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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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 話は前後する。

 ニルフェンが村について滞在の準備をおえると、さっそく魔法指南がはじまった。


 記念すべき初講義はいつもの泉のほとりで行われることになった。

 だが、運悪く雨季特有のにわか雨が降りだしたので、アッシュは雨宿りの場所へ案内しようとした。


「待った。いい魔法があるよ」


 と、ニルフェンが杖をふる。


 一見なにも起こっていないように思えるが、たしかな異変が生じていた。


 目に見えない球形の膜のようななにかがニルフェンとアッシュを覆い、雨粒をすべて弾いている。

 しかも、その膜は空間に固定されているのではなく、2人の移動にあわせて追随するのだ。


「すごい。便利ですね」


 アッシュが拍手すると、ニルフェンは得意げになった。


「いいでしょ。これは【雨に濡れない魔法】。雨具を持たなくていいから荷物を減らせるんだ」


 これが最初に教わった魔法である。

 そのときは、便利な生活魔法だけど、用途がピンポイントすぎるのでそれほどたいした魔法とは認識しなかった。


 しかし、後日アッシュは知ることになる。

 この魔法は【雨に濡れない魔法】という名のちょっと便利な生活魔法などではなく、世間では違う名称で呼ばれ、戦闘にも用いられる重要な魔法だった。




 このように、ニルフェンは魔法をただ漫然と順繰りに教えるのではなく、実際に役立てるシチュエーションを選んで実演した。

 実践性を意識していたのかもしれない。

 おかげでアッシュは楽しみながらいろいろな魔法を知ることができたのだが、それと同時に、便利で生活を楽にしてくれるけど意外に地味だな、という印象をもった。


 このチョイスの偏りはニルフェンがいつも旅をしているからかもしれない。

 実際に旅をしていくなかでよく使う魔法を教えてくれるのだろう。


 もちろん、教えてくれたのは便利魔法だけではない。


「たしか、風魔法が得意なんだよね」

「はい」

「見せて」


 さっそくアッシュは気合いをいれてそよ風の魔法を披露する。

 凝縮された風の槍が岸壁に穴を穿った。


 ニルフェンは砕けた岩壁を見つめ、緑色の目をまるまると見開いた。


「すごい」

「すごい、ですか?」

「すごい。これならわたしが教える必要なんかないよ」


 くしくも母とおなじことを言われた。


「その年齢でこんなことができた魔法使いをわたしは知らない。何年も訓練した賜物だね」

「どうしてわかるんですか? 見ただけで練度を見抜けるんですか?」

「だって壁が穴だらけだし。あれを見れば誰でもわかるでしょ」

「あ……」


 同じものを見ても母はわからなかったのだが、とアッシュは苦笑した。


 ニルフェンはしばらく穴だらけの岩壁を眺めたあと、なにかに納得したようにうなずいた。


「からかわれたんじゃないね。ごめん。わたしが間違ってた」

「なにがですか?」

「例の育筋草の件。キミがその年齢でこれほどの威力の魔法を使えるのは、毎日魔法の鍛錬を続けていたおかげだ。魔養草で魔力を補充していなければ、これほどの鍛錬は続けられなかったはずだよ」


 ティーエに騙されて毎日魔養草を食べていたことを言っているのだ。


「感謝しなきゃね。その知り合いはキミのことを想っている。大切にするんだよ」


 ティーエの場合、動機は自分の都合なんじゃないだろうか。

 そう思ったけど、アッシュはうなずいた。




 ニルフェンは「一応ね」とひととおり戦闘用の魔法を見せてくれた。

 そのなかには目を疑うような派手なものもあったが、意外なことを言った。


「こんなの、ぜんぶを使えるようになる必要はないよ。キミはこのまま【そよ風】の魔法を磨いていけばいい。系統がおなじ魔法のほうが親和性が高いからね」

「でもいろいろ使えたほうがいいんじゃないですか?」


 これは反論というより不安感からくる質問だった。

 1つしか敵を攻撃する手段がないのに、そのままでいいなんて、ちょっと投げやりに扱われたような気がしたのだ。


 ニルフェンは「どう説明すればいいかな」と頭を傾けて、すこし考えこんだ。


「キミはどんな魔法使いになりたい?」 

「え?」

「多彩な魔法を華麗に操って最終的に負ける魔法使いと、攻撃手段は1つしかないけど最終的に勝つ魔法使い」

「勝つほうです」

「だよね。当然だ」


 ニルフェンはうなずく。


「これはわたしの自論というか、経験則みたいなものだからうのみにはしないでほしいんだけど」


 と、前置きする。


「わたしが出会ってきた強い魔法使いは、1つの魔法にこだわるひとが多かった。言ってしまえば不器用で愚直なタイプだ。でも、あれもこれもと多彩な魔法を駆使する器用な魔法使いは、最終的に愚直な魔法使いにいつも負けるんだ」

「なんでですか? いろいろ使えたほうが有利に思えるのに」

「さあ……なんでだろうね」


 ニルフェンはすこしだけ寂しそうな笑みをうかべた。


 そのときなぜか、アッシュはニルフェンが本当のことを言っていない気がした。


 もしかしたら、いろんな魔法を使えるニルフェン自身がそういう愚直な魔法使いに負けたことがあって、言いたくないのかもしれない。


「キミが最終的に勝つ魔法使いになりたいなら、これだけは誰にも負けないという得意魔法を見つけてそれを磨くんだ。でもキミはもう見つけているよね」

「はい!」

「幸運なことだよ。ひとによっては一生かけて探しても見つからないこともあるんだから」


 それからニルフェンは技術的なことをいろいろ教えてくれた。


 威力を上げる方法。

 逆に抑える方法。

 体を動かさずに素早く発動する方法。 

 範囲を広げる方法。

 同時に複数発生させる方法。


 そのような技術的なことについての訓練はさすがに難易度が高く、ついていくだけでも必死だった。

 アッシュは自分がどうしようもない落ちこぼれになってしまったような気分になった。


 ところが、ニルフェンは感心した。


「本当にすごいよ。1度見聞きしただけで覚えてしまうなんて」


 それはティーエのおかげなのだが、せっかく褒められたので黙っておくことにした。


『案外せこいんですね』


 脳内で響いたブレーンの皮肉は無視することとする。


「心配しなくていいよ。今はうまくできなくても、練習を続ければキミならそのうち使いこなせるようになる」

「だといいんですけど……」

「ただ1つ、すぐに直したほうがいいことがある」

「なんですか?」

「キミは高い魔力があるけど、どうやらそれを抑制するのが不得意みたいだ。これは致命的な欠点だ。魔力を消耗しすぎて魔酔になったらどうなるか、もうわかっているよね?」


 アッシュは嫌な記憶とともに深くうなずいた。


 体が麻痺したかのように鈍くなる。

 あれは、意識があっても気絶しているのと同じであり、致命的な隙をさらすことになる。

 あのとき助かったのは運がよかっただけだ。


「キミの場合は威力を上げることより抑えることをもっと学ばなきゃいけない。できるようになるまでは、補助具に頼ることにしよう」


 とニルフェンは指輪を取りだした。

 赤子のときに一時期つけていた、懐かしいそよ風の指輪に似ているがちょっとデザインが違う。


「これは魔法の威力を抑えてくれる【いい感じに魔法を調節する指輪】だ。しばらくこれをつけておくといいよ」


 またいいかげんな名称が出てきたぞ、とアッシュは苦笑いした。



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