシュが住む山では冬によく雪が降りつもる。


 せっかくの悪天候を利用して「野外で寒さに対処する10の方法」の授業が行われていた。


 アッシュがいろいろと質問を投げかけていると、ニルフェンがくすくすと笑いはじめた。


「どうしたんですか?」

「あぁごめん。急に思いだしちゃったんだ。サビーヌと会ったときのこと」


 アッシュがせがんだのでいったん授業を中断して、ニルフェンは昔話をはじめた。

 なんでもサビーヌと出会ったのも雪の降る寒い日だったそうだ。


 サビーヌの生まれ故郷には大きな森があり、そこにはエルフの住む集落もある。

 自分の故郷というわけではなかったが、用があってそこを訪ねようとしていたニルフェンは森で迷っているサビーヌと出くわしたのだ。


「あの子もちょうど今のキミくらいの年頃だったよ」


 冬の森で子どもが迷う。

 ようするに遭難である。


 ところが生死の境目にいるはずの子どもは、自分のことを棚に上げてニルフェンを遭難者に認定してきたのだという。


 安全なところまで案内する、と主張してニルフェンの手を引いて先導しはじめたが、闇雲に歩きまわった挙句、元いた場所に戻ってきてしまった。


「見栄っ張りなところがあるのは昔からなんですね。そこは似てなきゃいいんですけど……」


 アッシュが母を思いうかべて苦笑いすると、ニルフェンは目にいたずらっぽい笑みをうかべた。


「優しいところはよく似てる」

「優しい? 遭難者のくせにあなたを引っ張りまわしたんですから、むしろ迷惑でしょう」

「キミのことだよ。一時期やけに付きまとっていたのは、わたしが村のひとに受け入れてもらえるようにって考えてくれたんでしょ」

「なんのことでしょうか」

「すっとぼけるんだ」

「すっとぼけてないです」

「嘘だね」

「嘘じゃないです」


 アッシュはすっとぼけ通した。



 結局、最初から迷ってなどいなかったニルフェンが森から連れだすことになったのだが、そのとき質問責めにあったらしい。


 どうやらサビーヌはニルフェンを自分より格上の上級遭難者と認定しなおしたらしく、質問内容はおもに「冬の野外で遭難しても死なない方法」についての質問だった。



「遭難しない方法じゃないんですね」

「それはもうあきらめていたんじゃないかな。しょっちゅう迷っていたようだし」


 その縁があって、サビーヌの一家は魔法の家庭教師をニルフェンに依頼した。


 サビーヌは魔法にはあまり興味を示さなかったため、授業ははかどらなかったが、2人は妙に気が合ったためこうして今でもこうして交友が続いているという。


「話がそれたね。さあ、授業に戻ろう」


 アッシュはこうして脱線したときの話が好きだった。

 いつまでも聞いていたいと思えるくらい。


 そうして訓練と授業の日々が過ぎていく。




 やがて、春が来た。


「さて。現時点でキミに教えられることはだいたい教えられたと思う」


 ニルフェンがそう告げた。

 別れのときである。



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