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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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「あなたたちは古い偏見に毒されている!」


 と、言葉で村人に説得を試みるのはかんたんだ。

 しかしいい考えとは思えなかった。

 6歳の子どもにそんなことを言われてまともに取り合うひとがいるか疑問だ。


「エルフが絶世の美貌で子どもの心を盗んだだけだろ」


 などと、あらぬ偏見が新たに生まれるのが目に見えている。




 こういうときこそ慈愛を説く司祭様に相談したいところなのだが、運悪くイメリアは教団の用事で長期の出張に出ていた。


 そんなわけでアッシュはニルフェンのためにあることを徹底した。

 ロマノ村にいるとき、これみよがしにニルフェンにべったりくっついて行動したのである。


 エルフがとくに「子どもから若さを吸う」ことを好む、という迷信があるのなら、それを逆に利用してやろうと考えたのだ。



 ずっとエルフの近くにいるのになんともないところを見せつければ、すこしずつでもただの偏見とわかってもらえるのでは、と期待してのことだ。


 もちろん、どれほど効果があるかは自分でも疑わしいと思っていたし、即効性があるとも思っていなかった。


 とはいえ、ニルフェンのためになにかやりたかったし、今の自分にできることといったらこれくらいしか思いつかなかったのだ。




 すぐに効果が出た。

 と言っても、いい方向にではない。


 急にアッシュがどこに行くにもついてくるようになったので、ニルフェンが訝しみはじめたのである。


「えっとさ。買い物くらい案内してもらわなくてもいけるよ。商店の場所はわかってる」

「でもこの村けっこう広いですから!」


 とか。


「洗濯屋に洗濯ものを出しにいくだけだよ」

「途中で落としたら拾う役が必要ですから!」


 とか。


「毒虫が出るかもしれませんから!」

「今から着がえるんだよ。ついてこないで」


 ぴしゃりとドアを閉められた。

 宿の部屋にまでついていこうとするのはさすがにやりすぎだった。


 明らかにアッシュが必要以上に付きまとうようになったので、ニルフェンはあからさまに迷惑そうな顔まではしなかったものの、怪訝そうな顔くらいする。


「ねえ、お母さんに言われたの? ついていって世話しろ、って」

「違います。僕がニルフェンといっしょにいたいんです」

「そう……きみはなかなか変わった子どもだね」


 ニルフェンにヘンなやつだと思われてしまったのは心苦しかったけれども、これも必要な犠牲と思えば受け入れることができた。

 大事なのは、若さを吸うエルフと子どもがいっしょにいるところを周囲に見せつづけることだ。




 その甲斐があってか、しばらくすると遠巻きに見ていたディルがちょっとずつ距離を縮めてくるようになった。


 最初のうちは豆粒みたいな遠い距離にいた。


 それが、毎日数メートルずつ近づくようになり、10日ほどたつと通りを挟んだ建物の陰から様子を窺ってくるようになった。

 安全だと理解しはじめたのかもしれない。


 なんだかんだいって、ディルもニルフェンのことが気になってはいるに違いない。

 なにかもうひと押しできれば、偏見の壁が崩れそうだ。

 偏見は最初の分厚い壁さえ壊してしまえば後はすんなりいくものだ。



 そのことは、宗教家を自称する霊感商法の詐欺師が身をもって教えてくれた。

 無駄遣いを嫌い、スーパーの割引きシールをなによりも愛する母親を一度籠絡するや、病を癒やすとかいう怪しげな壺やネックレスのために財産を切り崩させて多額の金をまきあげたのだから。


 もう遠く、苦い記憶だ。


 ディルがそこまで近づいてくるとニルフェンもその存在に気づいた。


「ねえねえ、あの子ってさ、いっしょに剣の稽古をしている子だよね。いつも近くにいる。キミのことが気になるんじゃない?」


 いえいえあの子が気になっているのはあなたのことです、と言うわけにもいかない。

 エルフが若さを吸うと恐れていることまで言及したくはない。


 どう答えれば傷つけないか思案していると、ニルフェンが予想外の行動にでた。


「こんにちはー。こっちにおいでよ。アッシュがいっしょに遊びたがっている」


 手招きしてディルを呼んだのである。


 家屋の陰から顔だけ覗かせていたディルがびくんと驚いてきょろきょろと辺りを見回し、どうやら呼ばれているのは自分らしいと気づくと困った顔になった。

 出ていくか、逃げるか迷っているのかもしれない。


 驚いたのはアッシュも同じだったが、逆にチャンスかもしれないとも思った。


 ディルの性格はよく知っている。

 逃げるか、踏みとどまるかの選択を強いられたとき、逃げを選ぶような人間ではないのだ。


 案の定。

 ディルは観念したように物陰から出てきた。


 ディルは恐る恐るニルフェンに近づくと、ちょんと太もものあたりに軽く触れる。


 その指をじっと見つめてなにも変化が起こらないのを確認すると、こんどは手でお尻やお腹など、無遠慮に触りはじめた。


「この子はなんでわたしを触るの?」


 ニルフェンが困惑して、アッシュに助けを求める視線を送ってくる。


「きっと野生動物の儀式みたいなものでしょう。いいんですこれで」

「なにがいいのかわからないけど」

「いいんですこれで」


 納得いくまで触ると、ディルは自分の手足を確認し、最後に手で頬っぺたを挟みこんだ。

 そしてキリッといつものように強い目でアッシュを見る。


「なんともねーな。迷信にビビってるやつらってバカなんだな」


 どの口で言うんだ、とアッシュはあきれながら笑った。




 ディルは元から子どものコミュニティではボスだった。

 しかも、襲撃未遂事件を経て村の英雄に昇格している。


 そのディルが「おーいニルフェン!」などと気安く接するようになると、子どもたちにとっては安全宣言が発令されたようなものである。

 へたな大人が言い聞かせるよりよっぽど影響力があるのだ。


 自然と子どもたちは集まってきて輪を作るようになった。


 さすがに大人にはそこまでおおきな変化を求めることはできないが、ニルフェンと接するときの表情や態度に微妙な違いが表れるようになった。


 子どもたちが平然としているのに、いつまでもビクビクしているのが情けなくなったのかもしれない。


 ニルフェンと道で行きかうときに不自然に道を変えたり、そそくさと逃げるように立ち去る村人はほとんどいなくなった。

 親し気に接するわけではないが、挨拶くらいならするようにもなった。




 ようするに、ニルフェンは普通の旅人になったのだ。



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